COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

限りある地球に住む一地球市民として、微力ながら持続可能な世界実現に向けて情報や意見の発信を試みています。

エイモリー・ロビンス博士が原子力発電拡大は気候変動を悪化させると論評

2009-10-07 21:31:40 | Weblog
にほんブログ村 環境ブログ エネルギー・資源へ
-------------------------------------
目 次
 はじめに
 1.番組での原子力問題の導入
 2.原子力復活は注意深く捏造された幻想
 3.民間投資を呼ばない原子力産業
 4.世界には少数の原発推進派環境問題専門家もいるが
 5.北極圏自然保護区の石油掘削について
 おわりに
---------------------------------------------
はじめに
 先日、省エネと小規模分散型エネルギーを推奨するエイモリー・ロビンス博士についての記事を掲載しました。ここではロビンス博士が、温暖化問題を追い風にあたかも復権を遂げつつあるような原子力発電に否定的見解を述べている記事を紹介したいと思います。
元の記事は2008年7月16日に、北米650局以上で放送されている非営利独立系ニュース番組Democracy Nowで放送されたもので、ロビンス博士に司会者のエイミー・グッドマン氏がインタビューしています。この模様は英語ですが、こちらのサイトの動画中の45~59分で見ることができ、画面をスクロールダウンすると該当する部分のテキスト全文を見ることができます。以下にその抜粋を紹介します。全容は上記のサイトをご参照ください。

1.番組での原子力問題の導入
 当時、アメリカは大統領選挙予備選のさなかにありました。司会のグッドマン女史は、(a) ブッシュ大統領と共和党有力候補のマッケイン氏のいずれも、原子力発電拡大に積極立場をとっていること、(b) 民主党有力候補のオバマ氏は様々な代替えエネルギーの選択肢の一つに含めて研究する意向にあること、(c) 放送前に、エネルギー省高官ワード・スプロート氏が、ネヴァダ州ユッカマウンテンに建設中の米国最初の高レベル放射性廃棄物最終処分場の開設・稼働が、当初予定の1998年かえあ2020年にずれ込み、予算も580億ドルから900億ドルに上ると認めたことを伝えて、視聴者を原子力発電問題に方向づけをしてから、世界で最も影響力あるエネルギー問題思想家の一人として、また指導的原発反対論者としてロビンス氏を紹介しました。

2.原子力復活は注意深く捏造された幻想
 ロビンス博士は(アメリカでは)電力の石油依存は2%以下、石油の2%以下しか発電に使われていないので、石油危機にあって石油と電力は取り立てて関係する問題ではないと見ています。原子力は国産エネルギーとして最も潤沢にある石炭の代替えとして、あたかも気候変動問題回避に有効と看做されがちですが、ロビンス博士は原子力利用拡大が問題を悪化させるとの意見です。それは原子力が恐ろしく高くつくというごく簡単な理由によります。放送当時のウォール・ストリート・ジャーナルによると、原発建設コストは1年前の2~4倍に高騰しており、原発を買い増せば、ドル当たりでできる気候問題の改善が、安価で早く建設できる代替え策より1/2~1/10少なく、しかも1/20~1/40の速さでしかできないからです。代替え策とは、エネルギー利用効率の改善、大規模水力発電を除く小規模分散型発電、コジェネレーション・システム(コジェネ:燃料で発電する際に生じる排熱を冷暖房や給湯、蒸気などに利用する省エネシステム)です。従って原子力は、期待されるような気候問題や安全保障上の利益をもたらさず、石油とは無関係で甚だしく不経済なもので、「我々がしばしば耳にする原子力復活は実は起こっておらず、注意深く捏造された幻想である」とロビンス博士は明言しています。

3.民間投資を呼ばない原子力産業
 ロビンス博士は2006年のエネルギー事情と精査した市場のデータを比較しながら語りました。世界の原子力発電は旧式発電所の更新によって140万キロワット増加しましたが、この増加分は太陽電池による増加分より少なく、風力発電増加分の1/10、小規模発電(大型水力発電所を除く再生可能エネルギーと、産業におけるコジェネ)増加分の1/30~1/40に過ぎませんでした。小規模発電量は2006年に初めて原子力発電量を上回り、番組放送当時には世界の電力の1/6、新電力の1/3を占めるに至りました。12の先進工業国で小規模発電が全電力の1/6~1/2を占めており、もはや弱小電力ではなくなっているのです。世界で最も野心的な原子力計画を持つ中国でも、2006年末には分散型再生可能エネルギーによる発電が原子力の7倍に達し、7倍速く成長しています。2007年で見ると, アメリカ、スペイン、中国のいずれもが世界の原子力発電増加分を上回る風力発電量を増加させ、アメリカでの増加分は過去5年分の石炭火力発電増加分を上回っていました。大規模水力発電を除く再生可能エネルギーは710億ドルの民間資本を呼び込んだのに対し、原子力発電はゼロで、国庫負担により中央のプランナーに買われただけでした
 司会のグッドマン女史が、アメリカではこの状況が理解されておらず、最後の原発建設後30年を超え、知識が失われる前に建設を急ぐべきだとのマッケイン氏の主張に言及すると、ロビンス博士はそれはすでに現実の問題になり、若しアメリカで原発を建てるには、弱いドルでの輸入に依らねばならないだろうと語っていました。

4.世界には少数の原発推進派環境問題専門家もいるが
 世界には原子力発電推進に肯定的な著名な環境問題専門家がいるそうです。スチュワート・ブランド、ジェームス・ラブロック、パトリック・ムーア、ピーター・シュワルツの4氏です。うち2人はロビンス博士と旧知の間柄ですが、原子力発電が炭素を排出しないことからそのような見解を取っているのではないかとロビンス博士は見ています。炭素排出がないのは良いことですが、それだけでは十分とは言えません。原子力発電も核燃料サイクルで少量の炭素を排出するそうです。発電所の建設などでも排出があります。
 ロビンス博士は次のように述べています。我々は炭素排出せず、他の方法より早く安上がりなものを必要としている。再生可能エネルギーも、エネルギー利用効率化も、コジェネも排出がなく、原子力より早く安上がりである。気候変動が問題ならば、ドル当たり、また1年あたりで最善の方法を注意深く選ぶ必要がある。

5.北極圏自然保護区の石油掘削について
 原子力は輸入石油依存からの代替え選択肢の一つとして提起されましたが、別の選択肢である北極圏自然保護区での石油掘削について、ロビンス博士は以下のように含蓄の富む見解を語っています。
 北極圏自然保護区の掘削で得られるかも知れない高価な石油より50倍以上の多い低価格の石油を、石油利用効率改善によって何倍も早く獲得できる。デトロイトで燃費のよい車を作れば、サウジアラビア産原油を日産850万バレル見つけるようなもので、無尽蔵にあり、気候に無害で1バレル当たり12ドルしかかからない。しめて見ると、1バレル当たり平均12ドルのコストで1日当たり1400万バレルの石油節約になる。我々はデトロイト、シアトルなど、どこに石油があるかを正確に把握できる。石油会社が地の果てであるかどうかも分からない高い石油を掘削している時、誰かがデトロイトで安い石油を掘り当てたらさぞ当惑するであろう。最も可能性の高いところをまず当たるべきではないか。
 この考え方は、最近アメリカ石油地質学会やアメリカ石油研究所で非常に説得力あると受け止められたそうです。ロビンス博士はメジャーな石油会社のコンサルタントを35年も勤めているロビンス博士は、石油掘削が如何に高くつくかを彼らが理解しているのを熟知しているのです。北極圏自然保護区についても、1バレル当たり20数ドルだった時代ならいざ知らず、140ドルに上がっている好条件でも、掘削価格は石油価格より高騰しており、石油会社は興味を示さないのです。実際的に彼らが世界で掘削できるどの場所も、極度に遠隔で厳しい北極圏の環境より安上がりでリスクが少ないそうです。ブッシュ大統領が何故それを推進したか明らかでありませんが、安全保障上の理由からブレーキがかかりました。石油を南に送る唯一のトランス・アラスカ・パイプラインは、アメリカのエネルギーインフラで最も脆弱で、テロリストの最大の標的になる部分だからだそうです。

おわりに
 先日の記事に書いたように、ロビンス博士はBS1で放送された未来への提言の最後に、未来を開くキーワードとしてINTEGRATION(統合)を挙げました。社会を一つのシステムとして考え、全体が有効に機能するようにデザインすることの重要性を示唆する言葉でした。温暖化対策で炭素排出のない原発に追い風ともいわれますが、建設に要するコストと時間を考えれば、小規模分散型エネルギーの方が優っているとのロビンス博士の主張には、統合的にエネルギー問題を眺めた説得力を感じました。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« エイモリー・ロビンス博士が... | トップ | 11日夜はNHKスペシャル「原発... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初めまして (平山滋)
2010-09-21 21:21:48
こんにちは

こちらの記事を引用させて戴きました。
http://blogs.yahoo.co.jp/zaqwsx_29/26630569.html
“ 原子力は気候変動を悪化させる A・ロビンス(ロッキーマウンテン研究所) 2008 ( 関連記事 ) ”
 参考になりました。有難うございます。
返信する
平山滋さんにコメント御礼 (coccolith)
2010-09-21 22:14:12
ご丁寧にコメント有難うございます。
そちらもお訪ねしてみました。精力的に取り組んでおいでですね。残念ながら私のパソコンからではJavascriptを有効にしても、Yahooのブログにコメントを書き込めないので、この場を借りてお礼申し上げます。
返信する

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事