特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

初志甘徹

2014-03-08 08:48:35 | ゴミ屋敷 ゴミ部屋 片づけ
一月が行き、二月が逃げ、もう三月。
あれから、一年が経った・・・
そう、私が週休肝二日を始めてから。
昨年の三月からはじめて、何とか一年を通すことができた。

ルールは、一年前のブログに書いた通り。
日曜~土曜の間、任意で二日以上、酒を飲まない日をもうけるというもの。
簡単なルールだけど、これをやり通すのは、なかなか簡単ではなかった。

たった週二日、されど週二日。
現場がキツくて咽が渇きやすい春・夏は苦戦。
相当意識したため、何とか二日は死守することができた。
逆に、秋・冬は楽勝。
精神の低迷のため、飲みたい気持ちも高まらず、自然と飲まない日が多くなった。

飲まなかった日は、カレンダーに赤○印。
週の前半に赤丸を一つでもつけておかなければ、後半にプレッシャーがかかってくる。
何事もプレッシャーを嫌う私は、とにかく、週末になる前に週休肝二日を達成するよう努めた。
そして、赤丸が多くなるほど、達成感も増していった。

害といえば我慢のストレスくらいで、身体(健康)のことを考えると利のほうが大きい。
ただ、ストレスを侮ってはいけない。
これはこれで不健康の原因になる。
だから、ノンアルコールビールや炭酸水等の力を借りながら、少しでもストレスを抱えないで済むよう工夫しながら、これからも続けていくつもり。

そもそも、何かをやり通すことが苦手な私。
思い返してみると、三日坊主で放り出したこと、ちょっとした困難で挫折したこと、怠け心に負けて逃げたこと・・・キリがないくらい挙がる。
もっと、自分に厳しく、努力と忍耐ができる人間だったらよかったのに・・・
これまで、何度、自分で自分を恨めしく思ったことか。
だからこそ、誰に威張れることじゃないけど、週休肝二日をやり通せたことに満足している。


依頼者は、30代の男性。
依頼の内容は、部屋に溜めたゴミの片付けと清掃。
現場は、1Rのマンション。
男性の自宅だった。

約束の日時、男性は自宅で私の到着を待っていた。
部屋からでてきた男性は、何かの不安を抱えてか、羞恥心が膨らんでか、少し緊張オドオド気味。
それでも、私を部屋に入れなければ何も始まらないわけで、男性は、
「靴のままで構いませんから」
と、申し訳なさそうに私に通路を空けた。
しかし、部屋の状態は、私の予想よりも軽症。
床はゴミに覆われ一部たりとも見えていなかったが、ゴミにたいした厚みはなく、また異臭も軽度。
土足のまま上がるほどの惨状ではなかったため、私は靴を脱ぎ「失礼します」と一般の御宅と同じに上がり込んだ。

ゴミ部屋を片付けようと思い立つにあたっては、色んな動機(きっかけ)がある。
事例として多いのは、
家族・大家・不動産会社等の第三者に見つかってしまった
設備の点検等で第三者が部屋に入る事情が発生した
転勤・転職等で引っ越すことになった
というもの。
そんな中で、男性には急務の事情はなかった。
転職や転居の予定はなく、誰かが部屋に入る予定もなければ誰かに見つかったわけでもなかった。
ただ、
「このままだマズいことになると思いまして・・・」
とのこと。
やったことは賢明ではなかったが、その考えは賢明だった。

これまでのブログで何度となく書いてきた通り、ゴミ部屋は、放置すればするほど、長期化すればするほど状況は悪化し、その後始末が大変なことになる。
場合によっては、内装建材に深刻な汚損をもたらし、大きな工事が必要になることもある。
しかし、ある程度のところで行動を起こせば、後始末も軽易にすみ、内装建材も清掃で復旧できる。

幸い、男性の部屋は後者。
ゴミの中に食べ残しの食品や飲料はなく、作業は、比較的、軽易に済んだ。
また、内装の汚損も軽症。
建材に損傷はなく、簡単な拭掃除できれいになった。
キッチンシンク・風呂・トイレ等の水廻りは、結構な汚さだったが、何とかこれも清掃で復旧。
大事になることなく原状を回復させることができた。

「きれいにしてもらって助かりました」
「これからは、キチンとやります!」
と、男性は、明るい表情で私に代金を差し出した。
そして、深々と頭を下げた。

「そうですね・・・」
「二度とお目にかかるようなことがない方がいいですけど、またお役に立てそうなことがあったら呼んで下さい」
と、私は、代金を受け取りながら冗談を飛ばした。
そして、どこの現場にもある一期一会の余韻に浸りながら、現場を後にした。


それから、しばらくの月日が経ち・・・
ある日、憶えのない番号を映しながら私の携帯電話が鳴った。
「一年ほど前に部屋を片付けてもらった者ですけど、おぼえておられますか?」
電話の向こうは男性の声。
場所を告げられた私は、すぐに記憶を回復。
男性のことも部屋のことも、まるで昨日のことのようにリアルに思い出すことができた。

「またやっちゃいまして・・・」
男性は、せっかくきれいになった部屋に、またゴミを溜めてしまったよう。
一度目の作業で懲りたはず・・・
生活習慣をあらためることを決意したはず・・・
にも関わらず、再び、自宅をゴミ部屋にしてしまったようだった。

男性は、私の携帯番号を登録しておいたよう。
二度と関わるつもりがなければ、わざわざ登録はしないはず。
なのに、私の携帯番号をとっておいたわけで・・・
そこところに、私は、自分と類を同じくする人間味を感じ、そして、何ともいえない親しみを覚えた。

再び訪れた男性の部屋。
一年前と同じ部屋。当然、男性も同一人物。
ただ、前回とは違い、作業についてのこと細かい説明は省略。
男性も、質問らしい質問はほとんどせず、
「あとはヨロシクお願いします」
「終わったら電話ください」
と、旧知の友に頼み事をするかのように、アッサリと私に部屋を解放し、どこかへ出掛けて行った。

前回も重症ではなかったが、今回は、更に軽症。
ゴミの種類も前回同様で、特別な汚物はなし。
水廻りの汚染も、前回ほどではなかった。
ともない、作業は比較的短時間のうちに原状を回復させることができた。

「ありがとうございます・・・」
「今度こそ、キチンとやるつもりです・・・」
と、男性は、自身なさそうに私に代金を差し出した。
そして、深々と頭を下げた。

「そうですね・・・」
「もうお目にかかるようなことがなければいいですけど、また必要があったら呼んで下さい」
と、私は、代金を受け取りながら半分本気の冗談を飛ばした。
そして、この現場にしかない、人との関わりに心をあたためながら、現場を後にした。


二回目の作業から、もう一年半が経つ。
あのとき、
「また一年後に来ることになるのかな・・・」
と思う私だったが、今のところ、男性から連絡はない。

二度の片付けで懲りた男性は、気持ちを入れ直して生活をあらためたのかもしれない。
面倒臭がらず日々のゴミを分別して、キチンと出すようになったのかもしれない。
男性にとって、それは幸いなこと。
そのことを思うと嬉しくもあり、また、正直なところ、少し寂しいような気もしている。
が、まぁ、それでいいのだと微笑んでいる。


決意を貫けば、多くの甘味がもたらされる。
成功、成果、達成感、満足感、優越感、精神力etc・・・
しかし、人間というものは弱いもの。
そして、人生には、試行錯誤、紆余曲折、挫折頓挫、一進一退がつきもの。
理性に従うことが難しいときがある。

決意を貫けないのも人間。自分に甘くなるのも人間。
そして、決意を貫けないことにも味わいがある・・・甘味にはない妙味がある。
失敗、反省、後悔、不満、劣等感etc・・・そして、その後の向上心と自己革新。
そう・・・人生には、初志貫徹できたときの甘味と、初志貫徹できなかったときの妙味がある。

そう開き直らないと、私のような暗い人間には陽が差さない・・・
そう考えないと、私のような弱い人間は強くなれない・・・
そう信じないと、私のような甘い人間は辛い人生を生きていけないのである。



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