桜陰堂書店

超時空要塞マクロス(初代TV版)の二次小説です

暗闇坂(1)

2008-06-01 18:51:23 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 2月13日、非番の輝が昼食時にオペレーションルームの前で待っ
ていると、出て来た未沙とすぐ口論になった。
 「いい加減にして、輝!」
 「それは、こっちの言う事だ、未沙」
 「噂だって立ってるのよ、毎日毎日貴方と一緒に、ここに来るから」
 「いいじゃないか、そんな事」
 「良くありません、とにかく毎日毎日付きまとうのは、もう止めて!」
 「止めない!君が休むまでは」 
 未沙が輝の脇をすり抜け走り出す、輝もすぐ追いかけようとした、そ
の時、未沙の足がもつれて、壁にぶつかり、そして、転げるようにして
床に倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
 「未沙!」
 慌てて抱き起こそうとした時、ヴァネッサが飛んで来た、
 「一条大尉、今は動かさないで下さい、すぐ、救護隊を呼んできます
から」
 ヴァネッサがオペレーションルームへ走って行った。

 マクロスシティ統合軍医療センター、3階の小部屋に輝は居る。未沙
はすぐ集中治療室(ICU)に運ばれ、輝はこの部屋で担当医の来るの
を待っていた。
 3時間近く経った頃、ドアの開く音がして、白衣を着た五十位の男が
入って来た。
 「先生」
 「一条大尉だね」
 「そうです」
 担当医のヘンダーソン医師は自分の名を告げ、輝の前のソファに腰を
降ろした。
 「彼女に身寄りは無いのかな」
 「ええ、二年前のあの時に」
 「そう、君は、君は彼女とどう云う関係なの、変な意味じゃないよ、今
後の事を話し合うのに適当なのか聞きたいんだ」
 輝は、関係についてどう言えばいいか解らなかったが、とにかく出来
るだけ未沙の傍に居てやりたかった。
 「早瀬少佐は僕の上司に当たりますが、個人的にも・・・」
 「個人的にも?」
 やはり言葉が出なかった。
 ヘンダーソンが少し嬉しそうに言う、
 「そういう人が居てくれると助かるよ、この病気は。彼女は極度の疲
労、そして、それから来る神経の磨耗だね、簡単に言うと」
 「やっぱり過労ですか」
 「うん、過労だ。でもね君、過労を余り軽く考えたらいかんよ、彼女
はこれから三日間は面会謝絶だね、鎮静剤で眠らせて、少しでも疲労
を取る、多分、一週間もすれば身体の疲れの方は概ね治るだろう、で
も、問題はそれからなんだよ、神経の疲労の方がね、身体は簡単に治
せても心の問題はそうはいかない、一年掛かる時もあるし、もっと掛か
る事もね」
 「そんなに」
 「そんなに悪いんだよ、彼女は。でもね、傍に君みたいな人が居ると
ね、割と早く治ってしまう時もあるんだ」
 その時、ノックの音がした、
 「誰?」
 「クローディア少佐。早瀬未沙の親友です」
 「どうぞ」
 クローディアが入って来た、顔が少し蒼ざめているようだった。
 話は又、振り出しに戻ってしまったが、ヘンダーソン医師は気にする
でもなく、優しくクローディアに説明していた。

 暫くして、輝とクローディアはICUで寝ている未沙を見舞った、ヘンダ
ーソン医師から、ほんの少しだけという条件で許可をもらったのだ。
ベッドに寝ている未沙はやつれていた、まだ二十一なのに三十近くに
見える程だった、二人は静かに部屋を出た。
 二人は待合室の静かな隅に座って話しだした、入院中、身辺的な事
はクローディアが面倒を見てくれる事になったが、それ以外の事は輝が
(勿論、クローディアもだが)出来る限りする事にした、そして、クローデ
ィアが驚くような事を輝が話しだした。

 話が終わった時、クローディアが輝の手を握り締めた。
 「一条大尉、ありがとう、貴方がそこまで考えていてくれるなんて・・・、
未沙は幸せ者よ。今の話、聞かせてくれて嬉しいわ。でも何か、ロイの
事思い出しちゃったわ、私もロイにそうしたかった、でも、何も出来なか
ったわ」
 そこで、クローディアは泣き出してしまった。
 輝は静かにクローディアが泣き止むのを待っていた、やがて、クロー
ディアが涙を拭いてこちらを向いた時、
 「クローディアさん、僕、これからグローバル総司令の所へ行ってき
ます」
 「ええ、頑張ってね。私も一緒に行こうか」
 「大丈夫です、一人で行きます」
 「貴方も随分、大人になったのね」
 輝は急ぎ足で玄関に向かって行った。

 グローバルは、自宅で五日後に迫った復帰の準備をしていた。残念な
がら、彼の代理のマイストロフ中将の評判は悪かったーー全ての面で、
彼は余りに軍寄りだった、彼なりに精一杯やってはいるのだが、マクロ
スその他の防衛に気が行き過ぎ世間の事を後回しにし過ぎた。結果、グ
ローバルの復帰を望む声が、非難した民間の方に強く出ると云う皮肉な
事になっていたーーそして、防空隊への嵐も収まって来ていた。一つに
はカムジンの居た場所が南米で、防空隊の守備範囲のずっと遠くから来
た事が解った事と、防空隊の内情と労力が少し世間に解ってきたからだ
った。

 「一条大尉か、何だね、こんな時間に」
 「夜分遅く、突然お訪ねし誠に申し訳ありません、実は・・・、実は
お願いが有ってやって参りました」
 「一条大尉、私は今、謹慎中の身だ、願い事が有るのなら、フレデリ
ック少将か、マイストロフ中将に言うべきじゃないかね」
 「はっ、そうなのですが」、少し声が小さくなった、しかし、再び顔
を上げ真正面からグローバルを見た、
 「実は今日、早瀬少佐が倒れました」
 「早瀬君が!」
 「はい、極度の疲労と神経衰弱で」
 グローバルは少し考えた後、静かに言った、
 「解った、入りたまえ」

 グローバルの家を出た時、もう日付けが変わる少し前になっていた。
 輝を送り出す時、グローバルが言った、
 「私も面会の出来るようになったらすぐ行く。君に・・・君に期待して
るよ、一条大尉」

 輝が急いでクローディアの家へ電話を掛ける、
 「どうだった、奴さん相当怒ったでしょう」
 「ええ、まあ、越権行為なんてもんじゃないですからね、おまけにおね
だりまでするし」
 「で?」
 「大丈夫です、OKです。最初は相当怒鳴られましたけど、総司令も少
佐の事が心配でしょうがない様ですし、こちらも、色々カード渡しました
から」
 「ああ、あれね、でも、あれって結局は貴方達二人の為みたいなもの
よ、ちっとも譲歩になんかなってないわよ」
 「向うも、それは百も承知みたいですけど」
 「でも、これからどうやって未沙の心を解きほぐすか、上手くいけばい
いけど」
 「僕はこう云う事、クローディアさんも知っているように、上手くない
んですけど未沙は・・・、未沙は僕の大事な人だから、やれるだけやる
積りです」
 言葉が途切れた、
 「そうね、了解。明日も早いんでしょ、早く帰ってしっかり休んで」
 「解りました、クローディアさん、夜分遅く失礼しました、おやすみな
さい」 
 「おやすみなさい」