桜陰堂書店

超時空要塞マクロス(初代TV版)の二次小説です

はじめに

2008-06-01 19:23:40 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
  ようこそのご来店、有難うございます。
 ここは1980年代に放映された「超時空要塞マクロス」(初代)の二次小説のブログです。私なりに原作のイメージに忠実に作った積りですが(輝には少し大人になってもらいましたが)、イメージを損なうのが怖い方、またのご来店を、お待ちしています。
 話は第36話のカムジン体当たりの後から始まります、作話の都合上、あの名ラストシーンはカットしました(次作に、そのニュアンスは出します)、何卒、御容赦下さい。また、オリジナルキャラも少数ですが出てきます、それも又、御容赦下さい。
 (作中書いてませんが、ミンメイは炎のマクロスシティで輝と別れた後、置手紙を置いて出て行った事にしてあります)
 100%未沙派です、機械音痴の為、メカニカルなシーンはありません。
 本作は、異常に長いです、そのお積りで。長い、暗い、辛いが苦手の方は、長いエピローグ、もしくは、ハンプトン コートからどうぞ。(桜陰堂)

 お知らせ  第38話「たびたち ON THE WAY」を、「桜陰堂書店2」より、こちらへ移動しました。(H,21,5,10)



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超時空要塞マクロス 勝手に第37話「オン・ザ・ステップ」 作・桜陰堂

2008-06-01 19:02:02 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
       二者二様(1)     
 あの日、マクロスシティは完全に不意を突かれた、カムジンの戦闘艦
は統合軍の監視網をすり抜けシティに接近した。その為、シティでは約
6万5千の市民のうち、実に8千人を超える死者と1万4千の負傷者を
出すという大惨事になってしまった。
 「市民の皆さん、マクロスシティ全域において明日より2日間を服喪
の日と致します、この様な多大の被害を出してしまった事について、軍
は非常な責任を感じております。亡くなられた方々には心からの深い哀
悼を捧げると共に、怪我をされた方々にお見舞い申し上げます、そして
一日も早い御回復をお祈り致します。尚、入院、治療は軍が責任を持っ
て行います。私の責任については喪の明け次第発表する所存です」
 夜になり被害の実態が憶ろげながら判明してくると、グローバル総司令
はTVでこう発表した。
 また、統合軍マクロスにおいても被害は甚大であった。敵側はカムジン
、ラプラミズから末端の一兵士まで、どうにもならない状況への不満を
大爆発させたのか皆、捨身の攻撃を仕掛けて来た、誰一人、逃げなかっ
たのである。バルキリー隊は半分を失い、敵主砲直撃、体当たり攻撃の
為、地上防衛隊は実に7割、また艦内勤務の者達にも多くの死者と負傷
者を出してしまった。
 そして、今迄、奇跡としか考えられない事だったが、メインオペレーショ
ンルームからもついに死傷者が出た、士官、兵を含む8人の死亡、12人
の負傷者である、責任者である未沙の悲しみは深く、ショックは大きかっ
た。
 彼女は服喪期間中、朝から日暮れまで一人で残された家族の元を訪ね
た、時には冷たい視線にも合い、未沙の言葉に無言の者もいた。病院では、
さすがにそのような事は無かったが、意識の戻らない者、片腕を失ってしま
った者、皆、昨日まで明るく共に働いていた者達だった。
 未沙は解っているつもりだった、フォッカーを失った時のクローディアの
気持ち、統合戦争、星間戦争、彼女の周りで多くの人が亡くなり、残され
てしまった多くの人達の気持ちが解っているつもりだった、しかし、
 「私って、何だったんだろう」
 未沙は何度も呟いた。
 日暮れから夜遅くまで彼女はオペレーションルームに居た、復旧の指示、
各部署からの連絡、対応に追われ書類の山に忙殺された。
 そして、外回りの日々が落ち着くと一日中オペレーションルームのデスク
から動かなくなった、未沙は休むという事を忘れてしまっていた。

 グローバル総司令は軍、民間の首脳会議の席上、辞任を申し出たが、軍
側の強硬な引き留めと、他に適任者が居ない事もあって、大揉めの末、45
日間の謹慎処分、その間はマイストロフ中将が代理を勤めると云う事に落ち
着いた。
 
 オペレーションルームではシャミーとキムが日々の業務に追われている。
 「少佐、どうしちゃったのかしら」
 「ちっとも休まないのよね、やっぱりこの前の事、相当ショックだったみ
たいね」
 「でも、あれじゃ今に倒れちゃう」
 「鬼の少佐なんて言われてたけど、顔まで本当に似てきちゃってるわよね
、この頃」
 「あっ、ヴァネッサ。今、少佐の事話してたんだけど、あんたから少佐に
言ってよ、少し休むようにって、あれじゃ倒れちゃう」
 「私も、何回も言ってるんだけど、まるで聞く耳無しなのよ、「私は、大丈
夫」って、それでね、私、クローディア少佐の所にも行ってみたの」

 「少佐、少佐から早瀬少佐に言ってもらえないでしょうか,「少し休むように
」って、あれでは、いずれ倒れてしまいますし、、何かあった時の判断にも影
響が出る怖れがあります」
「そうよね、倒れるのは自分の勝手だけど、何かあった時、判断ミスしたら、
取り返しが付かないものね」
 「私も、そう思います」
 「私もね、何度も何度も言ったんだけど、あれでしょ、グローバル総司令か
ら言ってもらうといいのかもしれないけど、今は謹慎の身、閉門蟄居してるっ
てんだから」
 「マイストロフ代理司令から言ってもらうのはのは、どうでしょうか」
 「そうね、今日にでも言ってみるわ」
 「お願いします」
 「もう一人、本当の適任者が居るんだけど、あっちも、今、似たようなもの
だからね、でも、もう少しすれば頭が冷えてくると思うんだ、そしたら、あっ
ちの方からプッシュさせるわ、それ迄、何も無い事を祈るわ」
 「一条大尉の事ですか、最近、何か避けているみたいですけど」
 「彼女ね、きっと今、壁にぶつかってるのよ、自分に疑問持っちゃたのかも
ね、それで、ああ云う性格でしょ、もう自分を追い込んで追い込んで、解らな
くなっちゃってるんだと思うの私、でもね、そういう時って余り他人は役にた
たないのよね、自分で乗り越えて立ち上がるしかないのよね」
 ヴァネッサは少し驚いた、向こうを向いて話してるクローディア少佐の声が
少し潤んでいるようだったからだ。
 やや、間があってクローディアがまた言った、
 「今の彼女を助けられるのは一条大尉だけ、だから一刻も早く、彼の頭が冷
えて来るのを待ってるの」

 「へえ、クローディア少佐がそんな事を」
 「ええ」
 三人はお互いを見合って黙り込んでしまった。



二者二様(2)

2008-06-01 18:54:24 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
  そして一条輝である。ある意味、輝は未沙よりも辛い立場にあった、
グローバル総司令は何と云っても、あの大戦争を勝ち抜いたボスであり
、五万人を超える民間人と一年近く苦楽を共にして来たという共感が、
特にマクロスシティにおいて強かったのだ、そんな総司令と違い、輝は
士官とはいえ、一パイロットであり、世間ではグローバル程、雲の上の
存在ではなかった。
 カムジン襲撃から数日の間は、シティの人達の怒りは、軍とグローバ
ルに向かっていたが、それがいつの間にか防空隊へ向かって来たので
ある、防空隊にはグローバル程、遠慮は無かった。
「何で、毎日毎日、偵察飛行していたのに戦闘艦を見付けられなかった
んだ」
 「オノギシティの時も、カムジン達を取り逃がし、しかも、追跡に行か
かったと云うじゃないか、あの時、ちゃんと追跡していればこんな事にな
らなかった筈だ」
 軍としては深刻なパイロット不足の中、操縦技能はもとより統率力のあ
る一条大尉とマックス大尉は外せない存在だった、結果、彼らは放置され
てしまった。

 「多くの仲間を失い、また今、シティの人達からも色々言われている君
達にとって、今の状況は非常に辛いと思う、しかし、家族を亡くした市民
の悲しみを思って今は耐えてくれ」
 空軍最高責任者のフレデリック少将が、全バルキリー隊員を集めてそう
言ったのは事件の3日後、軍の合同葬儀の前であった。
 輝も又、未沙と同じ様に戦死者の家々を回った、ただ違うのは一人では
無く、小隊長あるいは小隊の同僚らと回った。
 未沙とは炎のマクロスシティで別れて以来会っていない、二人とも会う
暇など無かった、輝は合同葬儀の日まで泊り込んでいたし、未沙も同様
だった。
 初めて会ったのは合同葬儀の式典の時で、輝が未沙の席を訪ねた。
 「少佐、怪我はなかった?」
 「ええ。一条大尉、無事で良かったわ本当に、少し疲れているみたいね」
 「少佐も」
 周りに人も居たし、二人は小さな声で言っただけだった。
 未沙は防空隊の戦死者、負傷リストに輝の名が無かった事で生存は知っ
ていたし、輝も未沙が戦死者の家々を回っているのを仲間から聞いていた。

 服喪期間中に輝が作った、日々の偵察スケジュールは限界と云える程ハ
ードなスケジュールになった。何よりパイロットが居なかった、一週間でパイ
ロットの疲労は端から見ても解るようになってしまった。しかし、輝は予定を
変えなかった。

 その日の偵察を終え報告書を書いていると、ノックの音がした、
 「バーミリオン小隊長、松木少尉入ります」
 「どうぞ」
 「中隊長、お話があります」
 「何だ」
 「非常時なのは解りますが、今一度、スケジュールの変更をお考え頂けな
いでしょうか、皆、疲れきって、隊の雰囲気が悪くなっています、事故を起
こす前に何とか出来ないものでしょうか」
 「今は無理だ」
 「中隊長!」
 「今は・・・、松木、今は俺達が、がむしゃらに仕事をする、たとえ限界
を超えていても鬼のように仕事をする、その姿を見てもらうしかないんだよ
、多分。普通の人達は解らないだろう、空を見て「ああ、いつもの通りだ」
って思うだろ、でも、それでも、そんな姿をずっと見てくれていれば、いつ
か、少しは解ってくれるんじゃないかと俺は思ってるんだ」
 「でも、それ迄隊員達が持つでしょうか」
 「持たせてくれ松木、それが隊長の仕事だ」
 「・・・」
 「明後日12機、世界中から掻き集めたバルキリーと隊員が来る、以上だ」
 松木少尉が部屋から出て行く、明らかに不満なのは輝にもわかっていた。
 「今は、それしか無いんだよ」、輝が一人ポツリと言った。
 それから、報告書をもってオペレーションルームへ行った、未沙は報告書
を受け取ると、「了解しました」とだけ言って背中を向ける、輝もまた、「
失礼します」と言うだけだった。何か、今は前の様に話をする気になれない、
ヴァネッサが何か言いたそうだったが無視して輝は部屋を出た。

 1月20日、世界中から2機、3機と基地にバルキリーが到着する、パイロ
ットは皆ヒヨコばかりだった、どこの基地もパイロットは不足していたし、他
へ使えるパイロットを回す余裕は無かった。
 翌日からの勤務は、それ迄より一時間程短くなった、しかし、持ち場こそ狭
くなったが、距離が伸びた為、日々の疲労感にたいして変化はなかった。
 一月も終わりの頃には隊の中で喧嘩が絶えなくなった。

 2月2日、輝が滑走路入口にあるトイレの個室に座っていると何人かの隊員
が入って来た。
 「俺、もう辞めるよ、こんな仕事やってられるかい」
 「何か他にアテがあるのか」
 「何も無い、でも何やっても今よりマシさ」
 「そうだよな、俺もここのとこずっと考えていたんだ」
 「前はさ、もっと明るかったよな、準戦時ではあるけど、隊長達だって冗談
ばっか言って、楽しかったよな」
 「今じゃ、みんな目付き悪いぜ、特に中隊長、世の中に何一つ楽しい事は無
いって顔してるもんな」
 「知ってるか、中隊長、あのミンメイと噂が有ったって」
 「ああ、でも振られたんだろ、誰があんな無愛想な男といたがるもんか」
 「そりゃそうだ、アハハ」
 皆、出て行った、輝は・・・、輝は中から出て来なかった。
 そして、その日、輝は中隊長室に入ったまま帰らなかった。

 2月3日、午前8時、全バルキリー隊を集めた朝礼が始まる、全隊員とい
うのは最近珍しい事だった。
 台に輝が上がった、顔は昨日までと違い穏やかだ。
 「お早う、みんな。今日はみんなに謝ろうと思う。俺は、あの日からどう
かしていた、多くの仲間を亡くし、市民からも非難を受け、ただ君達の頑張
る姿を見てもらい、市民の人達に少しでも解ってもらおうと思っていた。で
もそれは間違っていた。亡くなった民間の人達、生きている民間の人達、亡
くなった仲間達、今、生きている君達、みんな同じ命だ、君達の命だけが軽
い訳じゃない、生き残った人達の命を守る、そんな大事な仕事の為には君達
が、ちゃんと元気でなければ結局、人は守れないと云う事を俺はすっかり忘
れてしまっていた、君達に限界以上の無理をさせてた、本当に済まないと思
う、許してくれ」
 隊員達が少しどよめいた様だった、
 「今日2月3日は、俺の生まれた日本で節分と云う行事のある日だ、これ
は悪い鬼を追い出し福を招き入れる行事で、まあ、鬼の格好をした者に豆を
ぶつけて追い出すと云うものなんだが、今日、仕事が終わったら、俺と各小
隊長達が鬼の格好をするから、皆、思い切り豆をぶつけてもらいたい、豆が
なけりゃ他の物でも構わないが、余り物騒な物は勘弁してくれ。小隊長達は
俺の巻き添えで悪いが、宜しく頼む。最後に、本日の乗務は15:00で終了、
明日は一日、スクランブル隊以外は全休だ、スクランブル隊は明後日休みと
する、そして以後の乗務は今より2割落とすつもりだ、以上」
 その日の夕方、隊舎では豆以外、いろんな物が飛んだ、鉛筆や消しゴムの
ような可愛い物から、コップ、ヤカン、灰皿、中には使用中の下着まで投げ
る者も居たが、隊舎は久し振りに笑いにつつまれた。

 騒ぎが終わり、一条大尉に戻った輝は報告書を持ってオペレーションルー
ムに行った。
 「はい、今日の報告書、異常なし」
 「解りました」
 未沙がいつもの様に、すぐにデスクに向かう、
 「少佐、少しお茶でも飲みませんか、疲れてるみたいだし」
 「私は結構、今、忙しいの」
 「少佐、少し休まないと。顔が尖がってますよ」
 「一条大尉、上官に向かってその言い草は何です、失礼よ」
 輝はヴァネッサを見た、
 「ヴァネッサ、何か俺の顔についているのか、変な顔して」
 「い、いえ別に」
 それから未沙に向かって言った、
 「少佐、本当に少し休まないと」
 「一条大尉、今、私は本当に忙しいの、帰って下さい」
 取り付くシマも無い未沙に少々ムカッ腹を立てながら、輝はオペレーション
ルームを出た。


 

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二者二様(3)

2008-06-01 18:53:42 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 その夜、輝の家をノックする音がした。
 「クローディア少佐」
 「ちょっといい、基地へ電話したら帰ったというから」
 「ええ、どうぞ、散らかってますけど」
 玄関のドアはいつの間にか修理が済んでいたが、掃除などする暇が無
かったので惨たんたるものだった、あれからずっと輝は家では軍から持っ
て来た寝袋で寝ている。二人は小一時間程、後片付けに専念する羽目に
なってしまった。
 「済いません、どうぞと言ってこれじゃ」
 「まあ、仕方無いわね、その内この貸しは返してもらうから」
 「はい」
 何とか座って話が出来るようになると、輝はコーヒーを入れた。
 「ちょっと古いけど、これしか無いもんで」
 「いいわよ、気を使わなくて、貴方も疲れてるんだから。実はね、今
日来たのは」
 「早瀬少佐の事ですか」
 「ピンポン!貴方もやっと人の事が見えるようになったみたいね、私
ね、貴方の方が早いと思ってた、何と云っても貴方の方がこういう事の
経験の量が違うものね」
 「未沙は・・・、早瀬少佐はあれからずっとあんな調子ですか」
 「ええ、休みも取らず、朝から夜遅くまで、今もまだオペレーション
ルームよ」
 「強制的に休ませたら?」
 「この前ね、マイストロフ代理司令から直接命令で休ませたの、そし
たら」
 「そしたら?」
 「次の日、オペレーションルームの改革案を30ページ位書いて持っ
て来たわ、それで、亡くなった人達の元へもお見舞いに行ったんだって」
 輝は答えられなかった、その姿はほんの昨日までの自分の姿だったか
らだ。
 「私ずっと待っていたの、ヴァネッサも、貴方が冷静になってくれる
のを。基地へ電話した時、聞いたわ今日の事、みんなから集中砲火受け
たんだってね。良かった、やっと一条大尉に来てもらえるって、その時
思ったわ」
 輝は少しの間、ドアの方をぼうっと見ていた、そして次第にぼうっと
していたものが焦点を結んで来るのを感じた。
 「僕やってみます、未沙を少しでも休ませます」
 「お願いよ、私の力が必要なら何時でも言って、すぐ駆けつけるわ」
 「有難うございます、少佐」
 クローディアが窓の方を見た、街灯の明かりで雪が舞っている、
 「私ね、ロイだけで充分なのよ、この上、未沙までなんて考えたくも
ないわ」

 午前7:30、未沙の家のチャイムが鳴った、軍からの迎えの車が来
たのだ、未沙がすぐにドアを開ける。輝が立っていた。
 「一条大尉・・・貴方、仕事は」
 「今日は隊員達は全休さ、僕は明日からのスケジュール組で基地に行
くけど、急がないから迎えに来たよ」
 「全休?」
 「昨日の報告書に書いといたけど、読まなかったの?」
 「あっ、ええ、貴方が異常なしって言うから。そういう重要な事は一
言有ってしかるべきよ、一条大尉」
 輝はそれには答えず、助手席のドアを開けた、
 「どうぞ、少佐」
 「人に見られるわ」、ちょっと未沙が躊躇する、
 「いいじゃないか、それに話したい事もあるのさ」
 「そう」
 車が未沙を乗せて走り出した。
 「ちっとも休まないって云うじゃないか」
 「クローディアから言われたの」
 「少佐ばかりじゃない、ヴァネッサもキムやシャミー、オペレーショ
ンルームのみんなが心配してるんだぞ」
 未沙は答えなかった。車は湖のほとりをマクロスに向かっている。
 随分経って未沙が口を開いた、
 「私、人の気持ちなんて、ちっとも解ってなかったのね、いつも人に
命令するばかりで、私の命令で何人の人が死んだのかしら、何人の人が
残されて泣いたのかしら」
 「未沙」
 「私の、私の今迄して来た事の報いよ。それに、こんな人の気持ちも
解らない人間が艦長になるなんて無理よ、私、もう一度最初からやり直
してるの」
 「そんな完璧な人間なんている訳ないじゃないか、未沙は優秀だよ、
超が付くくらい、君の他、誰がやったって今以上の犠牲が出てるさ、こ
れは何年も君の指示で戦って来た僕が言うんだから間違いない」
 「ありがとう、輝。でも、もっと違うやり方が有ったはずよ。あっ、着いた
わ。有難う一条大尉」
 輝は車を乗り捨て、未沙の後を追った、更衣室の前でも構わず未沙を
待って、オペレーションルームの入口まで説得した。
 「私はこれから仕事です、一条大尉、帰りなさい」
 「そういう命令に」
 「帰って!」
 オペレーションルームへ逃げるように未沙が走り込んだ。

 「どうだった」
 ここは、航行管理セクションのオペレーションルームである。
 クローディアは輝の顔を見るとすぐ言った。
 「相当重症ですね、メガロードの艦長、辞退するとまで言ってますか
ら」
 「そう」
 「でも、僕は諦めませんよ。今は、余りいい考えが浮かばないけど、
とことん粘って説得します」
 「頼むわよ、一条大尉」

 しかしその夜、輝は置いてきぼりを喰ってしまった、未沙は別の出口
から帰ってしまい、気が付いて慌てて家まで行ってみると、すでに電気
は消えていた。
 次の日から、未沙は輝がどんなに言っても後部座席にしか座らなくな
った。

 防空隊は一度伸ばした偵察範囲を元に戻した、そして危険度の低い地
域は2日に1回の偵察にして、隊員達の負担を少しでも軽くしていった。
又、伸ばしたり拡げたりするのは、いずれ来る増援部隊を待つ事にした。

 そして、ついに未沙の倒れる日が来た。



暗闇坂(1)

2008-06-01 18:51:23 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 2月13日、非番の輝が昼食時にオペレーションルームの前で待っ
ていると、出て来た未沙とすぐ口論になった。
 「いい加減にして、輝!」
 「それは、こっちの言う事だ、未沙」
 「噂だって立ってるのよ、毎日毎日貴方と一緒に、ここに来るから」
 「いいじゃないか、そんな事」
 「良くありません、とにかく毎日毎日付きまとうのは、もう止めて!」
 「止めない!君が休むまでは」 
 未沙が輝の脇をすり抜け走り出す、輝もすぐ追いかけようとした、そ
の時、未沙の足がもつれて、壁にぶつかり、そして、転げるようにして
床に倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
 「未沙!」
 慌てて抱き起こそうとした時、ヴァネッサが飛んで来た、
 「一条大尉、今は動かさないで下さい、すぐ、救護隊を呼んできます
から」
 ヴァネッサがオペレーションルームへ走って行った。

 マクロスシティ統合軍医療センター、3階の小部屋に輝は居る。未沙
はすぐ集中治療室(ICU)に運ばれ、輝はこの部屋で担当医の来るの
を待っていた。
 3時間近く経った頃、ドアの開く音がして、白衣を着た五十位の男が
入って来た。
 「先生」
 「一条大尉だね」
 「そうです」
 担当医のヘンダーソン医師は自分の名を告げ、輝の前のソファに腰を
降ろした。
 「彼女に身寄りは無いのかな」
 「ええ、二年前のあの時に」
 「そう、君は、君は彼女とどう云う関係なの、変な意味じゃないよ、今
後の事を話し合うのに適当なのか聞きたいんだ」
 輝は、関係についてどう言えばいいか解らなかったが、とにかく出来
るだけ未沙の傍に居てやりたかった。
 「早瀬少佐は僕の上司に当たりますが、個人的にも・・・」
 「個人的にも?」
 やはり言葉が出なかった。
 ヘンダーソンが少し嬉しそうに言う、
 「そういう人が居てくれると助かるよ、この病気は。彼女は極度の疲
労、そして、それから来る神経の磨耗だね、簡単に言うと」
 「やっぱり過労ですか」
 「うん、過労だ。でもね君、過労を余り軽く考えたらいかんよ、彼女
はこれから三日間は面会謝絶だね、鎮静剤で眠らせて、少しでも疲労
を取る、多分、一週間もすれば身体の疲れの方は概ね治るだろう、で
も、問題はそれからなんだよ、神経の疲労の方がね、身体は簡単に治
せても心の問題はそうはいかない、一年掛かる時もあるし、もっと掛か
る事もね」
 「そんなに」
 「そんなに悪いんだよ、彼女は。でもね、傍に君みたいな人が居ると
ね、割と早く治ってしまう時もあるんだ」
 その時、ノックの音がした、
 「誰?」
 「クローディア少佐。早瀬未沙の親友です」
 「どうぞ」
 クローディアが入って来た、顔が少し蒼ざめているようだった。
 話は又、振り出しに戻ってしまったが、ヘンダーソン医師は気にする
でもなく、優しくクローディアに説明していた。

 暫くして、輝とクローディアはICUで寝ている未沙を見舞った、ヘンダ
ーソン医師から、ほんの少しだけという条件で許可をもらったのだ。
ベッドに寝ている未沙はやつれていた、まだ二十一なのに三十近くに
見える程だった、二人は静かに部屋を出た。
 二人は待合室の静かな隅に座って話しだした、入院中、身辺的な事
はクローディアが面倒を見てくれる事になったが、それ以外の事は輝が
(勿論、クローディアもだが)出来る限りする事にした、そして、クローデ
ィアが驚くような事を輝が話しだした。

 話が終わった時、クローディアが輝の手を握り締めた。
 「一条大尉、ありがとう、貴方がそこまで考えていてくれるなんて・・・、
未沙は幸せ者よ。今の話、聞かせてくれて嬉しいわ。でも何か、ロイの
事思い出しちゃったわ、私もロイにそうしたかった、でも、何も出来なか
ったわ」
 そこで、クローディアは泣き出してしまった。
 輝は静かにクローディアが泣き止むのを待っていた、やがて、クロー
ディアが涙を拭いてこちらを向いた時、
 「クローディアさん、僕、これからグローバル総司令の所へ行ってき
ます」
 「ええ、頑張ってね。私も一緒に行こうか」
 「大丈夫です、一人で行きます」
 「貴方も随分、大人になったのね」
 輝は急ぎ足で玄関に向かって行った。

 グローバルは、自宅で五日後に迫った復帰の準備をしていた。残念な
がら、彼の代理のマイストロフ中将の評判は悪かったーー全ての面で、
彼は余りに軍寄りだった、彼なりに精一杯やってはいるのだが、マクロ
スその他の防衛に気が行き過ぎ世間の事を後回しにし過ぎた。結果、グ
ローバルの復帰を望む声が、非難した民間の方に強く出ると云う皮肉な
事になっていたーーそして、防空隊への嵐も収まって来ていた。一つに
はカムジンの居た場所が南米で、防空隊の守備範囲のずっと遠くから来
た事が解った事と、防空隊の内情と労力が少し世間に解ってきたからだ
った。

 「一条大尉か、何だね、こんな時間に」
 「夜分遅く、突然お訪ねし誠に申し訳ありません、実は・・・、実は
お願いが有ってやって参りました」
 「一条大尉、私は今、謹慎中の身だ、願い事が有るのなら、フレデリ
ック少将か、マイストロフ中将に言うべきじゃないかね」
 「はっ、そうなのですが」、少し声が小さくなった、しかし、再び顔
を上げ真正面からグローバルを見た、
 「実は今日、早瀬少佐が倒れました」
 「早瀬君が!」
 「はい、極度の疲労と神経衰弱で」
 グローバルは少し考えた後、静かに言った、
 「解った、入りたまえ」

 グローバルの家を出た時、もう日付けが変わる少し前になっていた。
 輝を送り出す時、グローバルが言った、
 「私も面会の出来るようになったらすぐ行く。君に・・・君に期待して
るよ、一条大尉」

 輝が急いでクローディアの家へ電話を掛ける、
 「どうだった、奴さん相当怒ったでしょう」
 「ええ、まあ、越権行為なんてもんじゃないですからね、おまけにおね
だりまでするし」
 「で?」
 「大丈夫です、OKです。最初は相当怒鳴られましたけど、総司令も少
佐の事が心配でしょうがない様ですし、こちらも、色々カード渡しました
から」
 「ああ、あれね、でも、あれって結局は貴方達二人の為みたいなもの
よ、ちっとも譲歩になんかなってないわよ」
 「向うも、それは百も承知みたいですけど」
 「でも、これからどうやって未沙の心を解きほぐすか、上手くいけばい
いけど」
 「僕はこう云う事、クローディアさんも知っているように、上手くない
んですけど未沙は・・・、未沙は僕の大事な人だから、やれるだけやる
積りです」
 言葉が途切れた、
 「そうね、了解。明日も早いんでしょ、早く帰ってしっかり休んで」
 「解りました、クローディアさん、夜分遅く失礼しました、おやすみな
さい」 
 「おやすみなさい」
 




暗闇坂(2)

2008-06-01 18:50:36 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 翌日、随分と輝の元へ電話が掛かって来ていた、その都度、輝は頭を
下げる、飛行時間以外、つまり中隊長室に居る時はほとんど頭を下げっ
ぱなしの一日だった。
 一日の業務を終え病院へ向かう。ヘンダーソン医師によれば、未沙は
薬による強制的睡眠によってではあるが、昨日より少しは落ち着いてき
たと云う事だった。ヘンダーソンとほんの僅かの間だがベッドへ行ってみ
ると、悪い夢を見ているのか唸されていた。輝が思わず声を掛けようとす
る、ヘンダーソンがそれを制し無言で首を振った。
 二人が部屋を出る、そのまま向き合うと輝はヘンダーソンに自分の希
望を話し出した。

 2月15日。朝、中隊長室に入ると、すぐ東部方面隊のマックス大尉か
ら電話があった。
 「一条大尉、どういう事です」
 「どういうって」
 「一条大尉がシティ防衛隊の隊長を辞めて、その後釜に僕とミリアだ
って内示、さっきフレデリックの親父から受けたんですけど、どういう
事なんでしょうか」
 「マックス、これ俺のすごい我儘を通させて貰ったんだけど、俺、3
月22日からVF-4の最終テストパイロットを志願して認めてもらった
んだ、アポロでの宇宙空間テストさ、それからメガロードの護衛隊長も
やらせて貰う事になったんだ、あれに乗ったら何年、もしかしたら10
年以上帰って来れないかもしれないだろ、それで、俺、ちょっと一ヶ月
休暇を貰ったんだ21日から、本当に突然で申し訳ないんだけど、何と
か引き受けてもらえないかな」
 それから、思い出したように付け加える、
 「あっ、メガロードの件はまだ秘密なんで誰にも言わないでくれよ」 
 かなり間があった、
 「マックス?」
 「フレデリックの親父、相当怒ってましたよ、「あの野郎」、あっ、これ
親父の言った言葉ですけど、「あんな我儘な奴だとは思わなかった」っ
て言ってましたよ」
 それから、少し笑いを含んだ声で言った、
 「大尉、解りました、ゆっくり休んで来て下さい・・・、それから、先輩
、少佐を宜しくお願いしますよ」
 「ちぇっ、相変わらず勘のいい奴だ」
 輝が胸の内で呟くと、プツッと電話がきれた。

 2月16日、午後3時の面会時間が始まると、すぐ、グローバルがや
って来た。
 「早瀬君、どうだね気分は」
 未沙が慌てて起き上がろうとする、
 「そのまま、そのまま。随分、苦労を掛けたみたいだね」
 「苦労だなんて総司令、私が至らないばっかりに、みんなに迷惑掛け
てしまって」
 未沙は顔を手で覆った。慌てて看護婦が言う、
 「総司令、済いませんが患者さんを余り興奮させないで下さい」
 「ああ、済まない」
 グローバルは暫く様子を見ていたが、やがて静かに言った、
 「どうやら、来るのが早すぎたようだね、近いうち、また寄らせても
らうよ」
 「済いません、総司令」
 未沙が半泣きのまま答えた。
 お陰で、オペレーションルーム代表で直後に来たヴァネッサは花束を
看護婦に渡して一言、声を掛けただけになってしまった。
 「ヴァネッサ、有難う、みんなに宜しく伝えて」
 未沙はヴァネッサの後姿に声を掛けるのがやっとだった。

 夕方近く、勤務を終えたクローディアが来た。未沙は点滴のチューブ
を付けたまま眠っている、又、鎮静剤を入れられたのだった。
 夜8時近くなってカップ麺と寝袋を持った輝がやって来た。
 「どうですか」
 「眠ってるわ、さっき先生が言ってたわ。今日はなるべく話し掛けな
いようにって、まだ不安定でちょっとした事で興奮してしまうからって」
 「解りました」
 輝が床に寝袋を置きソファに座る。
 「貴方は大丈夫なの?、引継ぎとか、今、大変なんでしょ」
 「まあ、日にちが無いですからね、昨日、マックスから電話があって、
少佐を宜しくって言われちゃいまいたよ」
 「相変わらず、察しがいいのね」
 「ええ」

 「輝、輝が居るの?、クローディアも」
 二人がベッドの側へ行く、クローディアが声を掛けた。
 「気が付いた」 
 「ええ」
 「どう、気分は?」、輝が聞く、
 「良くも、悪くもないわ」
 「未沙、そのまま目をつぶってなさいな、今は眠れるだけ眠って」
 未沙はそのまま力無く目を瞑って、向こうを向いた。
 随分と時間が経った頃、
 「二人共、もう遅いわ、今日はありがとう」
 クローディアがベットへ行って話し掛ける、
 「明日、また来るわ、ゆっくり休むのよ」
 「ええ」
 「それから一条大尉ね、貴女が退院するまで、泊り込みで看病するっ
て」
 「何で、私、そんなに重病人じゃないわ、一緒に帰ってもらって」
 「未沙、こんな時は人の好意を素直に受けるものよ。一条大尉はこん
な時、貴女を襲わないわよ。彼、夜も眠れない程心配してんの、傍に居
れば、彼も少しは安心して眠れるわ、じゃあね、また明日」
 クローディアがベッドの側を離れ、そして輝に言った、
 「じゃあ、後は宜しく」

 「困ります、私、これから外を歩けないじゃない」
 「早く外を歩ける様になるといいね」
 「今でも歩けます!」
 「俺、悪いけど食事するから、未沙はまた眠るといいよ」

 輝がカップ麺を啜っていると、未沙が静かに話し出した、
 「みんな私が馬鹿なのよ、オノギシティの時、変なヤキモチ焼いて、私
情で貴方を呼ばなかった、最初から貴方に召集を掛けていればオノギの
人達も死ななくて済んだかもしれないのに・・・、何て事しちゃったの、私」
 「あれは俺が悪いんだ、あの時の責任を言うのなら君じゃない、俺だ、
俺が悪いんだ」
 遮るように未沙が叫ぶ、
 「違うわ!、私よ!仕事に私情を持ち込んだ私よ!」
 また、未沙が泣き出した、号泣と云ってもいい程だった。
 「何やってるんですか一条大尉、患者を興奮させないように言ってある
はずです」
 病室のドアが勢いよく開いて、看護婦が飛び込んで来る。
 「す、済いません、そんな積りは無かったんですけど」、輝は小さい声
で答えた。
 再び薬が入れられ、未沙はまた眠った。
 その夜、何度も何度も未沙は唸されていた。 

 朝7時半、「行ってくるよ」と少さく声を掛けながら布団を直し、輝は病室
を出た。
 クローディアからのお達しで、オペレーションルームは暫く落ち着くまで
、誰も少佐への見舞いは行けない事になった。

 その日を境に、未沙の病室から殆ど人の声がしなくなった。クローディア
が来た時だけ、いくらか会話が有るだけで輝と未沙は互いに黙り合ったま
まになった。だが、輝の顔は、あの日の朝礼の時と同じく穏やかになって
いた。






 
 

暗闇坂(3)

2008-06-01 18:48:01 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 2月19日、午前7時、グローバルは9時からのTV放送に備えて早めに
総司令室に向かった、久々に会う顔は皆一様に綻んでいる。
 「総司令、お早うございます」
 「お待ちしていました」、露骨に言う者も居た。
 ドアを開けると、マイストロフ中将がデスク前のソファに座っている。グロ
ーバルを見ると立ち上がって敬礼した。

 マイストロフは負けたと思った。長い間、この男には負けたくないと思
っていたのだが。以前は芯はあるが、独断専行気味で、走りながら考え
ると云う所があり、何より、あの軽薄さが彼の気に入らない所だった。しか
し、あのゼントラーディとの突然の戦闘が始まり、数々の試練が彼を変え
た。以前は感じられなかった度量とでも云う様なものが付いた、それも大
きく、又、それにより落ち着きが増し、あの嫌いだった軽薄さが適度な軽
さになっていた。その間、自分は、自分はどうだったのだろう、階級こそ
上がったが中身は余り変わっていなかった事を、今度の事で痛い程解ら
された。
 マイストロフは素直に負けを認めた。

 「マイストロフ君、何でまた、こんなに早く」
 「ええ、めったに有る事では無いので、総司令室の居心地を名残惜しん
でおりました」
 「マイストロフ君」
 マイストロフがこちらに向かって来る、その顔は今迄見た事もない程、柔
らかだ。
 マイストロフがグローバルの手を取って言った、
 「グローバル総司令、お待ちしておりました」
 「マイストロフ君、苦労を掛けたね」
 「長かったですよ、45日間、実に長かったです」
 「君は・・・」
 マイストロフが手を離し姿勢を正しす、
 「引継ぎの書類はデスクの上に、全て揃えてあります、質問とか有りま
したら、何なりと仰って下さい」
 グローバルがまじまじとマイストロフを見た、その顔が綻ぶ。
 「コーヒーでも飲もうじゃないか、話はそれからだ、マイストロフ君」
 笑顔でマイストロフ中将が答えた、
 「はい、総司令」

 未沙は朝の回診の折、ヘンダーソンから、体力も回復して来たので、予
定通り明日の退院を言い渡された、その後は自宅療養と云う事だった、そ
して、少しずつ身体を動かしていくように言われた。

 9時からの会見で、グローバルは率直に反省の弁を述べ、世界各地の民
生の向上と、偵察衛星による各都市の監視能力の強化を約束した、最後に、
 「只今、軍は人類の文化を未来に残すべく、太陽系外への人類の移民を
計画しております。アポロ基地において建造中の超マクロス級戦艦を改造
し移住船とする計画を実行中です・・・」
 グローバルが、宇宙移民計画を発表した。

 軍の異動人事がメインボードに告示された。
 2月20日付
  マクロスシティ防空隊 隊長
    マックス大尉
  同、副隊長
    ミリア中尉(昇進)
  東部方面隊 隊長
    松木中尉(昇進)
 また、期間未定でヴァネッサ中尉がオペレーションルームの主任代理と
なり、シャミー少尉が早瀬少佐に代わり航空管制を指揮する事になった、そ
して、新たに航空管制担当補佐として、新人のピア・マディガン准尉が配属
された、あのシャミーに直属の部下が出来た。
 早瀬少佐は病気の為、一ヶ月の休職と発表された。



暗闇坂(4)

2008-06-01 18:47:16 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 輝は朝、「今日は仕事が重なってるから、少し遅くなるよ」と声を掛け
て出て行った。自分の退任の事や、送り出しパーティの事は何も言わな
かった。明日はマックスとの引継ぎで、それが終われば(ひと月の間だ
けだが)自由の身になれた。中隊長室の荷物はあらかた纏めてあるし、
それを持って帰れば終わりである。

 夕方、クローディアが来て未沙と退院の準備をした、彼女は明日、休
暇を取ってくれていて、未沙の退院の付き添いや、未沙の家の片付け
等をしてくれる予定になっていた。終わると、
 「じゃあ明日、お昼頃来るわね」、と未沙に声を掛けた。
 退院は午後1時、昼食を取ってから帰る事にしていた。

 夕食後、8時近くになってグローバル総司令がやって来た。
 横になっていた未沙が慌てて起き上がる。
 「大丈夫なのかね、起き上がって」
 さすがにパジャマ姿のまま総司令の前に立つ訳にいかず、そのまま
の姿勢で敬礼した。
 「はい、明日退院出来る事になりました、ご心配をお掛けして申し訳
有りません」
 「そうか、明日退院か、予定通りだね」
 「はい」
 グローバルがベッドの側へ椅子を持って来て座る、
 「大丈夫かね、起き上がったままで、横になっていいんだよ」
 「大丈夫です総司令・・・、あっ、遅くなりました、総司令復帰おめでと
うございます」
 「有難う」
 グローバルはパイプをポケットから取り出したが、病室である事に気
付き、それを握りながら話し出した。
 「早瀬君、君はあさってから一ヶ月休職になる、その間、ゆっくり養生
するんだ」
 「一ヶ月?総司令、大丈夫です、一週間もすれば仕事に行けます」
 グローバルが無視して話を変える、
 「君とも長い付き合いになったね、初めて会ったのは東京で、まだ君
がこんな小さかった時だ。君のお父さん、お母さんには親しくして頂い
て、本当にあの頃は楽しかった良い思い出だよ。君にも「小父さま、小
父さま」って呼ばれて遊んだのだが、憶えているかね」
 「ええ」
 「私は、君のお父さんには相当の恩義がある、それなのに君を、あん
な戦争に巻き込んでしまい、更に、ここ何年もずっと君を酷使してしまっ
た、その上、今度はその恩義ある人の娘を遠い宇宙にまで行かそうと
している、君のお父さん、お母さんには本当に済まないと思っている」 
 「総司令、それは違います、私は自分の意思でマクロスに来ました、
総司令には何の責任もありません」
 「相変わらずだね早瀬君、そういう所はお父さんにそっくりだよ」
 未沙は黙り込んだ、暫くすると、その目から涙が零れてきた、未沙が
窓の方を向く、その肩が震えてる、
 「済いません、父の事や昔の事を思い出してしまったもので」
 小さい声で未沙が言った。
 「悪い事を言ってしまったようだね、ううむ、ちょっと作戦を間違ったみ
たいだな」
 グローバルは落ち着いて未沙が泣き止むのを待った。
 「取り乱して済いません、総司令」
 「いいんだよ、そんな事は」
 「総司令、私、先日お伺いしたメガロードの件、勝手を言って申し訳
ないのですが、辞退させて下さい」
 「何でだね」 
 「何でって、今の私にはそんな資格はありません」
 「・・・」 
 「私、生意気ですけど、仕事についてはそれなりの自信がありました
、それは足りない所も有ると思いましたが、それも、いずれ努力してい
けば克服していけると思っていました」
 少し気を落ち着かせるようにして、そして俯いて言った、
 「でも、それは違いました。私は・・・、私は人の気持ちを考えない、た
だの機械だったんです、ただの命令する機械だったんです」
 そこで又、堪え切れずに激しく泣き出した、泣きながら未沙が訴える、
 「お願いです、メガロードの事は辞めさせて下さい、もうダメです」
 部屋の騒ぎで看護婦が入ろうとすると、グローバルが目顔で部屋を出る
ように言った。
 ドアが静かに閉まった。

 グローバルは肩を抱いて未沙をベッドに寝かせ、そして、辛抱強く待
った。
 少しずつ、未沙の興奮が収まっていく。
 随分経ってから、グローバルがいつものゆっくりした口調で言った。
 「一条大尉がメガロードの護衛隊に志願したよ、早瀬君、ぼやぼや
してると、一条大尉だけ行ってしまうぞ」
 「・・・」
 「早瀬君、私は思うんだが、自分を信じられなくなった時は、辛いだ
ろうが、まず人を信じてみる事だ、クローディア君、一条君、君の周り
には信じるに足る人が沢山居るじゃないか、まず、誰かを信じてみる
事だ、どうかね?」
 そこで少し間を置いて、また言った、
 「私は待っているよ、君が帰って来るのを、まだ時間はある、それま
ではゆっくり休む事だ」
 未沙が布団を被るようにして向こうを向く。
 グローバルが最後に言う、
 「今日は君にまた、小父さまと呼んで欲しかったんだがね」
 グローバルは立ち上がり、静かに部屋を出て行った。

 その夜、9時過ぎになって輝が帰って来た、ドアを開けると未沙は
ベッドで向こうを向いている。起きているようだったが「ただいま」とだ
け言って、いつもの様に静かにソファに寝袋を拡げ休む仕度をした。


暗闇坂(5)

2008-06-01 18:46:39 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 退院の日の朝が来た、空は晴れているようだった。輝は未沙を起こさ
ないよう、なるべく静かに身の回りの物をバッグに詰め、回りを見回し
「これで全部だな」と呟くとベッドの側に行った。
 未沙は目を覚ましている、 
 「御免、起こしちゃったかな」
 未沙はぼんやりしていた、輝が病室のカーテンを開ける、
 「未沙、いい天気だよ、今日は夕方、君の家へ行くよ、クローディアさ
んと三人で退院祝いをやろう」
 未沙は輝を見ていたが何も答えない。
 「じゃあ、行って来るよ」
 優しく声を掛けると、輝は寝袋を担ぎバッグを手に部屋を出て行った。

 マックスへの引継ぎは、思ったより時間が掛かった、おまけにフレデリ
ック少将がやって来て、1時間程、司令室でこってり油を絞られた。
 「やれ、やれ」
 司令室を出ると輝は溜息をついた。もう、すでに昼近くになっている、
その日になってみると、案外やる事の多いのに気が付いた。食事を摂り
、1時過ぎ、事務方の職員が昼食から帰って来た頃を見計らって挨拶に
行った。
 「一条大尉、今までお疲れ様でした」
 「また、遊びに来て下さい」
 こちらは皆、快く送り出してくれたので、輝はいくらかほっとした、いく
つかの部屋を回り、それから、今はマックスの中隊長室へ行き纏めてあ
った荷物を運び出す、慌てて内勤の者が輝を手伝ってくれた。
 「今迄、お世話になりました、有難うございました」
 入口のゲート脇の守衛室に入って最後の挨拶を済ませると、輝と荷物
を乗せたジープはゲートを出た。輝がすぐ振り返る、遠くにバルキリーが
見えた。

 5時近くなって、やっと輝がやって来た、あらかた部屋の整理はついて
いて、クローディアが夕食の仕度をしている。未沙は疲れて部屋で横にな
ってるという事だった。
 「済いません、遅くなっちゃって、思ったより手間取っちゃって」
 「いいのよ、それより貴方、荷物はまだなの?」
 「済いません、それなんですが、もう少し時間を貰えませんか。隊から
持ってきたのを入れたら、家の中ごちゃごちゃで、少し整理してこっちへ
来たいんですけど」
 「なるべく早くね、パーティ始めちゃうわよ」

 6時を過ぎても輝は帰って来ない、テーブルの上にはクローディアの手
料理が並んでいる。
 「遅いわね、一条大尉は」
 「もう、始めましょう、待つ事なんかないわ、冷めちゃうわ」
 その時、車の停まる音がした。何か玄関脇にドサッ、ドサッと物を置く
音がして、ほんの少し間があってチャイムが鳴った。
 クローディアが出る。
 「遅いわよ、一条君」
 輝は両手一杯に、どこで買ってきたのか花束を抱いていた、
 「遅くなって済いません、ちょっと、寄り道をしてたもので」
 輝は、自分と花束というアンバランスに気が付き、少し顔を赤くして言っ
た、 
 「あの、これ未沙の退院祝いに」
 「まあ、私、すっかり忘れてたわ、有難う」
 クローディアが未沙の方を振り返って言った、
 「一条君がこんなに一杯花を買って来てくれたわ、それで遅れたんだっ
て」
 輝が入って来る、
 「未沙、退院おめでとう」
 「ありがとう、輝、それにあんなに沢山のお花、嬉しいわ」
 相変わらず表情は乏しく、声も力が無かったが、その固い表情にほんの
少し嬉しさがあるような気がして、輝はほっとした。
 女達は急いで花を分け、いくつもの花瓶に差して飾った。
 お陰で、料理がすっかり冷めてしまい、温め直す羽目になった。ようやく
三人がテーブルに着く。
 「未沙、一杯だけならいいわよね」
 クローディアが言った、
 「おかえりなさい」
 グラスの触れ合う音がする、
 「ありがとう、クローディア、輝」
 未沙が精一杯の笑顔で答える。笑顔と云えるかどうか解らない程だった
が、それでも、あれ以来最高の顔だと、二人は思った。

 食事はクローディアの問い掛けに「ええ」とか「そうね」と未沙が短く答え
るだけだったので、静かに進んだ。輝は、あえて未沙に話し掛けなかった、
輝は未沙が自然に自分から心を開いてくれる時を、いつまでも待つつもり
でいた、こちらから力任せに未沙の心を動かそうとすれば、きっと彼女は
より一層、自分の殻の中へ入ってしまうだろう、今は、それが何時になる
か解らないが、彼女が自分から動き出す、その時まで、静かに待つのが
一番いいと思っていた、それまでは、ただ未沙の傍にいて、出来るだけ温
かい気持ちでいようと思っていた。

 「クローディアさん、僕、久し振りに美味いもん食べましたよ、ここんとこ
ずっと隊食とインスタントばかりでしたから」
 三人で食後のコーヒーを飲んでいる時、輝が言った。時計は9時近くに
なっている。
 クローディアがカップを置く、
 「さてと、私はそろそろ帰るわ、一条君、後片付けはお願いするわ」
 「はい」 
 「あら、いいわよそれくらい。それくらい私がやります」
 「未沙、一条君ね、今日からここに泊り込むの、炊事や掃除は全部彼が
やってくれるわ」
 「何ですって!何言ってるの」
 「そういう事よ」
 「ふざけないで、女一人の家に泊まり込むなんて、そんな、貴方正気なの」
 未沙が振り向いて言うと、クローディアが後ろから言った
 「未沙、今の貴女を一人にして置ける訳ないじゃないの、これは先生との
約束なのよ、普通だったら一ヶ月は病院住まいよ、貴女は。一条君が面倒
を見ると云う事で先生も許可をくれたのよ」
 「じゃあ、クローディア、貴女が居てよ」
 「残念でした、私は明日から仕事、24時間貴女のお守りはできません」
 「輝だって」
 「彼ね、明日から一ヶ月の休暇貰ったんだって、それで先生から許可が
下りたのよ」
 未沙が輝に近付いた、
 「貴方、中隊長の仕事はどうしたの」
 「今日から、この地区の担当はマックスになったよ、東部は松木がやる
事になった。それから、今日増援が6機来てね、3機ずつ振り分けたんだ
けど、僕の替わりに6機さ」 
 「そんな事でいいの、輝」
 「いいんだよ、軍から正式に許可を貰ってる、それに、休みが明けたら
アポロ基地でVF-4のテストパイロットさ」
 輝は未沙の横を通り抜けると玄関を開け、それから大きなバックやら段ボ
ール箱やらを運び込んで来る、最後に見慣れてしまった汚い寝袋まで持ち
込んだ。
 「僕は、あそこのソファで寝るから気にしないで、心配なら部屋の鍵をしっ
かり掛ければいいさ」
 「心配って」
 未沙は怒ったように寝室に行き、ドアを閉めた。
 鍵の掛かる大きな音がした。

 輝がクローディアを外まで送って行った、
 「一条君、さっきね、食事前なんだけど、未沙が部屋から出て来てね、
きょろきょろしてると思ったら、私に「輝は?」って聞いたの、もしかしたら
、あと少しなのかもしれない、。だから今は出来るだけ優しくしてあげて、
未沙みたいな意地っ張りには、それが一番いいのかもしれないわ」
 「ええ、そう思います」
 それから、思い出したように自分のポケットから小さな箱を取り出し、
輝のポケットに入れた。
 「いつか、きっと必要よ」
 クローディアが歩き出した、輝は窓の光でそれを見て、慌ててポケット
にそれを仕舞う。
 「でも、そんな事ばかり考えてちゃ、駄目よ」
 クローディアの投げ付けるような声がした。

 部屋に戻った輝は、早速、後片付けを始めた、マクロスに来るまで、ずっ
と男所帯だったり一人旅の生活だったので、こう云う事は余り苦にならなか
った。
 後片付けが終わると、輝は未沙の部屋の前に立って言った、
 「先生から、朝晩の検温だけは忘れないでくれって、体温計預かってきた
んだ、休んでいる所悪いんだけど、手だけでいいから出してくんないかな」
 暫くして、部屋の中で動く気配がした、鍵を開ける音と同時にドアが少し
開き、手だけが出て来た。 
 「ちゃんとメモだけはしてくれよ」、そう言いながら体温計を渡す。
 再び鍵の閉まる音がしたので、輝が言った、
 「未沙、寝てしまうのならシャワー借りるよ、何か都合の悪いものないよ
ね」
 返事は無い。
 輝はシャワーを浴び、寝袋へ潜り込んだ。やっと長い一日が終わった。

 



一番鶏(1)

2008-06-01 18:44:40 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 「未沙、朝食の時間だよ」
 輝が部屋をノックして声を掛ける、
 「何も喋らなくていいからさ、冷たくなると美味しくなくなるから、とにかく
食べてくれないかな、待ってる」
 輝が椅子に座って待っていると、暫くして、部屋のドアが開いた、そのま
ま未沙は洗面所に向かい、随分経ってからテーブルへやって来た。厚手
のジャージにやはり厚手のカーディガンを羽織っている。
 「お早う」、輝の声に未沙は軽く頷いただけで、黙って椅子に座った。
 トースト、ハムエッグ、サラダ、コーヒー、ありきたりの朝食だったが、未
沙が久し振りに自宅で食べる朝食になった。

 夕方、輝が部屋の中に声を掛けた、
 「晩飯の買出しに行って来るよ」
 やがて、玄関の閉まる音がした。
 
 暫くすると、未沙が部屋から出て来た。玄関まで行きチェーンを掛ける、
そして、テーブルの椅子に腰掛け、辺りを見回した。キッチンは結構きちん
と片付いているようだった、ソファの前のテーブルには何か綴じたレポート
のようなものが4,5冊置かれていて、ソファには寝袋が枕がわりに置いて
ある、あれを枕に何か読んでいたみたいだった、また寝袋を見た。そのまま
じっと汚い寝袋を見ていた、未沙の疲れた頭の中にグローバルの声が聞
こえてくる、
 「早瀬君、辛い時は人を信じてみる事だ」
 「君の周りには信じるに足る人がいっぱい居るじゃないか」
 未沙は長い間そこに居て、やがて又、チェーンを外し部屋へ戻った。

 夕食はカレーだったが、相変わらず黙り合ったまま食べていた。輝が食器
を洗い終わる頃、未沙が部屋から出て来て、弱い声で輝に声を掛ける、
 「シャワーを使います、こちらには来ないで下さい」
 「了解、じゃあ僕は少しジョギングでもしてくるよ」
 急いで着替え、輝は飛び出した。
 「しまった」
 二月のアラスカだった、外は一面カチカチに凍っている、今更戻る訳にい
かず、輝は仕方なく、そこらを散歩する羽目になった。

 あくる日、午後の休憩時間を見計らって輝は外からクローディアへ電話し
た、
 「少佐、お仕事中済いません」
 「どう、調子は」
 「まあ、今の所余り変わりありません。ところで少佐、未沙の好きな食べ
物知ってますか」
 「好きな食べ物?」
 「ええ」
 クローディアが軽く吹き出すのが電話でも解る、
 「そうねえ、彼女、あの歳でハンバーグなんて子供みたいのが好きなのよ
、お役にたって?」
 「有難うございます、少佐」
 電話が切れる。
 「まるで、オママゴトね」
 クローディアは受話器を置きながら笑った。
 
 輝がソファに横になり、買ってきた料理本を熱心に読んでいる、やがて、
メモ書きを握り締めると再び外へ出た。

 夜、未沙はテーブルに来て少し驚いた様だったが、そのまま黙って食べ
出した。輝は自分の研究成果に結構満足していたが、相変わらず未沙は
何も言わない、ただ、今までより一生懸命食べているような気はした。
 コーヒーを飲み終わる頃、未沙が下を向いたまま小さな声で言った、
 「美味しかったわ、輝」、それだけ言うと、カップを置き急ぎ足で部屋へ入
って行った。

一番鶏(2)

2008-06-01 18:43:54 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 2月23日、午後から雪。
 輝が夕食の後片付けをしてると、未沙がシャワーを使うと告げに来た。
 お皿を拭きながら、スコップの在りかを輝が尋ねる、
 「何をするの?」
 「表の雪かきさ、凍らない内にやった方が楽だからさ」
 「そんな事しなくていいわ、この辺りは士官、将校地区だから、明日の朝、
軍が機械で退かしてくれるわ、それに、そんな事してたら、みんなの目を引
くわ」
 「でも今夜歩く人もいるし、雪除けしといた方が歩きやすいだろ、それに少
し運動不足だからね、丁度いいんだ」
 未沙が黙り込む、暫くして、
 「裏の小さな倉庫の中に有るわ、鍵はその青い札の付いてるのがそうよ」
 それだけ言うと、輝に背を向け部屋へ戻って行った。
 急いで輝が食器を片付けだした。
 
 家の周りの雪掻きを終え家に戻ると、すでに未沙は部屋へ入っている。
 ソファの上には布団とクッションが置かれていた。 
 「未沙、有難う」
 輝は大きな声を掛けてからシャワーを浴びた、戻って来た時、また軽く声
を掛ける、
 「未沙、ちゃんと検温してる?、忘れると先生に怒られるよ」
 思いがけず中から声がした。

 「輝、少しいいかしら」
 輝がドアを開け恐る々々中へ入る、未沙はベッドに横になっていた。
 化粧台の椅子をベッドの側へ持って行き、輝は座った。
 「何だい?」
 輝の問い掛けに未沙が話し出す、
 「輝、ありがとう、何から何まで・・・、何もしなくて御免なさい」
 「いいんだよ、そんな事」
 「ねえ輝、貴方から言ってもらえないかしら、総司令に」
 「総司令に?、何を?」
 「この前、入院してる時、総司令が来てくれたの。その時、総司令が私に
言ったわ、待ってるって、私が艦長になるのを。でも、やっぱり無理、私に
は無理だわ。それに早く次の人を決めないと、計画も遅れてしまうわ」
 「どうして無理なの」
 「解らない?、私は人の気持ちの解らない人間なのよ、さっきだって、貴
方が人の事を考えて雪を除けるって言ったでしょ、私、そんな事考えもしな
かったわ、あれは軍のやる事だって、頭から決めていた」
 「あれは、君がシャワーを使っている時、部屋に居ずらいから、咄嗟に言
っただけだよ」
 「違うわ、そういう思いがあるから、思い付くのよ。私みたいな人間が艦
長なんてやったら、みんなが・・・、みんなが不幸になるわ」
 黙って考えていた輝が、やがて口を開いた、
 「未沙、僕はそうは思わない」
 「何で」
 「未沙は、人の気持ちを理解出来ないとか、責任とか言うけど、人間の
出来る事なんて知れてるんじゃないかな。僕達は神じゃないんだ、全ての
事が解ったり、全ての事に責任を負うなんて出来る訳ないんだよ」
 「・・・」
 「未沙も僕も人間なんだよ、間違いをしでかす人間なんだ、能力以上の
事は、いくら無理しても出来っこないんだよ。いつか君が言ってたじゃな
いか、「今を精一杯生きる」って、残された僕達に出来るのは、それくらい
しか無いんじゃないかな。この一ヶ月で、それが良く解ったんだ」
 未沙は何も答えない、そのまま黙って目を閉じる、閉じた目尻から涙が
零れ出した。
 「おやすみ、未沙。ゆっくり休むんだよ」
 明かりを消し、輝は静かに部屋を出た。

 輝がいつものようにソファの上で目を覚ます、時計を見ると7時だった。
 「そろそろ朝食の仕度だな、やけに冷えるな今日は」
 布団の中でぐずぐずしていると、未沙の部屋のドアが開いた。
 ネルシャツにチノパン姿の未沙が、淡い色のカーディガンを羽織りながら
部屋を出て来た。ちょっと部屋の温度に吃驚したのか、急いでエアコンの
温度を上げた。
 「輝、こんな温度じゃ風邪引くわよ」
 「未沙」
 「輝、朝食、今日は私が作るわ、作らせて。寝てばっかりいたら駄目だ
から」
 そう言いながら、髪を後ろでまとめ、手に持っていたエプロンを首に掛
ける、冷蔵庫を開け、中を覗きながら輝に声を掛けた。
 「簡単でいいでしょ」
 「未沙、大丈夫なの?、それにまだ寒いよ」
 「大丈夫、少しずつ、少しずつ身体を動かしていくわ、私」
 輝は未沙の顔が綺麗になったような気がした。それは軽い化粧のせい
なのだが、それは輝には解らない事だった。
 カーテンを開けると、まだ曇っていたが、雪は止んでいた。


 

嘴光(1)

2008-06-01 18:41:30 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 次の日、ほんの僅かだが二人で散歩に出てみた、未沙には久し振りの
外出になった。
 翌日は近くの公園まで行った。午後の暖かい時間、その時間は軍のプ
ライベートブロックも人が疎らで、未沙も出易いと思ったからだ。歩きながら
話す未沙の声に少しづつだが張りが出てきている。

 三日目、少し雪が降っていたが、思い切って街まで行ってみた。人通り
の少ない道をゆっくり歩く、何となく角を曲がった時、視界が突然開けた。
 一面の廃墟だった、未沙が立ち竦む。輝が慌てて未沙の腕を引っ張る
が、未沙は動こうとしない。
 「未沙、行こう!」
 無言のまま未沙が輝の腕を振りほどく。そして、恐る恐る廃墟に向かっ
て歩き出した。

 大型のブルドーザーやパワーショベルが何台も止まっている、一帯を整
地しているようだったが今日は休みなのか、人影は無い。
 「未沙、止めるんだ」
 「行かせて!」、未沙は強い調子で言い返した。
 未沙が一歩一歩、廃墟の中を歩いている、静かだった。
 まだ取り壊されていない家の前に、犬が一匹寝ていた、それを見た未沙
がギクッとして立ち止まる。犬の傍の壁に何か書いてあった。
    フィリップ
    シモーヌ
    シルビー
   ここに、永眠す、
   天国に召され、魂の安らかならん事を

 「未沙、もう行こう」
 輝が未沙の両肩を摑む、未沙は震えていた。輝の手を振り払い、未沙は
文字の前に行き、膝を折る、祈るように何か小さな声で言っていたが、堪
え切れずにやがて泣き出した。

 「ラッキー!、ラッキー!」
 声と足音がして男が輝の前へ現れる、
 「やっぱり、ここか」
 男が未沙と輝を見つけて吃驚した。
 「あの、フィリップさんのお知り合いですか」
 「いえ、違います」、輝が答える、
 「でも、彼女?」
 「あれを見て、少し辛い事を思い出したみたいで」
 「ああ、あの時は大勢の人が死んだからね、この家も全滅でね」 
 「・・・」
 「家族ぐるみの付き合いだったんだ。シルビーなんかまだ16で、あの子
の可愛がってた犬だけが、この犬だけが助かったんですよ。私が見つけて、
引き取ったんだけど、この通り、しょっちゅう家を抜け出してはここへ来るん
ですよ。よっぽど可愛がってもらってたんでしょうね」
 未沙はもう堪らなかった。
 「あの、済いません、お礼はしますから、あっ、失礼言って済いません、
でも、お願いします、表からタクシーを呼んで来てもらえませんか、こんな
状態なんで、早く家へ帰って休ませてやりたいんです、お願いします」
 輝が慌てて男に頼み込んだ。

 担ぐようにして輝は未沙を車から降ろし家へ入った。とりあえずソファに座
らせ、毛布を被せ熱いお湯を飲ませた、バッグを掻き回して医者から渡され
ていた薬を飲ませる、未沙はされるがまま人形のようだった。輝が隣りに
座り、未沙の肩を強く引き寄せ、彼女の頭を自分の肩にのせる、そして、
そのまま毛布の上から首のあたりに優しく手をおいた。

 日付けの変わる頃、未沙が目を覚ました、薬の切れる頃だった。
 輝は部屋の床に寝袋を拡げて寝ている。

 何か気配を感じて輝が目を覚ます、横に未沙が座っていた。寝袋のファス
ナーを降ろし、輝は起き上がった。
 「どうしたの」
 未沙は答えない、
 「何か食べる?、スープ作ってあるんだ、今、温めてくる」
 「いらない、何も食べたくないわ」
 「・・・」 
 「抱いて・・・、輝」
 未沙が飛び込んで来て、二人が床に倒れた、しがみ付くようにして未沙
は輝の胸に顔を埋める、輝は未沙の背中に手を回し強く抱きしめた。暫く
して未沙が顔を上げる、
 「そういう意味じゃなくて」
 短い沈黙があった、
 「今は・・・今は駄目だよ」
 「何で」
 輝が言葉を捜していると、
 「何でなの」
 再び、未沙が哀しそうな声で言う、
 「未沙、君を抱きたい、ずっと思っていた、でも、今は出来ないよ、今の
・・・、今の未沙は未沙じゃない、魂のない人形だよ、僕は、僕は本当の
未沙を抱きたい」
 未沙が輝から離れて起き上がった、輝も起き上がる。
 「私、もう女ですらないのね」
 未沙が寂しく言った。
 「出てって、部屋から出てって」
 何も言わず輝は部屋を出た。




嘴光(2)

2008-06-01 18:40:47 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 辺りが明るくなった頃、未沙は目覚めた。べッドの横で膝を抱いて輝が座
っている。
 未沙の気配で輝が顔を上げた。
 「今を精一杯生きる、そんな事でいいの、あの人達はそれさえ、もう出来な
いのよ」
 未沙が静かに言う、
 「解らない、僕にも解らない」
 二人は黙り込んだ。
 「君を助けたいと思った、ゼントラーディとやり合ってた頃、いつも君に助け
られた、今度は僕がって思ったんだけど、上手くはいかないもんだね、気持
ちだけじゃ」
 「有り難いと思ってる、こんなにまでしてくれて、でも、もう私、解らないの、
何もかも解らないの」
 また少し間があって、輝が聞いた、
 「軍を辞める?」
 「そうね、今の私じゃね」
 「未沙が元気になって、あの頃に戻ったら、何をやってもきっと上手くいく
よ」
 「もう、なれないわ。それに、あの頃の私にはもう戻りたくない」
 「でも、僕思うんだ、未沙には厭な言い方かもしれないけど、士官学校主
席で出た君の力はやっぱり凄いよ。管制能力ばかりじゃない、、それが証
拠に、オペレーションルームのみんなが君を頼りにしてるじゃないか。確か
に失敗はあったかもしれない、その為に亡くなった人達もいるだろう、それは
僕も同じさ、でも、君のお陰で助かった人達もいるんじゃないかな。あの大戦
争を生き残れたのだって、随分、君の力があったはずだよ」
 「私は、あの時ここに居たわ、何もしてないわ」
 「そうかな、あの時の事、みんなミンメイの事ばかり云うけど、君の力だっ
て相当大きかったって僕は思っている、みんな忘れてるだけさ。ゼントラーデ
ィからの亡命者を一番熱心に保護したのは君だし、文化の力でゼントラーデ
ィを変えられると考えて、上層部を動かそうとしたのも君じゃないか、総司令
だって、君の進言に動かされたんじゃないかな、それが結局、あの戦争を生
き抜く結果になったんじゃないかな」
 「・・・」
 「未沙、君のそういう能力、僕はここが一番向いてると思うんだ。ドンパチの
事ばかり考えてる人間じゃなくてさ、戦争を始めない方法、終わらせる方法を
真剣に考えられる人って、一番こういう組織に必要なんじゃないかな」
 「・・・」
 「だからさ、あのメガロードの話、一番君に合ってると思ったんだ。それに未
沙のそいう能力をさ、これから生まれて来る人達の為に精一杯使うっていう
のも、もし、君が失敗ったと思っているのなら、その罪滅ぼしになるんじゃな
いかな」
 「あんな、大きな間違いをした人間でも」
 「それは解らない、ずっと答えを探してたんだけど解らなかった、でも、生き
残った未沙が自分の力を使わずにいたら、その方が、死んでしまった人達に
尚、悪い事なんじゃないかな」
 「・・・」
 「だけど可笑しいね、僕が未沙に意見するなんてさ。もう少し休みなよ、僕
がまた朝食を作って、ここへ持って来るからさ、それまで眠りなよ」
 未沙が素直に目を閉じる、輝はそっと部屋を出た。

 未沙はその日一日、部屋に引きこもっていた。

 次の日の朝、未沙が部屋から出て来た、てきぱきと朝食を作り出す。
 朝食が終わると、輝を見つめながら未沙が言った、
 「輝、お願いがあるの」
 「何?」
 「また、あの場所に連れて行って欲しいの」
 輝が驚いて聞く、
 「何で」
 「あそこに、あの場所にもう一度立ってみたいの、それが大事な事だって
 気がするの、どうなるか解らない、怖いわすごく、だから一緒に」
 輝は一瞬躊躇したが、すぐに未沙を見て答えた。
 「解った、二人で行こう」

 行く途中で、未沙は花屋に寄り、輝はスーパーで犬の食べ物を買った。
 近ずくにつれ、輝の腕を取る未沙の手に力が入って来るのが解る。
 再び、あの場所に立った。工事は止まっているらしく、今日も静かだった。
 どんよりとした空の下、大半は綺麗に整地されてしまった広大な空間が
ニ人の目の前に拡がっている。
 未沙は輝の腕から離れ、怯えたように広大な敷地に向かった、そして、跪
くと大きな花束を置き、この前と同じように何か祈っていた。やがて又、こち
らへ戻って来て、今度はあの文字の書いてある場所へ歩いて行った。今度
は輝も付いて行く、未沙が小さな花束をその前に置くと、輝はドッグフードの
口を開け壁の下へ置いた。また、未沙が祈っている。
 随分時間が経った頃、やっと未沙が立ち上がった。顔は涙で濡れていたが
、取り乱してはいない。
 二人は、並んで壊れた家を見ていた、そして、広大な更地や壊れた家々を
再び見た。
 その広い空地の向こう、ビル群の上の空から弱い光が差し始めた。



クリスタル ウォール(1)

2008-06-01 18:38:01 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 3月1日、昼前にクローディアから電話があった、休みなので午後、様
子を見に来るという事だった。
 輝はクローディアが来ると、コーヒーと買ってきたケーキを出し、
 「久し振りに、基地へ行ってみます、ちょっと様子を見てこようと思って。
それから、晩飯はハンバーグ作りますから、ちゃんと居てくださいよ」、そ
う言って出て行った。女二人の方が何かと話し易いと思ったからだ。

 夜、クローディアを輝は家まで送って行った。
 「大したもんじゃない、もっと悪いかと思ってたわ」
 「酷かったんですよ、ちょっと前まで」
 輝は、これまでの事をクローディアに簡単に伝える。
 「貴方達が羨ましいわ、二人で成長してるって感じで」
 別れ際、クローディアが輝に言った。

 3月3日。クローディアが未沙の誕生日を祝いに夕方来る事になってい
たが、昼に電話があって、マックスがミリアとコミリアを連れて見舞いに
来る事になった。

 「先輩、少佐の誕生日なら誕生日とちゃんと言って下さいよ」
 マックスが文句を言う。実は未沙が気を使わないよう輝に口止めしたの
で、輝はマックスに誕生日の事は伝えていなかったのだ。
 ミリアは、一段飾りのお雛様を不思議そうに見ている。
 今日の料理は(輝も手伝ったが)、未沙が本格的に作ったものだった。

 パーティは、主役が療養中という事もあり、賑やかという訳にはいかな
かったが、和やかに進んだ。未沙も随分、笑顔が出るようになった、特に
今日はコミリアの存在が大きくてクローディアも未沙も代わる代わる抱い
てはコミリアを離さなかった。
 マックスが小声で言う、
 「先輩、VT-126、ちょっと細工をしときました、楽しみにしていて下さい
よ」
 「マックス、あれはまだ充分飛べるよ、そんな、手を掛けなくていいよ、
それに、まだ使うかどうか決まってないんだ」
 「大丈夫ですよ、先輩、まだ日にちはあります」
 
 未沙がコミリアを抱っこしていた時、突然コミリアが泣き出した、未沙が
一生懸命あやすのだがが泣き止まない、未沙がコミリアを抱きしめる。少
し泣き声が小さくなった頃、未沙の表情に、また暗い陰が差した気がした、
未沙がコミリアをミリアに返した。

 皆が帰ると、未沙が済まなそうな顔をした、
 「輝、御免なさい、少し気分が悪いの、後片付けお願いしていい?」
 何か厭な予感はしていたが、輝は何も言わなかった。

 翌々日、空は晴れている。バスで一時間程、シティ南側の丘の裏に、政
府研究機関の附属植物園があった。そこには、いくつかの温室があり、そ
して、南部は北部ほど被害が目立たないのも好都合だと思った。
 輝が未沙を誘ってみる。
 未沙は暫く考えていたが、「行ってみたい」と答えた。
 二人は慌てて、昼食用の軽い食事を作りバスに乗った。
 未沙にとって、久し振りの人混みであり、バスだった、少し怯えているの
か、ずっと輝の手を握ったままだったが、先日の事は忘れたように明るか
った。
 郊外へ出て、一面の雪景色の中、山へ向かってバスは走っている、輝
が未沙の横の窓ガラスを拭き取ると、真っ白な雪面に陽が当たりキラキラ
輝いているのが見えた、その向こうには、これから行く丘が黒っぽく盛り上
り、後ろには雪を被った二千m級の山々が連なっている。
 「綺麗ね、何か、こんな気持ち久し振り」
 未沙が嬉しそうな顔をして言った。

 植物園は、平日でもあるし、温室のあたりに何人か人が居るだけで、一
面の雪に覆われた広い庭や、その向こうにある森には誰も居なかった。
 二人が六棟ある温室を一つ一つゆっくり回る、どの温室も花の匂いで一
杯だった。未沙はいろんな花に顔を近付けて香りを楽しんでいるようだっ
たが、そのうち変わった花を見付けると走り出し、
 「輝!輝!」と呼ぶようになった。
 あっという間に、一時近くになり、二人は慌ててベンチに座り昼食を摂
る。
 「私、何年振りかしら、こんなにお花を見るの」
 「良かった、君が嬉しそうで」
 「いい所見つけてくれたわ有難う、輝。私、ここに毎日来てみたい」
 「毎日は無理だけど、近いうちに又来よう」
 「本当」
 「約束するよ」
 「嬉しいわ・・・だけど、この前みたいのは厭よ」
 未沙が輝を肘で強く突く、輝は前の失敗を思い出し、ドギマギして答え
る、
 「今度は絶対に、神に誓うよ」
 「大袈裟だわ」
 未沙が笑った。

 そのあと二人は庭に出てみた、空は晴れ渡っていたが、その分冷え込み
はきつい。
 二人が庭の道を腕を組んで歩く、森の中へ入ってみた。静かだった、あの
公園よりもっと静かだった。二人が寄り添いながら奥へ歩く、少し行くと雪の
斜面が拡がった、向こうに白い山々が延びている。ソリが何台も重なって置
かれていた、休日は子供達がこれで遊んでいるのだろう。
 輝が飛んで行って、一台降ろすと、「ちょっと、いい」、と言って滑り降りて行
った、途中、幾つかの段差があるらしく、その度ジャンプしていく。
 「未沙、乗ってみない、これ二人乗りだよ」
 「面白そうね」
 二人は未沙を前にして滑り降りた、ジャンプする度に未沙が声を上げる。
 二人がソリを引っ張り、斜面を登る、
 「大丈夫、疲れない?」
 「平気よ」、未沙は楽しそうに言った。
 二度目の滑降、しかし、今度は最初のジャンプでバランスを崩して、二人と
も転がってしまった。
 輝は慌てて起き上がり、横に倒れてる未沙に聞いた、
 「大丈夫?」
 「ええ、何とかね」
 輝が未沙の背中へ手を回し抱き起こそうとした時、二人の目が合った、二
人がそのまま見つめ合う、
 「未沙」
 輝が唇を重ねようとした、未沙が反射的に顔を逸らす、輝は背中から手を
抜き、未沙の顔を正面に向け唇を重ねた、
 「やめて、駄目よ!」
 未沙が輝を押し退けて起き上がった。輝も起き上がる、そして、未沙の方
を見ずにに静かに言った。
 「軽い気持ちでキスしたんじゃない」
 「解ってる、でも、やっぱり駄目なのよ」
 「何が?」
 「・・・」
 未沙は答えない。
 「怒ったの?」、輝が再び聞いた、
 「怒ってないわ」
 未沙が立ち上がった、斜面を登りだす。輝はひっくり返ったソリを引いて未
沙の後を登った。

 二人共、家に着くまで無言だった、未沙がドアを開けながら言う、
 「輝、今日は帰って、お願い」
 「解った」
 それだけ言うと輝は背を向ける、ドアの閉まる音がした。


クリスタル ウォール(2)

2008-06-01 18:36:20 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 夜、グローバルの家の電話が鳴る、未沙からだった。
 30分程して、未沙がやって来た、グローバルが家の中へ招き入る。
 グローバルは、あのゼントラーディの地球攻撃の時、妻を失っていた。
独り身の総司令の為、従卒が彼の身の回りの世話をしていたが、彼らも
すでに帰宅していた。

 「こんなものしか無くて済まんね」
 グローバルが暖かいコーヒーと菓子を持って来て言った。
 「お疲れなのに、済いません総司令。夜遅くやって来て。我儘ばかりで」
 「いや、いいさ、今の私は独り身だ、家に帰っても余りする事が無いん
だ。今日は私の話し相手にでもなってもらおうかな。大分、良くなってきた
みたいだし」
 「総司令」
 「小父さまと呼んでも構わんよ、嫌かね」
 「いえ、そんな事は」
 「私も、未沙ちゃん、ううむ、二十歳過ぎのレディに向かってちゃん付けは
ないか、ハハハ、私だけは早瀬君でいいだろ」
 「はい、小父さま」
 「久し振りに呼んでくれたね、嬉しいよ。察するところ、どうもプライベート
な事なんじゃないかな、君の話は」
 「どうして、それが」 
 「顔に書いてあるよ」
 長い沈黙があった、
 「話してみたまえ早瀬君、今の君を見てると、一人で重い荷物を背負って
るように見える、話してみれば少しは軽くなるんじゃないかな」
 「そうでしょうか」、未沙が答える、
 「話してみたい、そう思ってここへ来たんじゃないのかね」
 また沈黙があり、やっと未沙が口を開いた。
 「私はオノギシティの時、私情を挟んでミスをしました、その結果がオノギ
やマクロスの惨事に繋がったと思います、あんなに沢山の人達の命を私が
奪ってしまった、そう考えると、どうしていいか解りませんでした、そして気が
付いたんです、今まで私の命令で亡くなった人達やその家族の人達の事、
解っているつもりでしたが、少しも解っていなかったんです、私、心の底から
恐ろしくなりました、本当にどうしていいか解りませんでした、このまま死ん
でしまいたい、何度も何度もそう考えました。でも、私は生きています、今、
こうして居られるのは一条大尉のお陰です、勿論、小父さまやクローディア、
いろいろな人達のお陰です、でもやはり、一番は一条大尉のお陰だと思い
ます。彼は私と一緒になって何日も何日も悩んでくれました、駄目になりそ
うな私を何回も励ましてくれました、彼は言いました、「生き残った君が自分
の力を使わずにいるのは、死んだ人達に尚、悪い事じゃないか」って、私に、
私に力が少しでもあるなら、それを生き残った人達の為に使って欲しい、そ
れが生き残った私のする事じゃないかって言われました」
 「ほう、彼がそんな事を」
 「私、それが出来るか解りませんが、その時、ここで死んではいけないん
じゃないかと思いました、少しずつでもいいから、自分の力を出せるようにな
ろうと思いました。この前、私の誕生日にミリアがコミリアちゃんを連れて来
てくれました。私、子供が大好きなので泣き出したコミリアちゃんを一生懸命
あやしました、そして、胸に抱いている時です、自分の子供、もし、自分に子
供の生まれるような、そんな幸せを私が持っていいのか、そんな考えが私の
頭の中で一杯になりました。いけない、それだけはいけない、幸せだった人、
これから幸せになれた人達を殺してしまった私に、その資格だけはないって、
そう思いました。これからは、そういう事は考えずに、人の力になっていけば
いいんじゃないか、それが私の人生を全うする事だと思い直しました。でも今
日、一条大尉が私を遠くまで遊びに連れて行ってくれました、私、最初はさっ
き言ったような事を守ればいいと思ってたんです、でも、彼と一緒にいるうち、
何か楽しくなってしまって、自分に言い聞かせた事を忘れてしまいました」
 「・・・」
 「でも、すぐ思い出しました、これではいけない、こんな事をしていてはいけ
ない、そう思い始めると、私、輝に何と言っていいのか解らなくなりました。あ
れから何時間も考えています、ずっと。でも、どうすればいいか解らない、そ
の時、昔の小父さまの顔を思い出したんです、小父さまなら何か言ってもらえ
るような気がして、そう思うと矢も楯も堪らず、ここへ来ました。こんな勝手な
相談を持ち込まれて、さぞ迷惑だと思います、本当に済みません」
 
 二人の間に静かな時間が過ぎていく、やがてグローバルが口を開いた。
 「僕はどうなのかな、早瀬君。僕は二年前のあの時、地表近くでフォールド
の命令を出した、その結果、罪の無い南アタリアの人達を太陽系の果てまで
連れて行ってしまった。それからの長い間、君も知っているように、沢山の人
達が亡くなった、私はどうすればいいのかね、早瀬君」
 「小父さま」
 「そんな私が、今、総司令という要職についている、君の言う通りなら、私
は即刻、修道院にでも行かなければならない、どうかね」
 「小父さま、小父さまはそんな」 
 「いや、君と同じだよ、私だって亡くなった人達に申し訳ないと、いつも思っ
ている、でも、私は生き残った人達にも責任がある、あの大戦争に巻き込ま
れ、殆ど誰も居なくなった地球に戻らされた、生き残った人達に対しても私は
責任があると思ってる。私は、自分を決して能力の有る男だと思った事はな
い、いつも悩み、決断が正しいのか、いつも悩んでいる普通の人間だ」
 「小父さまには立派な資格があります、あの戦争に生き残れたのだって、
小父さまのお陰です」
 「運だよ、そんな事はない。君はカムジンの事に責任を感じているようだが、
戦争は一人でやってるんじゃない、君一人でやってるんなら、功も罪もみんな
君のものだが、軍全体でやってるんだ、一人がミスしたなら、それを周りがサ
ポートすべきだし、サポート出来なかったのなら、そのチームを任命した上官
や私の責任でもある」
 「私は私情を持ち込みました、自分の責任だと思います。周りの人達の責
任ではないと思います」
 「君はそう言うが、オノギの時、例えバルキリーがあと2,3小隊有ったって
防げなかった。時限爆弾で街が炎上しようとしてるのに、消火を後回しにして
追跡を君が命令したら、その方が余程問題だ、問題は偵察衛星を有効に使
えず、戦闘艦を直近になるまで発見出来なかった事だ、問題はそこに一番あ
る」
 「・・・」
 再び長い間があった、
 「君は、私が再婚してはいけないと思うかね」
 「小父さまが再婚、そんな・・・」
 「冗談だよ、相変わらず堅いね、小さい頃から好き嫌いがはっきりして一本
道の所があったが、変わらないね」
 「性格です」
 「早瀬君、鬼の少佐もいいが、いつまでもそればかりじゃいかんよ。君は今
度の事で随分成長した、人の痛みを解る、いや、解ろうとする人間になった、
それだけでも本当の大人になったんじゃないかね。民間でもそうだが、軍だっ
てそういう士官、将官は喉から手が出る程欲しい人材だよ、今、君はそれに
応しい人間になろうとしてる、あとは荷物を一人で背負い込まない事だ、世の
中の全ての事を背負おうとしたら、誰だって潰れてしまうよ」
 「さっきも仰いましたが、私、そんな風に見えるのでしょうか」
 「誰も自分の姿は中々見えないからね、こればかりは鏡にも映らん。君も、
自分の荷物を少し人に分けてあげたらどうかね、そのかわり、その人の荷物
も少し君が背負うんだ、そうすれば、案外重い荷物でも背負っていけるもんだ
よ」
 「自分の荷物を人に?」
 「一条君は持ちたがってるんじゃないかな、君の荷物を、その覚悟はあるは
ずだよ、彼には」
 「・・・」
 「そう、そして君も彼の荷物を持っていくんだ。思いやりとでも云うのかな、今
の君達を端から見ると、熱い季節が来ているようだが、人生はそればかりじゃ
ない、長い日常のうちにはそんな熱も冷めて、それでも二人で歩いて行かなく
ちゃならん時が来る、その時、どれだけ相手に対する思いやりが残っているか、
それが平凡に生きていけるか、不幸になるかの分れ道だ。君と一条君なら、き
っとそれが上手く出来ると私は思っているのだがね」
 「小父さま・・・」

 グローバルの家を出る時、彼は未沙に声をかけた、
 「ゆっくり考えてみることだ、焦らずに。そして君が自分で答えを出したまえ」
 「小父さま、今はまだ、私にはよく解りません、小父さまが言うように、ゆっく
り焦らず考えてみる事にします。今日は本当に有難うございました」
 「礼は、君のお父さん、お母さんに言いなさい、今日、私が言った事は、おニ
人が私に言わせた事だよ」
 グローバルが優しく言った。

 あれから三日経った昼過ぎ、未沙は一人で出掛けた。向かったのは一番被
害の酷かった北部から東部へ懸けてだった。
 夕方、遅くなって未沙は帰って来た。