桜陰堂書店

超時空要塞マクロス(初代TV版)の二次小説です

長いエピローグ(2)

2008-06-01 18:29:03 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 ニュージーランド南島、クィーンズタウン。山と森に囲まれ美しい湖のある
小さな街だった。戦争が始まる前は、世界的に名の知れた観光地だったが
人口が激減した今は、昔の面影はなく、羊と牛の街になった。それでも、た
まにやって来る旅行者の為に、コテージが少し残っていた。
 夕方5時頃、二人は街に着いた。VT-126は近くにある軍民共用の飛行
場に預けた。
 ワカティブ湖の東側の緩い斜面に、そのコテージは有った、メゾネットタイプ
の外観は余り手入れをしていない様だったが、町で会った管理人に渡された
鍵で中へ入ると、中は綺麗に掃除が行き届いていた。二階のベットルームの
窓からは、目の前に拡がる静かな湖と向岸の斜面に点在する羊牧場、それ
を囲む幾つもの森が見えた。その淡い緑と濃い緑が湖の青さによく映えてい
る、そして、森の上から急に競り上がるようにして、急峻な山々が南北に連な
っていた。

 「綺麗ね」
 窓の側に立ち、その景色を見ると未沙が思わず言った、
 「お疲れ様、何時間も座りっぱなしで大丈夫だった」
 「私は平気よ、それより操縦、疲れたでしょ」
 「いつもの事さ、それよりマックスの奴、あのカンカンしっかり溶接しやがっ
て、いくら力掛けても取れやしない、帰りもあのままだよ」
 「恥ずかしかったわ、でも、何かちょっと嬉しかった、本当に貴方と結婚した
みたいで」
 「そんなものかな」
 「私、あんな事でも嬉しかったの、昔見た映画の主人公になったみたいよ」
 「しゃあないな、ぶった切るの止めるか」
 「輝」
 「何?」
 「嬉しいわ、こんな所に連れて来てもらって」
 その時、未沙の耳にクローディアの声が聞こえる、「素直が一番」。
 未沙の顔が綻んだ、
 「私、幸せよ」
 「未沙」
 輝が未沙を強く抱き締めると激しく二人の唇が重なった。

 夢のような日々だった
 二人でカヌーで湖に出たり、岸辺の草原で日がな一日、湖や山や斜面で草
を食む羊や牛を見ていたり、村の人が羊の毛を刈る所を二人並んで眺めたり、
また、村の人達と一緒に羊を追い駆けたり、二人には何もかもが楽しかった。
特に未沙は、軍と戦争一色の青春だったので、より一層この明るさが新鮮で
心に響いた。何か遠い昔置き忘れた大事なものを、取り戻したような気がして
嬉しかった、そして、それが一番大事なのだが、彼女の傍にはいつも輝がいた。

 瞬く間に日にちが過ぎる。明日は出発という前の日、午後、二人は裏の山ボ
ヴ・ヒルズに登った。そこは昔、ロープウェイが掛けられていたそうで、中腹の
、今は人の居ないレストランの辺りから見る夕日が、とても良いと云うので行っ
てみる事にしたのだ。

 二人はそのレストランの前庭だった所へ座った。晴れ渡った空の下、前方に
は屏風のように険しい山々がどこまでも連なり、遥か下にはキラキラ光る湖と、
その湖畔にある小さな家々の赤い屋根が見える。二人は子供の頃の事、これ
からの事、友人達の事、いろいろ話し続けた。
 夕方8時頃、やっと陽が沈み始める。それは二人が今迄見た事のないような
美しさだった。夕日に照らされオレンジ色に染まる山々、織りなすように作られ
る濃茶の山影、湖は赤く染まり、西の空には宵の明星がくっきり光を増してい
た。
 二人は言葉もなく、ただ見つめている。そして、その二人を夕日が赤く染め
ていった。

 NZを飛び立ち、すでに8時間が過ぎていた、マクロスまで後100kに近付い
た。
 シティ空軍基地からの無線が入る、
 「機影確認、識別番号をどうぞ」
 「こちらVT-126、シティ空軍基地への着陸許可を願います」
 「VT-126了解、早瀬少佐、一条大尉、お帰りなさい。コース076で着陸し
て下さい、16:00現在天候晴れ、北の風2m・・・」
 メインサービスが続いている。
 キャノピーの前方に小さくマクロスが見えて来た、
 「未沙、マクロスだ」
 「懐かしいわね、ほんの一週間なのに」
 二人は思った、あの船から全てが始まったのだ、長い流浪と絶望の中で出
会い、諍い、助け合って、そして成長していった事を、今の二人には次第に大
きくなる、あのマクロスこそが故郷なのだと、帰って来たのだと。
 VT-126は着陸態勢を取り、滑るように滑走路へ吸い込まれていった。


                    超時空要塞マクロス 勝手に第37話
                          「オン・ザ・ステップ」
                                 おわり