桜陰堂書店

超時空要塞マクロス(初代TV版)の二次小説です

ハンプトン コート(映画「フォロー・ミー」に感謝をこめて)

2008-06-01 18:31:59 | 第37話「オン・ザ・ステップ」
 翌日の朝、輝の家の電話が鳴った。
 輝も悩んでいる、今までは未沙の事ばかり考えていれば良かったが、そこ
に自分が入って来ると、皆目どうして良いか解らなかった。
 「朝早く、御免なさい」
 未沙の声だった、
 「大丈夫だよ、起きてたから」
 先日の事が頭をよぎり、少し曇った声で答える、
 「この前の事、怒ってる?」
 「いや、君こそ怒ってるんじゃないの」
 未沙がそれに答えず続けた、
 「あの、この前の約束、植物園にまた連れてってくれるって、憶えてる?」
 「ああ、憶えてるよ」
 「今日いいかしら、今、少し準備してるんだけど、輝の朝食も作ってるわ、
来てくれるかしら」
 輝が即座に答える、
 「勿論、今すぐ行く」
 急いで輝が受話器を置いた。

 未沙の家へ来てみると、ドアに鍵は掛かっていない。中へ入った、
 「輝!」
 大きな声がして、未沙が椅子から立ち上がる。テーブルには二人分の朝食
が並んでいた。コートを脱ごうとする輝へ未沙が飛び込んで来た。
 輝が何も言わずに、そのまま未沙を抱きしめる。
 「輝、ありがとう、今迄、本当にありがとう」
 そこには、意地っ張りで、笑顔が可愛くて、仕事の鬼で、時折見せる女っぽ
さがいじらしい、いつもの未沙がいた。
 「未沙」
 輝が未沙の顔を見る。未沙は輝の顔を見上げながら目を閉じた。
 二人の唇がそっと触れ合う。

 「本当に、ここは素敵だわ」
 誰もいない温室で、未沙はこの前と同じく、そこら中を歩き回った、輝が時々
置いてきぼりを喰う程だった。
 「輝、ちょっとこれ見て」
 輝の返事がない、 
 「輝?」、辺りはしんと静まり返っている。
 「輝!」、未沙が切羽詰ったような声をあげた時、
 「こっちだよ、来てごらん」、遠くで輝の声がした。
 未沙が急いで声の方へ向かうと、また違う方から輝の声がする、
 「こっちだよ」
 未沙は輝が何をしてるか解った、
 「輝!、輝が私を捕まえてみなさい!」
 未沙が走り出した、輝も走った、二人が迷路のような温室の中を走り回る、
 「こっちよ」
 「うわ、行き止まりか」
 「残念でした」
 静かな温室に二人の声が響く。随分長い事走り回った末、中央のベンチのあ
る広場で鉢合わせになった。
 息を切らしながら、未沙の肩を摑んで、輝が笑顔で言う、
 「捕まえたよ」
 未沙も息を切らしながら輝を見る、嬉しそうだった。
 息が落ち着いた頃、輝が真正面から未沙を見て言った、
 「結婚してくれますか」
 未沙が、ためらい無く輝の胸に顔を埋める、まだ少し息が切れてるみたいだ
った、
 「こんな、おばさんでいいの?」
 「こんな、坊やでいいですか?」
 輝が答える。
 未沙は顔を上げた、その顔が涙に濡れている。
 輝の顔を、未沙は正面に見上げ大きく頷く。
 見つめ合う瞳が熱くなり、やがて二人の唇が重なった。

 その夜、二人は自然に結ばれた。
 幼い者同士だったが、それは誰もが通る道である。