建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

黄金週間中に

2021-05-04 17:15:08 | 建設現場

………………………(黄金週間中に)…………

 五月晴れ。

世間は黄金週間・大型連休にレジャー情報が満載であるこの頃、この青空に
満喫する余裕もなく、他人事として過ごして来ていて何年になるのだろう……

黄金週間で浮かれていても結構だが、休暇として扱うので、職人さんは日曜・
祭日の数によって5月度の給金(手取り給料)が、極端に減るのは困りものだ。

祭日に加えて雨降り休みも多いのがこの月でもある。

職人さんの出面(でずら=出勤=日当)が一日2万円として、祭日を休んでい
れば普段より10万円も少ない給金を月末に受け取って6月を乗り切るのだから、
家計を預かる奥様は大変な事だ。

正直、この時期は現場監督ながら《サラリーマン監督》でよかったなあ……と
一息入れる時期でもあった。

こう言う裏事情があるにも拘らず、
「有給休暇 取得推進月間」
と言うポスターを現場の休憩所に掲げているのだから、所長としては複雑な
心境である。

四月も半ばが過ぎると、黄金週間期間中に何日現場をシャットダウンさせるかと、
協力業者のオーナーさんと話をせねばならない。一方的に、
「ここは三日間連休するからね」
と言うのも間違ってはいないが、顔色を窺(うかが)いながら、 

「ダメ?休みたくないですか?」 
「現場で決めれば従うまでですが……」
(仕方ない……か)の文字が顔に浮かんで来るのが分るモノだ。

そんな黄金週間の中で、楽しい一日を過ごした話をしよう。

「皆さん、休みの日に子供と何して遊んでるの?」

連休期間中に旅行をする職人さんはあまりいなくて、手近な所で何とか過ごして
いるようで、家族から、

「どこかへ連れてって―――」
とせがまれて、
「一日くらいは家庭サービスをしなくては、父親として恰好がつかないから困っ
とる……」
と聞こえて来た。


「じゃあ現場に連れておいでヨ、お父さんの働いているところを見学して、現場
《焼き肉大会》でもやろうか?」

「息子は《現場が見たい》といつも言うてるし、嫁はんも連れて来れるんやし……
やろうよ所長!」

現場は完全休業日にしており、警備会社に祭日警備を依頼していたその費用で、
「肉と野菜は買えるでしょう?ビールは事務所の冷蔵庫から持って来ればエエし
……」

「嫁はんに料理準備させようか、所長」
「それでは家庭サービスとは言えないんじゃあ?ないの?(笑)」
そこの現場は今年になってからも二度ほど焼き肉大会を開催していたので、話は
即決だった。

問題は家族づれだから総勢何人になるのかが、現場の休憩時間の話題のネタで
ある。

車の運転がある人はいつもビールを我慢していたのが、今度は《奥さん運転手》
が居るのだから肉もビールも半端じゃあないゼ……と私の財布を心配してくれ
ている。

「喰う為に働いているんじゃあない、よく働いてくれているから腹一杯喰って
くれればよ~し」

と見栄というか歌舞(かぶ)いていて、私も一緒に楽しんでいるが、チームワーク
が良い故でもあろう。

10時半に集合して『工事現場 家族見学会』をして、仲間内で楽しむ焼き肉大会
は11時30分から始める事になった。

毎日お弁当を配達してくれている仕出し屋さんへ、お昼ご飯用におにぎり
150個を御願いして、届けてもらう話も出来た。

さて当日、天気は晴れ―――。

いつもは資材を運ぶ通路にマイカーが並べるようにし、朝礼広場に机と椅子を
並べている。

10時頃には職人さん達の家族も来場し、普段汚れた(失礼)作業服姿の笑顔
が見慣れているので、家族を連れてハニカム顔から、

「あんた誰?」
と何度も言いそうになったのも、冗談ではないような挨拶から始まった。

それにしても若い職人さんがしっかりした家庭を持って、奥さんがそろって美人
であるのには改めて感心させられる。

確かに勉強好きではなくて、自分の生き方を自分なりに考えたと言えば恰好が
イイのだが、茶髪にしたりバイクを乗り回し、青春時代を半歩踏み外して親を
心配させながらも、自立する道を選んだきっかけが、当時の彼女であり、
今の奥さんが居ればこそ……の話であろう。

奥さんと子供達を工事現場用のエレベーターに載せて、廃墟のようなコンクリート
の柱と壁を見ながら屋上へと進む。

エレベーターと言うよりも全体の姿は金網のカゴに手摺が有るだけで、歯車が動
いているのも丸見えで、5m程上がって行くと雑談は消えて機械のモーター音が、
「大丈夫…大丈夫、お父さん…いつも…載せて…いるから…」
とでも言うような声に聞こえて来る。

一番上で止まったところは5階の型枠と鉄筋の組み立て中である。
見学通路(作業通路)を指定しているけれど、
「お父さんと一緒ならどこへ行ってもいいよ、材料に触ってもいいよ」
と興味津々の子供達に声を掛けると、ブカブカの保護帽に手を当てて笑顔を見せ
てくれた。

広場にはお弁当屋さんのおにぎりも届いて、鉄板の横の机に肉は言うに及ばず、
野菜類・ソバ・イカ・エビ・ウインナ等が山になって出番を待っている。

焼き肉パーティが始まった―――

焼き肉を家族のお皿に載せている時の話題には、普段聞いて居るドラゴンズと
仕事上の会話は全く聞こえず、焼き肉の取り合いに負けたくない父親の姿が発揮
されている。

「オイ、これうまいから喰ってみな、ジュースはあるか?」
「トンちゃんってコリコリしておいしいのね」

「肉も飲み物もなくなり次第打ち上げだからね。喰った人が勝ちだからね」
「所長、残ったらオレ持って帰っていいですか?」
「残りものは焦げた野菜と肉だけど、それを持って帰るの?」 
一同、大笑いである。 

パーティ開始から少し遅れて来たグループもあって、からかってみた、

「あれっ?手ぶら!?みんな自分で肉を持って来て焼いているのに……」
驚くどころか私のジョークも聞き流して、鉄板に肉を載せ始めている。

まあ喰い物一つによって性格も人格も浮き出てくるものだ。

子供達に言った、
「おにぎり一個から《戦争になった》話を知っている?」
(知りません……今は食べるのに夢中なの……)

大人の方を見廻したけど、視線をそらされてしまった。

「それはね、『さるかに合戦』なの」
おにぎりと柿の種から合戦に発展―――のおとぎ話を人間に当てはめれば、
まんざら有り得ない話ではなかろうし、食糧危機が訪れると……

しかし、机の上の食材はどんどん減って行き、雑談とお腹は相当膨らんだよう
である。

「ここの現場になってから、パパが元気に仕事に出かけて行くのが、よ~く分り
ましたわ」
と奥さん達の嬉しそうな声も聞こえて来て、ここが
《汗まみれの工事現場》
だと言う事を忘れて、幸せな気分にもなっている。

黄金週間を家族旅行等で楽しむ世界にはほど遠くて、仕事場で半日を過ごした
皆の心に、チョッピリと幸せなひとときを過ごせたこの日を、つらい時には想い
出してくれたらイイな……

(この家族の大黒柱にケガをさせては申し訳ない事になる)
と家族の笑顔・安全の大切さを《心の芯まで》沁み届かせて頂いた
『黄金週間の一日』
であった。

   《六月の雨は》 につづく・・・

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