建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

目鼻がつかない状態でも

2023-12-04 08:23:57 | 建設現場 安全

 九月  七日(木) 曇り    

昨日迄雨が降っていたので、地盤が緩(ゆる)い。幸いにも雨は上がっている。
もう待てないので店舗用駐車場予定場所の鋤(すき)取りを始めた。

土は粘土の如くミニユンボにくっついて、整地しているのか混ぜ返しているのか、
訳が分からなくなりそうだ。

目検討で土の盛り上がり部分を場外処分した後に地盤改良だ。
これはKビルで杭打工事の時に一度行っているので、作業内容、作業時間も予定がつく。

土を掘って改良薬剤を混ぜるのだから、濡(ぬ)れている土でも大丈夫だ。
説明書によれば土の中の水分に石灰分が作用して、熱を発生して固まるというものだ。

化学の力を信じよう、信じるのだ、今日は…。
場内掘り返しの関係上、資材搬入車両が入れない。その分周辺道路へ停めてしまう。

一般家庭の玄関の前に平気で車を停める名古屋人の図太さが理解出来なかったけれど、
止むを得ない。
広い道路の左側一車線は、早い者勝ちの駐車行列状態となってしまっている。
この都市で慣れた感覚をここの現場(周囲は田畑)でも同じ様にせざるを得ない。

しかし、今日に限って10時頃パトカーが来て、通り過ぎて―――は頂けなかった。
『責任者を呼べ』と言ってるよ、所長さん」
あり難くない呼出しだ。

「済みません・・・」
「歩道に車を置くな、道路に停めるな、駐車禁止を貼るぞ、道路使用許可は取ってあるのか、
○○組ともあろう会社が何だこれは!」
まあ国家警察とは言え、国民の公僕のお方が、何て物の言い方なのでしょうね。

工事現場と言う弱い所へ『強権発揮』して何が楽しいのだ?どこへ持って行けって言うんだ
ろうか?ここは周辺「田んぼ」だよ。(駐禁の看板は見当たらない…)

道路許可証はちゃんと頂いておりますヨ。
表示看板は仮囲いの解体とともに先日撤去したのでチトまずかった。

もう7日間で『竣工引渡し』を行うのに、仮囲いも許可表示看板もあったものじゃあない。
許可証の控えは提示したものの、
「次に巡回時は全て駐車禁止貼るからな、いいね、君の名前は?・・・」

私の父も戦後まで警察官で「オイ、コラ」だったと母はよく言っていたけれどね・・・。
とにかく国家権力と言い争っても仕事は進まない。

近所の喫茶店の駐車場を借りたり、スーパーへ一時置かせて頂いて、ガードマンを右に左に
走り廻して、場内の鋤取りが済む迄の『しんぼう』だ。
耐えるしかあるまい・・・。

明日迄はこの状態が続く。
明日『駐禁』貼られたら出頭するしかない。

ゼニで済むなら何とでもなるサ・・・というこの開き直りを警察にも、協力業者にも覚悟した。
別に国家に対してケンカを売っているつもりは毛頭ないからね。

後2日間、我々で交通整理をして、第三者災害を防ぐ努力はする。
ガードマンも増員するし駐車場の路盤(下地)が出来たら車は現場に取り込むから、明後日以後
パトカーさん来てね。

この混雑時にオーナーがやって来られた。
じっくり現場を視察される。
(もう竣工迄は注文事項は待ってよ)
と言いたいけれども、何が飛び出すやら気が気でない。

「やっぱり元の色が良かったかねえ・・・」
なんてサイン塔を見て言われた。

もう首締めてやりたいよ全く・・・。
権力と工期に押しつけられた私は、潰(つぶ)れてしまうよ。
このダメージ多い時に、
『泣きっ面に、倒れた所に牛の』だ。

オーナーとは竣工式の準備とその後の予定について打ち合わせをした。
官庁関係の諸手続きは、書類への捺印がすぐ出来る様に、事務担当の岡本副所長に動いて
頂いた。
刑務所現場勤務当時から、夜食に宿泊・夜の麻雀から全て「困った時のオカちゃん頼み」で
上役だが気兼ねなしに頼めるのもあり難かった。


「(雀鬼の)岡本さん、最低限度の書類に絞ろうよ、内容もサ。Aマンションの時の控えがフロッ
ピーに有るので官庁諸手続きの書類差し替えはすぐだよ。直す所だけ赤で書いててヨ。夜ワー
プロ打っておくから、明日は支店で社印もらって来てよ―――それから・・・」
と大先輩なのにアゴで使う私は、きっと岡本さんに甘え切っているのだろう。ゴメンネ。

社内回覧の捺印も岡本さんの力で、1時間以内に済まして来るのは簡単だと信じている私だ。
とにかくM店舗も型が整って来た。
これで舗装すれば完全だ、と思える位にはなったけれども、室内は内装工事(別途業者)がワン
サカ入って寸法を測っている。


「ここは棚だ、ショーケースだ、両開きドアだったんだね」
と、私に色々たずねて来るけれど、
(店内装飾の別途業者まで面倒みれるかっ!!) 
頭に血が上っている自分にハッとした。

自分の事しか今は考えていられないのも、当然ではあろうが、オーナーの専用業者に冷たい
態度を見せるのは、所長として良い筈はない。
最後の最後まで面倒を見て上げる事が、工期短縮出来なかった《お返し》でもあろう。

地盤改良が終わって転圧ローラーで整地を始めたのが17時。
だんだん陽が短くなっているが、とにかく明日朝からせめて10台は車を停(と)める所を作っておこう
と転圧業務を指示したのだが、やり出したら止まらない。

お隣さんが窓から顔を出して、
「何時まで今日はされますの?いつがオープンなのですか?」
「もう1時間、時間を下さい。駐車場を作らないと警察に車を持って行かれるのでね」

自分達が全面的に悪いのに、この際ミソもクソも一緒に他人のせいにする。
「はい、オープンは10月初めです。もう店の内装工事や商品が入って来ていますよ」
「大変ですねエ」
「いいえェ、いつも最後はこうなるのが現場の常でして………スミマセン」

結局20時半迄かかって専用駐車場の路盤転圧は出来た。
これを2日間寝かせておいて、アスファルト舗装をすれば完全だ。
乗用車なら明朝から入っても路盤下地が傷付く事はない。
明日は警察からもう警告を受けなくて済む・・・ホッと一安心だった。

今日も一日『台風』だったのか『戦争』だったのか、アッという間に終わってしまった。
21時半を廻っていたが、帰りにKビルへ寄った。

11日に「塔屋機械室+1階受水槽機械台のコンクリートOK」
と行事予定の黒板にN子の生きのいい右上がりの文字が書き込まれてあった。

(そうか、まだコンクリート打ちがあったのだ・・・)
私の机に腰を降ろして、ここが私の場所なんだ―――と何やらホッとするモノを感じていた。

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