建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

起工式前日なのに

2023-01-19 08:33:17 | 建設現場 安全

六月  六日(火) 雨/曇り     

予報通り雨が降っている。
昨日M店舗に式典用の砂まで敷き込んでいて正解だった。

「テントの準備は昼から雨が上がり次第取り掛かるので、今トラックに積み込み中です」
との連絡が入った。

午前中には上がりそうな小雨だ。明日の式典は足元は多少悪くても天気は大丈夫だろう。
昼の状況を見て、せめて来賓客の靴が軟弱な土に埋まり込まない様に、足代板を敷くかどう
かを判断しよう。

昼から社内検査があるので、昨夜途中でやめてた書類を再び何とか『恰好を付けよう』
チェック項目のバックデータとなる写真とか試験表、成績表、計画書等をファイル別にして整理
をした。
 捺印迄したら真実性のある?様な書類となった。

 しかし、建物を創るのにこんなに書類が必要なものだろうか?他のゼネコンさんも監理書類
を作り、安全を気にしながら、こんな事を各現場で毎日行っているのだろうか。

『監理書類』
といって建設現場にて書類を作らせて、支店でまとめて本社へ提出し、それで終
わり。
正直に書くと本社に見せられない内容になる部分は支店でカットするだろうし、我々も
問題になりそうな事は隠す。

 隠した部分に意義、難問が潜んでいるのに、表面ズラの良い部分ノミを提出して
『報告書で
す』
と言うこの悪い体質をまかり通しているのは何故なのだ!?何なのだ?

  昔、日本帝国が敗戦敗退にもかかわらず「勝って勝って………」
と国民放送したのと、工程
が遅れてかなり苦しい時でも
『大丈夫です』
と報告するのと、どの位違っていると言えるのだ
ろうか。 

設計部長の検査はA設計事務所に対しての《提出書類関係》全てに目を通して頂いた。

打ち合わせ簿の中でも後日問題になりそうな所は別紙報告書としてお互いの確認印を
取って
おく様に言われた。
確かに設計事務所から『お願いされた工事』は追加工事又は変更工事とし
ての、はっきりと
した指示、図面で頂けるモノは余り無い。

「明らかに追加指示したもの以外はサービスだ」
という含みを持った設計事務所との打ち合わせが、近年特に多く感じられる。

 はっきりさせておく事は『商業取引の原則』だと私は認めるけれど、建築屋さんは商売人で
なく技術屋(職人のモトジメ)だから《ゼニ儲けに走る》なんて言うよりも、
『いい仕事をすること』
だと自負しているのは、立派な考えか、肩肘張った『見栄』か《ハッタリ》なのか・・・。

これも仕事の内だけれども、やっぱり現場は大きなプラモデル作製途中の子供の気持ちと
じく『純粋』なものだ。徐々にでも出来上がって行くのが楽しくてしょうがないのだ。

「工事途中にミスがないか?」
のチェックはあり難い事だし、素直に受け入れた人が、
『いい仕事が出来たねと振り返られる物が創れる』
というのは建前だけれど、本音を言わせてもらうと―――今日はよそう。

四時頃支店から式典確認の電話が入った。
「テント出来ましたか?支店長も出席になりましたので………式の後、近隣挨拶を・・・」
(バッカ野郎、テメエの目で現場見て来いってンだ、式典迄は工事人の出る幕じゃあねエ) 
と言いたいや、言いたいよ。

「支店長も出席の一言にカーッと来た。(出席して当然だヨ)
自分の上司が来るので自分の都合だけ考えていて、不安になって現場へ電話を入れる。
大事な物事なのに何で自分の目で確認しないンだ。

支店からそんなに離れている訳でもないのに何故、何故動かないのだ。
(これが建築会社の上級事務担当者のいう事なのか)
と思うとあまりにも情け無くなってしまった。
  起工式の後はKビルの安全パトロールが控えているという『気ぜわしい身』なのに・・・。

五時半、日没寸前にM店舗へ行った。
営業担当の岡田君が辺りを掃除してくれていた。これには感謝し、又、感心もした。

一応現場状況を確認しておくのと、式典の準備で忘れモノがないかをテントの中で今一度
ェックした。
「所長、急で悪かったね」
いつもの事でネ、慣れているサ、もう……」
と軽い冗談だ。
喫茶店でコーヒーでも飲もうと誘った。

「ここの現場を取る(受注)迄にはねえ・・・」
と苦労話、ウラ話を聞かせてくれた。(営業も楽じゃないんだ……)

 と言えばそれ迄だけれど、岡田君の顔には、
「俺が取ったんだから責任があり、これからも責任は続く」
という自負が伺えて頼もしく思えた。

「四ヶ月の突貫工事だけれど仲良くやろうよ」
 と約束した。

あわただしく時間を追っかけた様な一日だったが、最後に岡田君との出会いで落ち着いた気分
で仕事を終える事が出来た。
明日からは本当の『掛け持ち仕事』開始となる訳だナ。頑張ってみよう・・・。

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現場兼務命令下で

2023-01-05 17:02:30 | 建設現場 安全

六月  五日(月) 曇り   

兼務先の現場名は『M貸店舗 新築工事』請負金7,500万円。鉄骨平屋建てだ。

テナントはブティック入居がもう決定していて、Kビルからは2㎞以内の所であった。
起工式用草刈りの打ち合わせもその他の連絡先も、全てKビルからの発進FAXである。 

「所長のことだから出来るよ、心配しなくても……」
なンてお上手を言うのも親方の営業なのだろうか。
今はとにかく時間が無いのだ。

(この2日間で終わらせるのだ)と私は色々と手を打った。
悪いことに明日は雨の予報だ。
今日中にやるしかないので、テント張る部分の草を手で刈る
予定を急遽変更してミニ
ユンボをリースして、一気に敷地全体を鋤(すき)き取る事にした。

三時頃にはセイダカアワダチ草がここに生えていたなんて思えない位(草の根は多少残って
たが)になっていた。

 乗用車が乗り込めるように道路からスロープも作ったけれど、鋤き取った分だけ地盤が軟ら
かいので、何度も通れる様な地盤ではないが3時半にはもうダンプで式典用の砂を入れた。

 なんとかこれで明日雨が降ってもテント張りは可能な状況には仕上げられた。
  テント張りと式典準備は専門のリース業者に発注してある。 

 5時半頃にKビルに戻ってみると、
「明日支店からKビルの『社内検査』に秋田設計部長が来られます」
とN子の書いた小さなメモが机の上で威張っていた。

(こんな時に―――こんなメモなんか風で飛んで行ってよ……私は知らなかった)
と言い訳をしたいものだった。

もう……もう涙も出ないという気分になってビールを飲んで落ち着く事にした。
何だか気分だけが焦っていて、浮わっついているのが自分でも分かる。
とにかく今日、一つ
はやる事をやって来たのだから・・・ね。

「コンクリート打ちは予定通りなのかね?何か困った事はなかったかネ?」
Kビルを見渡しながらF君に訊たが、きっとキツイ言い方をしたのではないかと反省する。

彼自身も責任をもって(持たされて?)の1階の型枠・鉄筋工事が完遂しようとしている。
後は上手に生コンを手配し、打設出来ると、2階から最上階迄は彼自身も《ペース配分》が
出来る様になると思う。
とにかく良く頑張ってくれている。
もうひと踏ん張りだよF君。

後の仕事としてはA設計事務所の『配筋検査立会い』が残っていた。
打設日は既に連絡済なので明日の午後には来られると思うが、確認の電話をしておいた。

「現場ではこういう風にチェックしました」
という自主検査チェックリストを提示するつもり
だ。
それに明日は社内検査として支店設計部長のチェックを受ける。
その結果報告も書き加え
ておくと内容の濃いチェックリストになるだろう。

「自分でチェックしたらダメでした」
という報告書になる事はないだろうけれど、鉄筋工まか
せでなくて
『我々で監理しているのだ』
という姿勢も必要だと思う。

梁筋は完了しているが、まだスラブ筋の組立が残っている。
私はスラブ型枠へ上がって見た
けれども、後一日半の仕事だと思えるし、水曜日の午後からは
2階の準備にかかれる。

明日はM現場は式典テント張り、周辺掃除、Kビルは鉄筋工はスラブ筋とさし筋組、
大工は返し壁、階
段の段板取り付け、通り直しだ―――とF君と確認した。

明日もKビルはF君にまかせっきりになって、彼が現場を取り仕切る時、迷わなくて済むよ
うに2~3ポイントを指示しておいた。

もう1本ビールを飲む。
今からでも明日の検査受入れ態勢としての書類を整理しておこう。

しかし(このクソ忙しい時に)とついついグチってしまう。
これも私の現場の為だと分かっ
ていても、私自身の為だと分かっていても『素直』になれない
のはどうしてだろうか。

検査とか試験とかに対して『構えて』しまうからだろうか。
別にイイ所をみせなくて、当た
り前の所を評価して頂きたいのだが、着工から今までの工事の
中で、忘れている監理項目がな
いか、手配ミスが起きそうな所は今から手を打っておく意味の
チェックでもある。

工事写真も中間出来形検査をしておいて、役所へもサッと提示出来る様にアルバムに整理して
おか
ねばならない。
明日迄には間に合わないけれど、今日現在の土間工事完了分迄はビシッと決めておこう。
ズルイけれど《今日の明日》では日々の監理不充分だと言われれば、
「スミマセン忙しくて」とでも答えるか、不本意ながら・・・。
十時を廻って、やってもキリがないので帰宅した。

 

  六月  六日(火) 雨/曇り

 

 予報通り雨が降っている。昨日M店舗に式典用の砂まで敷き込んでいて正解だった。

 

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