建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

プロローグ 3

2022-03-21 19:53:11 | 建設現場 安全

…………(プロローグ 3…………

 つまり、その日その日の出来る所から手を付けて行けば、やがては出来るだろうと思う。

私自身、週間工程表をよく書かされて(実際このとおりに出来る訳ないのに)と思いつつ、
又《書いた通りなら苦労はしないよ。雨だって降って一日延びる事もあるだろうし・・・》
と思うと、真面目にたったの七日間の工程表でさえムダな事をやらされているという感覚に
とっぷりと浸かってしまったものだ。

職人が来れば私の仕事はあるが、来ない時には何をして過ごせばいいのだ?と思っていた。
伝票の片付けも必要だけれども、当時の私にデスクワークは向かない。

すぐに退屈してしまって現場事務所から出て行く。
現場内で掃除、片付けでもするか、下手をすりゃ喫茶店へドロンと逃避するのは簡単だが、
天気が晴れて職人が倍数も入って来たらどうなるかを考慮出来る様に成るには、相当の年月
が必要であった。

仮に雨が二日間降り続き、現場は作業順延を余儀無くされていても、三日目の作業日には、
「俺たちに雨は関係ないよ」
と予定通り入って来る全く別の業種も有る。

ここでこの業種を仕方なく順延すると工程は三日は確実に遅れたことになる。

工期(竣工引き渡し日)は延びない。
どこでこのロスをとりもどすのか?
打ち合わせをしていても満足に職人が入って来ない業種に、
「明日から人数を倍にしろ」
と言って、その通りに段取りが成るだろうか?

工程表では何日までに終わらせろと書き込み、その為には四人しかいないグループなのに
八人(2グループ)入れると自分勝手に作製する。

が、人間の頭数が急に増えるものでもない。
雨が降って予定がズレたのは私の現場だけじゃない。

この地域、地方一帯全て雨なのだから、私の所だけ雨が辛く当たったものでもない。

自分で慰めて気を取り直してボソボソ(ブツブツのほうが真実かな)と工程表を作り直す
のだった。

だが、この時最も頭を痛めているのは『親方』である。

職人達は日給(日払い)ないしは日給月給(一月分まとめて一括支払い)が大部分である。
雨が降ると仕事が可能かどうか判断に迷う。
掘削、建て方の弋(とび)、溶接、圧接等は雨だとかなり仕事はしづらいが、他はシートを覆う
等の工夫をすれば『やる気』になれば仕事は出来る。

しかし、職人はやっぱり一日働いていくらの世界なので、現場へ行って雨が強く降れば
中止して帰らざるを得なくなれば気を遣うのだ。

「親方、昼まで働きましたので半分日給を・・・・」
と、なかなか言えぬものらしい。

そこを親方は気前良く半分出す(当然の事ではある)場合より、ほぼ一日分払う方が多い
様に思われる。

少しぐらいならケチらずに次も仕事をやってもらわねば、人手が足らないこの時期こそ
『人集めの一方法』
だと割り切ってフトコロを緩めざるを得ない。

仮に型枠大工としよう。大工さんの常庸(じょうよう)単価(日当)を二万円として、

   五つ現場をこなしてる親方だと、平均六人グループとしても、
   30人は職人さんが居る。班長さんもいれば手元(助手)もいるが、
   半日しか働かないのに2万

半日完全に働いたのならまだしも、八時半には雨が上がるだろうと空を見上げて仕事は手を
付けていない。

「まあ小降りになるまで待つかあ・・・」
と言って昨日のナイターの話をするか、元気に花札を出して………。そして周囲がゴソゴソ
と何やら仕事をしかかると重い腰を上げる。

「おっ、やる気になったか―――」
と私達が思ってみたのも束の間で、
「合羽(かっぱ)が足らねえンだよ二人分」
とか
「雨で漏電して電動工具が使えネエ」とか
「寒くなるンで酒を買って来て」
とまあ何を今更みたいな事をシャーシャーとおっしゃるのだ。

私達は一歩でも現場が進めばと思い、ある程度の協力はする。だが、すぐに十時の休憩
タイムになる。

九時過ぎ迄雨で待機していて十時前には休憩室へ服を乾かしに入り、十一時頃から十二時
少し前まで働いて、
「今日は雨で仕事にならん、やっぱり帰る、風邪ひいたら元も子もないので・・・」
とまあ当然、残念だが、帰りたくはないが―――という名文句で帰られる。

私達は仕方無いとあきらめられるが、親方はそれでも日当を払うのかと思うと、親方とは
つらい哀しいものだと思い、胸に言いようのない切なさを感じてしまうものだ。

だが、職人の手配で悩み、天候で泣き、仕事の精度で怒られている親方と友好関係を作り
上げ、良いコミュニケーションにて一つの現場を創り上げる事には、

『言語に絶する悦び』
が有るものだ。

この悦びを糧に現場マンは悪条件(本人はあきらめてる)の中を生き延び、次の現場へと
翔び立っていけるものだと思っている。

工事日誌や安全日誌それに日記等と言う継続するものに、性格が向いてない私ではあるが、
一日三行位は現場の事をメモをしていた。
このメモを基に私は約一年かけて創ったKビル(一般的テナントビル)での人間関係
(人間ドラマにも見えるもの)
を書いてみようと思い起った。

専門の建築用語は極力避けて一つの話、現場の喜怒哀楽をこれからの建築現場を希望して
いる若者達、現場は仮囲いの中で何をやっているのか気になっている人達、建築現場のお隣
さんで迷惑だと思っている人達に少しでも
『現場のシナリオ・ドラマ』
を伝えてみたかったのです。

スジの通らない私の一方的な偏見かも知れません。
また、私の考えを正当化しようとは何一つ思ってはいません。

こういう事があるのだよ、苦労話かバカ話か、はたまた私のグチとボヤキにも思えるけれど
《建物を創り上げる》
と言う大前提のもと、延何千人もが出入りしての『人間ドラマ』として読んで頂ければ幸
いである。              

                                                                                 

   (平成元年に施工した現場のノンフィクション・エピソードです)

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プロローグ 2

2022-03-05 12:54:58 | 建設現場 安全

 …………(プロローグ・2…………

親方の周囲には小道具を点検したり、地下足袋(じかたび)をはきかえたり、煙草を吸っ
たり、親方の
ポケットマネーのジュースを飲みながら、この先どうなるやら―――
と成り行きを《そば耳たてて》興味津々(しんしん)と職人達が見ている。

親方としても今朝(大体六時十分頃)出かけて来るマイクロバスの中で
「今日は○○の仕事だからな・・・」
その日の仕事内容をチラリとは伝えてる手前、急に△△の仕事になると、昔風に言う
《メンツが立たない》と言う事に気配りをする。

自分一人ならOKだろうが四~五人の前で、若手職員からの急な作業変更打ち合わせの
指示に、気前よく「ハイッ」と言う親方はまずいない。

親方の以前からの提案方法に戻す場合でさえ、
初めッから俺が言っとった事だぜ・・・・でも今日は――」
と言って口を閉じる。

「俺たちは組(この場合ゼネコン)から頼まれて職人を連れて来たんだ。相手のB社にも組
の方からキツく言って今すぐ来てもらう様にすれば、朝からの仕事を変えなくて済む。第二
工区の△△は明日人数連れて来て(増員して)でもやったるから―――」
と親方は必ず言う。

気の小さい親方でも顔に額に汗を滲(にじ)らせて無言で訴えても来るものだが、気の小さい
若手職員はその空気のまずさ重さに耐えられずに、全く別のことを考えている事が多いのだ。

そこがこの建築業界の恐ろしさ図太さである。

何を考えているのかこの若き職員は・・・・?
 
若き職員と言いながら実は私の若かりし日々、『現場マンに成るんだ』とヤンチャに燃えて
いた頃をフト思い出してしまった。

そうこの時若手職員は十時半からの、言い換えれば休憩時間後に、すぐ何から仕事をするか
(させるか)の一点に絞っているのだ。

《親方の気持ち》なんて考えていたら所長から言われた
(第二工区の△△・・・)の段取りが狂ってしまう。

それに自分も所長の考えがベターだと思い、お互いに今日の出面(日当分の仕事)で損はし
ないと計算したつもりでいる。

だが実は、若手職員の仕事としてまず第一にB社を八時半迄待って(通常現場は八時から
作業開始)からB社に、
「今日うちの現場に職人さん出たの?」
と電話をする。
こんなに穏やかに訊ねている間はまだ現場内コミュニケーションも良い方だ。

これが、 
「社長!以前から約束していて、昨日も確認していたのに何で職人を廻してくれないんだ!」
と怒鳴り散らす人もいる。
相手が誰であっても怒鳴り散らすのである。
まして電話取次のアルバイトの娘とか『社長の奥さん』にさえ一向に言葉を選ばず罵(ののし)
ってしまう。

そうなるとあのX現場事務所からの仕事の話は《社長に任せよう》となる。

社長としてはY現場が忙しくてどうしても仕方がないから、職人の配置を変えたので迷惑をかけ
たなと反省しつつも、算盤(そろばん)をはじいてみれば明日もう一日Y現場へ職人を
送り込んで
一段落付けてX現場へ戻ろうと予定変更を考える。

誰が考えても作業能率を考える。
これが即、協力業者の儲けに成る。
親方の会社としてはゼネコンから安く叩かれて決めら
れた仕事だけれど、手を抜くことは
《職人気質(かたぎ)としても絶対出来ない。

ここでは能率向上アップ、無駄の排除しか考えられないのは当然だ。

今日Y現場に道具を一式持って行って作業し、夕方Z現場でチョット前日の残した仕事を
完成させて帰社する。

こううまく仕事は繋(つな)がらないけれど、午前と午後で2現場をこなすと親方の手持ち工事
物件がどんどん消化され、儲けも伸びる。

だから今日Y現場へ職人を割り当てたのだから、一区切り付けてX現場へ交替させようと
わざるを得ない。
拡げた材料や道具工具類を片付けて持ち帰り、X現場用へ荷物を積み替えて、またその晩に
はY現場用に積み替えて・・・なンていくら気前のイイ親方でも何度もやってはくれない。

そんなところへX現場から怒鳴り込みの電話を受ける。もう悪循環、そして悪循環。

さあーそんな裏話が読める訳もなく若手職員はやんわりと現場へ出たか否かを聞き、今日
は現場を空けられてしまった事に気付くと、即所長へ報告し次の段取りを考える。
指を喰(くわ)えたままではいられない。

「第二工区だ。そっちへA社を廻せ、D社もE社もだ、F社には予定が変わって早くなる連
絡をいれとけ・・・」

この簡単且つ自分勝手な(現場の都合でしようがない?)段取り替えで大勢の心意気が消
沈してしまう事に私自身も気を配らない。

現場の都合だから・・・職人の都合だから―――もとを突き止めればB社が人をよこさない
ので・・・まあ仕方ないか。

とにかく自分の正当性のみを押し通してとにかく第二工区を十時半からやろうと号令を掛
けてしまう。しまったという方が正しい。

だからA社が機嫌を損ねたら全く方向性が無くなってしまう。
A社の親方=世話役も自分が自分の会社からまかされて出て来ている関係上、この現場は
上手に納めたいのは承知の上である。

だけど勝手に予定を変えられたンではこの先この現場はどうなるのかと心配して下さる。
親方と若手職員それに所長の腹のくくりどころ(さぐりあいではない)、肩肘張るか、相手
を通すかで今日の仕事なおかつ『明日からの仕事』に影響を与える。

親方としては渋々ではあるが、
「仕方ねえ・・・」と言ってくれる間に私は、
「アリガトウ、ゴメンネ」
と必ず言う事を若手職員には強く教えている。

この場合、親方と所長の間に入って調整している若手職員は、現場の工程監理について疑問
を必ず抱くと思う。そして不安やイヤ気を感じてしまう。

昨日の打ち合わせでは、明日は○○だと言って気合をいれたのに何でまた―――だったら
工程は職人さん達の出面(出勤)加減で早くなったり遅くもなるものだ。

ゼネコンが総合工程表を書いてみても竣工引渡しの日が変わらない限り、どの様に作ろう
と勝手なのだ。

つまり、その日その日の出来る所から手を付けて行けば、

                     プロローグ3へ続く

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