建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

二月の雪は

2021-02-04 14:57:37 | 建設現場

            ………………………(二月の雪は) 
建設現場にとって雨は天敵だが、雪もまた好きにはなれない空からの贈り物である。

広島という比較的暖かい所で育った私が、雪で困惑する姿を寒冷地の人達が見れば
笑うだろうけれども、真冬の寒さ対策は得意にはなれなかったものだ。

豪雪地帯の現場に乗り込むのならば、仮設工事の項目に除雪の欄があって予算も計
上されているだろうが、中途半端な山間部の工事では除雪対策費はまるで無かった。

「おい福本、雪が降っても8時の朝礼は行うぞ!明日遅れるなよ!!」 
と所長から言われた現場があった。

「渋滞になるだろうし、職人さんも8時には間に合わないのでは?」
「俺は電車で来る。誰も来て居なくても俺たちが遅れて現場に入る訳にはいかん

(何の為に来るンだよ……、それで何のイイ事があるの……?)
「職長にもそう伝えろ!」

万事高飛車と云うか上から目線で、自分の権限に酔うのか麻痺しているのか知らないが、
傍目から見れば何とも嘆かわしい話である。

万事この調子だから、職人さんとの横の連絡網が張り巡る術もなく、
「俺の言うた通りに動くヤツがおらん!」
と愚痴って、協力業者の《貢献度評価》蘭への記入点数がいつも低い。
逆に協力業者から所長に対しての評価(好感度)が低いのも同じ心境だろう。

当日の朝、雪のせいで朝礼に間に合わない業者のオーナーに、
「お前のところはどうなってンだ!、今日は来ないのか、雪ぐらいで休むのか!!

電話機を独り占めして、いかにも仕事をしている様な口調に陶酔されて、空恐ろしい
雰囲気の現場事務所になってしまった。

「雪が積もったら仕事が出来るように《朝一番》皆で雪掻きしようぜ」
と私なら全員で《何とかしよう》と呼びかけるところだが、

ここは現場の雰囲気が悪いので、
(雪下ろしが済んだ頃に来ようかな……)
と誰もが考えていたようだ。

私の現場の場合―――真冬・岐阜県。

     積雪時には朝礼時間を遅らせて、皆で雪掻きをして汗をかいても文句は
     出なかったし、
      「所長、熱い缶コーヒー飲もうよ」
     と誘われる度、私のポケットマネーはいつも自販機に吸い取られたもの
     だった。

ここの現場に話を戻して―――

一般道路は積雪渋滞の中で、イライラ運転しながら現場に到着し、重たい雰囲気のままで
朝礼広場に行き、雪の上でラジオ体操をした後に、誰が雪を処分するのか戦々恐々としている。

「朝礼が済めばすぐに作業が出来るから、朝礼に遅れるな!」
と言われてあるのならば朝礼に間に合わせる事に納得は出来るが、入場門から休憩所迄の
指定通路が除雪さえされておらず、職長さん自ら除雪しようとの気概はサラサラ無い。

「遅いじゃないか!みんな朝礼に間に合うように来てるぞ!!」
とやっとたどり着いた職人さん達に向かって、所長さんは朝から罵声の連続である。

(やっぱり来るンじゃあなかった…遅刻の罰で《雪掻きをしろ》と言われるし、もう帰ろう……)
職人さんとのホットな気持ちが無い上に雪が舞う寒さも加わり、私の心は凍ってしまった。

『雪解けムード』
って言葉はここでは春になっても、否、夏迄待ってもやって来ないと険悪感が渦巻く現場になっている元凶は……と確信したのも二月の雪を見てからだった―――な。

 私の現場の《雪掻きの話》に戻せば―――

 屋上の防水工事が最初の工程表では二月になっていた。
「二月は雪で何ともならんよ」
と地元の職人さんから悲鳴が聞こえた。

「ならば正月明けから着手出来るように、前倒し工程に変更だ」
の号令をかけたのは、雪のせいで防水工事が3月施工になったら年度末竣工はおぼつかない
し、手をこまねいている訳には行かないからである。

10月下旬からは休む事なく走りに走った工事となったし、年末も30日まで全員で突っ走った。

チームワークよくまた天候にも恵まれて、雪の降り始める前に屋上の防水工事が施工可能
状態までになって、ひと安心もつかの間に『初雪予報』が飛び込んで来た。

「所長、どうします?」
「ここまで来て屋上を雪で積もらせる事はさせん!」

となれば屋上全体にブルーシートを敷いて、
「この上に10㎝ほど積もって頂こう」
《雪の女王》にお願いするしかあるまい。

ここから数㎞先にはスキー場が多くて、雪を待っている人達が多い中を、
我々現場関係者
が自分達の都合で雪を恨むのは筋違いだと思えば、
降雪対策もさほど苦にはならないもの
だった。

5.5m×3.6mのブルーシートを50枚用意して、20㎝程度は重ねて敷くようにし、
風で飛ば
されないように土嚢袋に砂を入れたものを150個用意した。

屋上の防水工事に直接関係が無い人や、室内で作業している職人さん達も総出で、これらの
材料を屋上へ運び、シートを拡げ、3m角程度に砂袋の重りを並べたのだが、

「一斉清掃で埃を被るよりは楽しいよ、所長」
との会話も出て来て、屋上の積雪対策は万全となった。

雪は遠慮なしに降って来るようになったが雪晴れの日も続くのだから、
その間をぬっての防水工事は予定の1週間遅れで完了出来たのも
《チームワークの御蔭》である。

ブルーシートをめくると多少水に濡れた跡があり、これはプロパンガスボンベ付のバーナー
(あぶ)って乾かす事にした。
(横断歩道の白線を引く時に、乾燥させているのを参考にした)

このバーナーを上に向けて鉄板を敷き、降雪と除雪対策に参加してくれた人達との
焼き肉パーティが度々出来たのも雪の余禄・雪の女王様からの贈り物としたもの
だった。

(除雪予算枠から肉屋と酒屋に支払った金額は、皆の胃袋に回収されてメデタシメデタシだよね)

ひとひらの雪に趣を感じる余裕もない心では、建物よりも『館』としての芸術品を創るには資質が無いのがハッキリと分るし、天上界に挑まずとも雪との愉しみ方はあるものなのだ。

雪国で働いていらっしゃる方々からこの
  『二月の雪は』
を読んで、なんとお粗末な現場だと思われるでしょうが
  《雪だるま》
をグループ毎に作って、
      『現場の出入り口に飾る』
と言う遊び心が、未だに卒業出来ない私を笑って……許して下さいませ。

                 ―――『二月の雪は』 終

 

 

 

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