華氏451度

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笑わせてくれます、教育再生会議

2007-05-02 00:23:23 | 教育

◇◇◇はぁ……親学に関する提言、だそうです◇◇◇

 nizanさんが「教育再生会議のバカ発言」で、同会議の懲りない提言(?)を笑い飛ばしておられる。

 教育再生会議 については皆さんよく御存知だろうが、「21世紀の日本にふさわしい教育体制を構築し、教育の再生を図っていくため、教育の基本にさかのぼった改革を推進する必要がある」ということで、昨年10月10日の閣議決定によって設けられたものだ。メンバーは内閣総理大臣、内閣官房長官、文部科学大臣、そして「有識者」である。有識者として選ばれたのは、劇団四季の浅利慶太、東海旅客鉄道会長・葛西敬之、資生堂相談役・池田守男、国際日本文化研究センター教授・川勝平太、東京大学総長・小宮山宏……その他。

 3か月ほど前の中間報告でも噴飯ものの提言がおこなわれたが(それについては、過去のエントリ※でも触れている)、感覚のズレ具合にますます磨きがかかっている模様。先月25日に概要がまとめられた「親学に関する緊急提言」には、爆笑してしまった。提言は11項目。

(1)子守歌を聞かせ、母乳で育児
(2)授乳中はテレビをつけない。5歳から子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない
(3)早寝早起き朝ごはんの励行
(4)PTAに父親も参加。子どもと対話し教科書にも目を通す
(5)インターネットや携帯電話で有害サイトへの接続を制限する「フィルタリング」の実施
(6)企業は授乳休憩で母親を守る
(7)親子でテレビではなく演劇などの芸術を鑑賞
(8)乳幼児健診などに合わせて自治体が「親学」講座を実施
(9)遊び場確保に道路を一時開放
(10)幼児段階であいさつなど基本の徳目、思春期前までに社会性を持つ徳目を習得させる
(11)思春期からは自尊心が低下しないよう努める

 

◇◇◇親戚のジイチャンの説教じゃあるまいし◇◇◇

 まず真っ先に思うのは――へええ、お歴々が雁首そろえて考え抜いた揚げ句の「教育再生」のための提言、がこれですか。やれやれ。

 まるで親戚のジイチャンあたりの、思いつきの説教を聞いたような錯覚を起こす。こんな提言を引き出すために税金使われているのかと思うと、情けなくて涙も出ない。この程度の提言が欲しいなら、わざわざ有識者とやらを集めなさんな(それにしても有識者って何だろう? 子供に聞かれたら、皆さんどう答えますか)。私の母親みたいな平凡な無識者バアサンだって、もう少しましなアイデアを持っていると思いますがね。

 教育評論家の尾木直樹氏(法政大学教授)が、こう言って首をかしげたそうだ。「書いてあることは間違っていないが、政府会議ともあろうものが何を言ってるんだ、という感じです。なぜこうしたことが実現しないのかを社会的、経済的に分析し、実現のための政策を提言するのが仕事なのに、これでは職員会議の議題です。聞くところによれば、会議では演出家が『演劇鑑賞も入れてよ』と言い、子育てを終えた人が『やっぱり母乳よね』と言ったそうで、それがそのまま提言になっている。母乳の出ないお母さんはどうすればいいのか。こんなのを挙げていけば100も200もの提言になってしまいますよ」(4月30日付・日刊ゲンダイの記事より)

 あはは、いっそ11なんて遠慮せず、「提言1100」とか出してはいかが。いや、そこまでいくとさすがの国民もあほらしさに気付くので、もったいぶって数を絞ったのかな。

 

◇◇◇国民は幼稚園児か?◇◇◇

 尾木教授によると「言ってることは間違っていない」そうだが、私などは「そうかなあ」と思ってしまう。nizanさんではないが、それこそ突っ込みどころ満載。私もちょっとだけやってみると……

○子守歌を聞かせ――――→音痴の親はどうするの? それから……子守歌、って何よ? モーツァルトの『魔笛』とかじゃダメなんですか?

○父親もPTAに参加。子供と対話し教科書にも目を通す――――→私は母子家庭で、父親いなかったんですけど……(お父ちゃまとお母ちゃまとが揃ったのが健全な家庭、みたいな雰囲気には、ほとんど反射的に違和感覚えるのだよね)。あ、それから私の友人達は父親であれ母親であれ子供とそこそこ話もしているし、教科書も読んでますよ。なかなかできない人もいるけど、それは本人がやりたくないのではなく、泣く泣く単身赴任したりしているから。さては安倍首相はじめ政治家の皆さんや、有識者のセンセイがたは、そういうことやってなかったのだな。

○テレビでなく演劇など鑑賞――――→会議メンバーのかたがたは、よほどくだらないテレビ番組しか御覧にならないらしい。いい番組もたくさんありますがね。子供向けアニメだって(私は子供がいないのでよくわからないが……)いいものがいくらでもあるだろう。だいたい、「演劇など芸術」と平然と言う神経がいやらしい。

○自尊心が低下しないよう――――→疑問を持つ子供に対して頭ごなしに国旗国歌を強制するのは、自尊心を傷つけないんでしょうか? それにしてもこの項目は、ほんと、具体的にはむろんのこと、抽象的にも何言いたいのかわかりません。

 だが何よりも一番胡散臭いのは、「早寝早起き」だの「あいさつ」だの、それ自体は別に悪いことじゃないよなということ、ただし国から言われるこっちゃないだろ、ということをシャアシャアと「提言」していることだ。親戚のジイチャンから言われるなら、そりゃかまいませんよ。「はいはい、その通り」と頷きます。私は子供の頃から夜型で、今でも遅寝遅起きの方だけれど、日の出と共に起きて早く寝る生活の方が昼行性動物には健康的なんだよなぁ、イカンなぁ、とは思う。ましてや小さい子供は、できれば早寝早起きした方がいいのだろう。

 しっかし!! そんなことまでいちいち国が言うな、と私は断固として思う。国民は幼稚園児ではない。いや、幼稚園児扱いされているのかな? いちいち細かく注意されないと何も出来ないと思われているのだと気付いて、国民は怒るべきだ。

 

◇◇◇地獄への道は善意で敷き詰められている◇◇◇ 

「この11の提言を大きなお世話、と一蹴したいところですが、大きなお世話は善意から出ているのに対して、これは善意どころか極めて悪意で意図的に出されたものだ、といっても言いすぎではないような気がします」と、静かな口調の中に骨っぽさを滲ませてとむ丸さんが書いておられた。(「宗教色の強い倫理観」の恐ろしさについて考察した5月1日のエントリ)

 私は「大きなお世話」は必ずしも善意からのものばかりとは限らない(善意の衣を着た悪意、もしくはマイナス感情に基づくものも多々ある。たとえば出る杭を打つという大きなお世話も、世の中には多いのだ)と思っているが、それはまあどうでもいい。ひとつひとつの項目は「単なる思いつき」としか見えないほどあほくさいが、その背後には確かに意図的な臭いが漂っている。

 いや……このすさまじいお節介は、ある種の善意なのかも知れない(と、ふと思った)。幻想の「古きよき日本」に憧れ、その世界に回帰することが善だと信じ込み、国民はバカだから幼稚園児のように手取り足取り指導してやらなくちゃ、と思い込んでいる、そういう類の「善意」。やっぱり道徳って大切だよね、道徳観を広めなくちゃねと思っている、そういう類の「善意」。国民は国を守るのが当然で、それによって幸せになれるのだと思っている、そういう類の「善意」……エトセトラ。善意は必ずしも正しい方向に働くとは限らない。たとえばカルト宗教の信徒が人に入信を勧めるのも、掛け値ない善意からであったりする。だから怖いのだとも言える。

 いずれにせよ、為政者(をはじめとする、権力を握った者達)が道徳だの倫理だのと言い出すことほど恐ろしいことはない。それを言い出した時、彼らは支配される側の心までを縛ろうとしているのだ。いや、むろん「上の人間」は、常に人々の心を縛ろうとしているのだから、その方向に露骨に走り始めたと言った方がよいだろう。道徳も倫理も「個人」のものである。国がシタリ顔に説教することではない。

 

◇◇◇◇◇◇ 

※教育再生会議の提言に関連したエントリ: 「ボランティア体験の義務づけ??」 「『態度を養う』怖さ――外相を整えさせられまい」

 戸倉多香子さんを応援しています(民主党は支援していませんが……とくらさん、ごめん。でも、だからこそ、民主党をもう少し何とかしてもらうためにも)。

コメント (5)
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