ブロブロガー@くつログ

Proと呼ばれたい...そして日々悪戦苦闘する
Brofessional な職業人の安息の日誌

◇成熟社会の大ヒット商品とは?~小野経済学入門

2010-08-12 | 経済学
> Bro,ケインズ経済学のエッセンスはどうしたの?
> 今日のテーマは,ケインズだったはずですよ。


やっぱりね,面白くないかもしれないので,急遽方針を変更しました。


> どうして?
> ケインズの名前を知らない人は,ほとんど居なくても,その経済理論とな
> ると,専門外の人では知らない人も多いと思いますよ。
> エッセンスだけでも,分り易く整理すれば,読む人は多いと思う。


最初その様に考えたのですが,流石にケインズ理論を一般向きに解説したWeb
サイトや書物は,沢山ある事に気が付いたのですよ。
もし,読みたいのなら,あのノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン博士
が解説したものを,山形浩生さんが邦訳している,このサイトがお勧めです。

ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』解説
  URL:http://cruel.org/krugman/generaltheoryintro.html


> なるほど,難解な理論の読書案内には良い解説ですね。
> でも,まったく専門外の人には,少し難しいかも?

今さら,有効需要原理だの,乗数効果だの,流動性選好説だのと説明してみて
も,知っている人には退屈なだけですよ,おそらく。
もっとも『流動性の罠』の話は,近年の日本の経済状況を考える上で復習して
おくべき事柄かもしれません。

> じゃあ,今日のテーマは何なのです?
> 成熟社会の大ヒット商品??


ケインズの経済理論が,現在の日本のデフレ状況の解決に,どこまで有効か?
きちんと考えてみる必要があると思ったのです。

> なるほど,前々回の高橋財政の議論の際に,社会状況の変化について少し
> 触れていましたね。経済政策の有効性や効果に違いがあるかもしれないと。
> そう言えば,財政政策の乗数効果については,はっきりと否定する論者が
> 多いですね。特に経済学の専門家に多い様ですが?

ええ。私も当初,その様な意見の経済学者は,市場原理主義の立場に立ってい
る人達だと考えていたのです。そもそも政府の介入を有害だと考えていますか
らね,市場原理主義者の場合には。
しかし,以前にも話した通り,そもそも1990年代の日本の財政政策が,なぜ期
待通りの効果を達成できなかったのかを,きちんと検討してみる必要があるの
です。


> Broは,巨額の不良債権の存在が当時の金融政策の効果を無効化した事と,
> 今日の様な豊かな社会では,収入の増加が直ちに消費や投資の増加に直結
> するとは限らない点を主張していましたよね。不良資産や負債などがあれば
> その改善を優先する場合も考えられると。

そうなんです。そもそも大多数の人々が貧しくて消費意欲が旺盛な社会と,バ
ブル後の日本の社会の様に,大多数の人々が豊かで,基本的な生活物資や消費
財が充足している社会とでは,需要の行く先が異なる事は容易に想像できます。

> 「豊かな社会の需要の行く先」=「成熟社会の大ヒット商品」と言う訳で
> すか。何なのです,そのヒット商品とは?


それは「お金」の事です,菅総理のブレーンの小野善康先生の説明によると。
確かに,慢性デフレの低金利下では,流動性に対する選好が高まる事は,ケイ
ンズも指摘していた事なのですけどね。

> 物価や,株や土地などの資産の価値が下落するので,相対的に現金や預金
> などの「お金」の価値が高くなる訳ですね。分り易いです,そのお話は。


多くの人々の需要が,消費財ではなく「お金」そのものに向かい,「お金」に
執着する結果として,消費がさらに冷え込んで,デフレが一層強化される事に
なります。投資よりも貯蓄が過剰になりますからね,デフレ・ギャップを生む。

> でも,低金利なのだから,企業は,その様な遊んでいる資金を効果的に吸
> い上げて,再投資に振り向けるはずではないですか?


充分豊かな成熟社会では,その様な投資効率の高い,効果的な投資先が少ない
事も特徴らしいです。それよりも,遊休資金を集めて,借金の借り換えや,バ
ランスシートの改善を行う方が効果的である場合が多い。

> なるほど,需要が少ないと,財テクの方が有利ですか。それも,分り易い。


結局,充分豊かな成熟社会では,慢性的に需要の不足が生じていて,有効な投
資先が少なく,デフレ圧力が強いために,「お金」を保持する事が有利になって,
人々は「お金」そのものに執着する。その結果として,ますますデフレを強化
してしまうと云う,デフレ・スパイラルに陥って,不況からの脱出が困難にな
っているとの事です。

> でも,デフレ不況を放置しておくと,失業者が増大していって,ますます
> 購買力が縮小して,デフレは深刻化して行きますよね。企業の倒産も増加
> するはずだし。どうすれば良いのです,財政政策も効果的ではないのなら?


政府による「雇用創出」が最も有効であるとの事です。小野先生のお話では。
もっとも,これにも財政支出が必要ですけどね,目標が若干異なる。
でも,非自発的失業者の場合,消費性向も高いはずですから,財政政策の有効
性も担保されますよね。何よりも,そもそも失業対策こそが,政府の経済政策
にとって,最も大切な目標なのだと云う意見です。小野経済学では。

> う~む,結局行き着く先は,ケインズ経済学と同じ気がするのですが?
> どこが違うのでしょうか,むしろ?


最も顕著な違いは,増税の効果に対する見解の相違に顕れると思います。
ケインズ経済学では,と言うか,むしろケインズの後継者であるケインジアン
達の経済学では,乗数効果の重要性を強調するので,その反対の増税によるマ
イナスの乗数効果も大きいと考えられて来たのです。しかし,乗数効果があま
り有効でない前提に立てば,増税によるマイナス効果も小さいとの結論になる。
結局,消費性向の小さい富裕層から徴税して,消費性向の大きな非自発的失業
者などに再分配する政策が,非常に効果的だと考えられる事になります。
しかも,ただ失業給付するだけでなく,介護分野等の民間では投資効果が薄い
分野での雇用を創出すれば,社会保障も強化されて,最も効果的に財政政策を
運用する事が可能になる訳です。


> なるほど,小野先生がご自身を「ケインジアンではない」と言われる理由
> この辺にある訳ですね,やっと理解できました。

小野先生は元来,新古典派の経済学を研究していた様ですよ。
新古典派の不況理論が不完全だと云う想いから,不況理論の研究を続けた結果,
最終的にケインズ本人の経済学に似て来たらしい。
ケインズの「一般理論」における矛盾点も指摘しておられます,小野先生は。

> そのお話も面白そうですね!
> 結局Broは,小野経済学の勉強を始めた訳ですか,ついに。


浅学の私が,ケインズを直接再検討するよりも,小野経済学を下敷きにしてケ
インズを再読した方が,現代的な経済理論も吸収できて,効率的な気がしたの
です。

> じゃあ,また続きを期待して良い訳ですね!
> 現代における「日本のケインズ」は,小野善康先生ですかね。


小野先生が日本人初のノーベル経済学賞を取れば良いですね!
近年の海外の受賞者には不満が多いです,私的には。




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