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側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

側弯症- 「遺伝」の言葉を怖がらないで。医学的事実を見つめることから始まる治療の道

2018-09-03 17:13:30 | 遺伝子研究
人をコントロールするテクニック、いわゆるマインドコントロールする上で、最も効果的なものは、最初に相手に恐怖を与えることです。

 「あなたの左肩に、誰かの顔がみえる」

 「移民を止めないと、貴方の娘がレイプされるぞ」

 「すぐに施術をしないと、こんなに背中が曲がってしまうぞ」


恐怖を与えたあとで、その解決策を示す。

 「大丈夫、このツボを買えば、先祖の霊は癒されます。みんな買ってますよ」

 「大丈夫、壁を作ればいい。カネはあの国から出させればいい」

 「大丈夫、わたしはこれまでに3500人も治してきました。ほらこんなにたくさんの礼状があるでしょう」


「遺伝」という用語も私達に恐怖を与えることばのひとつです。特に話題が「病気」である場合は。

しかし、皆さんももう気づいておられると思います。

現代医学が、様々な病気の原因探査において「分子レベル」つまり「遺伝子レベルの世界」に入っていることを。


昨年から今年3月にかけて放映されたNHKスペシャル「神秘の巨大ネットワーク」をご覧になられた方も大勢おられると思います。人体の臓器が相互にコミュニケーションをとりながら「生きていくためのシステム」を運営していることが、この番組でよく理解できました。現代医学、あるいは現代科学はここまで詳細なことまで究明してきているのか! という驚きとともに番組を見ていました。 

これに先立つ、NHKスペシャル驚異の小宇宙 人体・遺伝子 を覚えておられるでしょうか? 1999年、いまから20年ほど前の放送でした。

今回の「神秘の巨大ネットワーク」の中では触れられていませんでしたが、この人体ネットワークの背景にあるもの、それが遺伝子であることは、皆さんも理解されていると思います。

ヒトを含めた“生物”の中には、私たちが意図したり、命令したりする必要もなく「生命を生み、成長させ、維持していく.....そして死んでいくためのシステム」が組み込まれています。 多くの場合は、そのシステムが存在することを意識することなく、私達は日常生活を営んでいるわけですが、ときどき、このシステムはエンストしたり、あるいは暴走したりすることがあります。

現代科学は、そのエンストや暴走の原因の一端に「遺伝子」が関与していることを明らかにしてきました。「遺伝子」で全てに説明がつくわけではなく、環境からの影響なども関与するわけですが、その場合も、次のように考えることができます。


     環境の影響  → → → 遺伝子への影響(変異など) → → → 病気の発症


この図式を逆にたどることで、病気を治そう、という動きが、いわゆる「遺伝子治療」ということになるでしょう。

「遺伝子診断」も、病気の原因を探る手段として、ますます重要となってきています。

ブログではどうしても視認性に難がありますので、「側弯症ライブラリー新館(遺伝子)」を設置しましたので、遺伝や遺伝子に関しての情報はそちらも参考にしていただければと思います。


そして、ここでは側弯症と遺伝子との関係を直視する。という意味で、スェーデンの医学論文を踏まえながら、原因と治療についてもう一度振り返りたいと思います。

最初に仮説から提示したいと思います。






ここで示したいのは、「根本原因が存在する限り、現象は止まらない」ということです。


コブ角15度から25度の患者さんの約半分は、何もしなくても経過観察中に自然緩解します(パターンA)。残り半分の患者さんは進行が止まらずに、装具療法に入っていきます(パターンB)。 装具療法を受けている患者さんの約80~90%は、骨成熟の完了とともに、進行を抑えきることができて、装具を卒業することができます(パターンC)。

しかし、装具療法中も進行を抑えきれずに、急激に50度を超えて手術を決断する患者さんも10~20%はいます(パターンD)。

装具を卒業した患者さんの中にも、その後も年に1度ほどづつカーブが進行していく方もいます(パターンE)。


思春期特発性側弯症が、例えば常染色体顕性(潜性)遺伝症のように、明確に判明している「遺伝子」によって引き起こされているのであれば、このようにパターンA~Eのような複雑な道筋をとることはないでしょう。まだ解明されていない多くの要因、多くの遺伝子が関係しているが為に、このような様々なパターンを示している。というのが現実です。

見方を少し変えて、親から子へと伝わる「遺伝」という面からの医学データを示したいと思います。

2013 Eur Spine J スェーデン Anna Grauerr et al
Family history and its association to curve size and treatment in 1,463 patients with idiopathic scoliosis



2016 スェーデン Scoliosis and Spinal Disorders A.Grauers et al
Genetics and pathogenesis of idiopathic scoliosis




このふたつの文献は、スェーデンの研究ですが、慶応大学によるプレスリリース(2017年2月16日)で
「スェーデンで行われた研究から遺伝子の影響は発症原因の60%と報告」と引用された際の文献と思われます。(プレスリリースでは引用文献の詳細は記載がないので、あくまでも推測ですが、内容的にはこのふたつを示していると考えられました)

2013年の文献は、2004~2010年に調査した患者さん1463人とその家族歴についてです。2016年の文献は、これまで世界中で発表された思春期特発性側弯症と遺伝子との関係についての医学報告をベースにまとめたものです。



Table 1 の内容を見てみましょう。

 患者数 1,463人 (初回調査時の平均年齢 12.1歳、コブ角平均 27度)
 女子 1,273人 男子 190人
 調査期間2004~2010年に行われた治療は、経過観察のみ 502人(34%)、装具療法 552人(38%)、手術409人(28%)




Table 2 の内容を見てみましょう。

 患者1,463人のうち、家族に側弯症の病歴があったのは 743家族(51%)、なかったのは720家族(49%)

 病歴のあった人たちのコブ角の状況 40度以下 441家族(48%) 40度以上 302家族(55%)
 病歴のなかった人たちのコブ角状況 40度以上 471家族(52%) 40度以上 249家族(45%)

病歴のあった人たちの治療法 経過観察のみ 232家族(46%) 装具 293(53%) 手術 218(53%)※1
病歴のなかった人たち治療法 経過観察のみ 270家族(54%) 装具 259(47%) 手術 191(47%)※2

※1 装具療法293のうち、手術となつたのが218、装具だけで終えたのが75 と読める
※2 装具療法259のうち、手術となつたのが191、装具だけで終えたのが68 と読める

 ☞あくまでも想像ですが、家族(両親のいずれか)での装具療法の成績が低いのは、両親の時代はまだ装具療法で
  着用時間をしっかりと守れば効果が高い、というデータが報告されていなかった時代のためと考えられました。


このスェーデンの報告から見えてくるのは、思春期特発性側弯症は、例えば家族歴(両親のいずれかが側弯症)がある場合も、ない場合も、その子ども(患者)の発症パターンは決まったものはない、というとこと。別の言い方をすると、家族歴があるからといって、それが患者の側弯症の重篤度には影響していないだろうということです。

次のような図式をもう一度見ていただきたいと思います。
これは、上記文献の親世代の医学データではなく、最近の知見を踏まえてのパーセンテージで書いています。










 1) 思春期特発性側弯症の症状が多様であるのは、発症に様々な要因が関与しているため

 2) 単純に「体操」をしたり「施術」を受ければ「治る」という次元の病気ではない

 3) 早期発見に努める。もし「貴方」が側弯症の診断を受けたことがあるのでしたら
   お子さんの背中には十分に注意を払って、早期発見に努め
   そして、側弯症専門医師のいる病院にいくこと

 4) 側弯症には「親から子供に遺伝する」という傾向は見えますが、
   それは重篤度は関係はない、ということ。

 5) 側弯症は悩ましい病気ですが、最終的には「手術」という方法がある、ということ。





☞「遺伝するかも」ということに対して、どう考えるか? ということについては
  ぜひとも「新館(遺伝子)」を参考にしていただければと思います。

  患者でも、また患者の親でもない私は「第三者」としての意見は述べることができますが、
  それがどれだけの意味を持つものか 私にはわかりません。

  このことについては、皆さんご自身が考えて、お子さんと向き合っていただきたいと思います

  そして、その為に「遺伝」ということも恐れずに、学んでいただければと願うものです。




august03

 

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