日々の泡

弁護士杉本 朗(神奈川県弁護士会所属)のブログです。個人の雑感発信用で、業務用ではありません。

中本日弁連会長は消費者庁の一部施設移転容認を撤回すべきである

2016-06-05 18:17:59 | 身辺雑記

報道によれば,民暴大会で徳島県を訪れた中本日弁連会長は,記者会見で,消費者庁の一部施設移転を容認したそうである。
http://www.topics.or.jp/special/14567180057538/2016/06/2016_1465003221037.html

これが事実とすれば大変な問題である。

そもそも日弁連の消費者委員会は一貫して消費者庁の地方移転に反対していた。
それなのに,全く委員会の意向を無視する形で,今回の記者会見での発言はなされた。
日弁連は,いくつもの委員会に分かれて,さまざまな分野での議論・検討を重ね,活動してきている。
たかが,数ヶ月前に会長になった人間が,卓袱台返しのようにそれまでの議論をひっくり返すことは,民主的な会運営の観点からきわめて問題が大きいといわなければならない。

「政府関係機関移転に関する有識者会議」(有識者会議)は,官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関,中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関,移転すると機能の維持が極めて困難となるもの等の提案は検討対象としない,としていた。

この観点からするならば,そもそも消費者庁は移転の検討対象から外れるべきものであった。

消費者問題は多数省庁に分散して担われているという特徴があるため,その司令塔として消費者庁が創設されたのである。
そして,重大事故の発生時には,官邸と一体となって緊急対応を行うとされたのである。
実際,消費者安全の重大事と発生時には官邸・ 担当大臣の下で緊急対策本部を速やかに開催し,関係省庁と連携して対応することとしている。
例えば,メニュー表示に関する偽装表示問題が発生したときは官房長官の下で,冷凍食品からの農薬検出が問題となったときには担当大臣の下で,消費者庁はそれぞれの関係省庁と連携しその司令塔となって速やかに対応した。

また,日常的な業務にしても,消費者基本計画を考えれば明らかなとおり,消費者庁は,多数省庁の消費者政策の企画について協議し,施策の推進状況を検証・ 評価・監視を行うことが求められている。
そのため,常に関係省庁との協議等が必要である。消費者庁は消費者法の整備を行う責務があり,新規立法や法改正の作業が頻繁に行われているが,消費者法は多数省庁所管分野と関係するため関係省庁との協議が不可欠である。

いくらインターネットなどのテクノロジーが発達しようとも,統合的な活動を行ったり,諸官庁と一体になって緊急事態に対処するなど,人と人との現実的距離が密でなければならない領域というのは存在する。だからこそ,そもそも有識者会議は一定の機関については地方移転の対象としないこととしていたのであるし,あるいは外資系のコングロマリットで普段は衛星回線を使ってテレビ会議をやっていても,ここ一番のときには,本社からジェットセットで役員が乗り込んでくるのである。
仮に,テクノロジーの発達によって,人と人との現実的距離の密接性はもはや不要であるというならば,率先して,財務省やら経産省が地方へ移転すればいいのであるが,誰もそのようなことは言わない。

一極集中の弊害をなくす,というのは聞こえがいいが,各省庁にとってうっとうしい機関をこの際地方へ飛ばしてしまえ,という危険性は常に内在している。
政府関係機関の移転については,そのような観点からの配慮・検討が不可欠である。

そうしたことを踏まえて,日弁連も各地の弁護士会も,消費者庁(と国民生活センター)の地方移転に反対してきたはずである。

今回の会長の記者会見は何としたことであろうか。到底容認することは難しい。
刑事訴訟法改正問題については,自分が会長になる前からレールは敷かれていた,ということが出来るかも知れない。
しかし,消費者庁の地方移転問題に関しては,すでに道が切り開かれていたのである。
その道とは全く別の道を会長独自の見解に基づいて行くというのであれば,それはリーダーとディクテーターをはき違えているとしか言いようがないと思う。

 

 



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