非天の笑み

a suraのえみ
  

けものの仔

2007年05月27日 | 族(うから)

おあづけを今日はおぼえさせられてゐしけものの子どもが丸まりてねる

 

土を嗅ぐスリッパを齧る風を聴く生まれてきたからここにゐるから

 

濡れし毛を拭きやれば匂ふ耳の辺に獣であるを知らぬ哀しみ

 

クレヨンの花咲くやうな公園へお散歩します初めての春

 

人の子に生まれたかつたか曳かれつつ子等の遊ぶを 振り返り見る

 

 どのみちもおまへと歩めば風となり凝るものなし今日へあしたへ

 

肉球に初めて土を踏みし日もものいへぬ仔は独り眠れり

 

庭先にけはひとふものただよはす来る日来る日のこの仔の役目 

 

息のねを瞬時にとめて犬の子はこはごは遊ぶ蝉の亡骸

 

 ものいへぬ仔とものいはず朝の海百尋千尋(ももひろちひろ)の庭に遊べる

 

ふり向かぬものへ夕映え 吊り橋を柴の巻尾と並びて渡る  


アシュタンガヨーガ

2007年05月26日 | 

シャバーサナ死体のポーズを日に一度生き返るまで脱力をして

 

 

天を指す立木のポーズ ブリクシャとつぶやけば身に葉ずれの生(あ)るる

 

 

「ずっとここにゐました わたし」蓮華坐の底ひよりちさき人われに笑む

 

 

ユーカリの香は沈みつつアシュタンガ ビンヤサヨーガ呼気白く浮く

 

胸骨よひらけひらけとさしのべるヨーガの指より秋の雨落つ

 

 

籐椅子に眠りおちたる花とわがキャットポーズは陶器を夢む

 

 




和泉なる

2007年05月15日 | 

 

和泉なる森風ちかき明け暮れをうらみうらまぬ葉音ぞ過ぐる

 

髪も尾も撓ふこころにひるがへしもうふりむかぬうらみ葛の葉

 

葛の葉町バス停降りゆくをとこらのはや影曳かぬ三人(みたり)がほどは

 

 妖しのまよひ処(が)こそこの家ならめ湯沸き灯ともりだあれもをらぬ

 

「恋しくばたづねきてみよ」尋うたとて忘れ果つるが化生のならひ

 

さていとま申してかへらむふる里はいづれ水族・鳥族の界

 

地車(だんじり)の笛吹き明かす妻の音(ね)の音のみは哭かぬたぶれごころや

 

南朝方もののふ猛きが裔棲むとふ和泉雨山いつみても雨

 

 


林歌  りんが

2007年05月04日 | 

龍の笛 狛の笛とや人ならぬ名を負ひて涕く風切の音(ね)に


呼気胎を抜けて風切る音となれる人はただしく虚ろのうつは


龍笛の音の頂きへ追ひすがるあかとき透けゆく闇やわたくし


笛吹の君がくちびるつとゆがむ攻めの音に揺りほどかるるよし


水焔は背なより立てり龍の笛ささげ礼(いや)する伶人稚き


楽(がく)とよぶ苦しきわざに痴れてゆく音取(ねとり)ためらふ壱越(いちこつ)の音


森霊も族(うから)とまがふ音に添へて人語研ぎゆく傷香るまで




  

   このさきにたれや住まひす月洩るる木立をゆかばあぎとふ林歌(りんが)

 

         

*「林歌」は雅楽の楽曲の名。天武帝が好んだ曲と聞いたような聞かないような・・?



 

                           

                          ☆

 

 

 

龍笛を以前習ったことがありました。

この歌のモデルはそのおっしょさんの横笛奏者 出口煌玲氏。

雅楽から出て、和楽器とのセッションはもちろん、洋楽器、民族楽器、さまざまの楽器とのコラボをこなし、オリジナル曲もいいですが、特にアドリブがすごい!ここでは雅楽の歌を詠みましたが、超ジャンル。時空を越えます。

現在関西近辺が主ですが、世界各国でも活躍されています、近々東京公演を予定されているようなので、関東方面の読者さまにご紹介方々拙歌を披露しました。

お時間と興味ありましたら、ぜひにお運び下さい。どんなアーティストと入り乱れますやら?あ、ダンスも入るとか・・。

 

因みに、私は龍笛挫折し、篠笛のほうにかわりました。

京の五条の橋の上で牛若丸が吹いているのが龍笛で、宮本武蔵の恋人お通さんが携えているのが篠笛。

りとむの今野 寿美氏の歌集「龍笛」の中に自筆のサインと共に裏表紙に頂いた

龍笛の指にふさがむ孔ななつ似つかはしきはをみなの身幅

というお歌がありますが、

どちらかといえば篠笛のほうが「をみな」にはふさわしい可憐さで草木を思わす音

龍笛は少し持ちおもりもし、岩や激流を思わせる音をも出します。

 


   

★5月16日(水)
入谷「なってるハウス」
http://<WBR>member<WBR>s.jcom<WBR>.home.<WBR>ne.jp/<WBR>knutte<WBR>lhouse<WBR>/frame<WBR>.html
OPEN 19:30~/START 20:00~ ¥2000
~メロンオールスターズ東京版~
出演者(順不同・敬称略)
高木慎二(ソプラノサックス)石渡明廣(ギター)牧桃子(ダンス)安田理英(舞踏)荒井皆子(Voice)森定道広(コントラバス)つの犬(ドラムス)梶山トシ(Voice) デカルコマリー(身体表現)出口煌玲(龍笛・篠笛)


★5月17日(木)
六本木「Vanilla Mood」
http://<WBR>www.va<WBR>nillam<WBR>ood.ne<WBR>t/
梶山トシ(Voice)さんたちと。
出口煌玲(龍笛・篠笛)牧桃子(ダンス)


★5月18日(金)
西荻窪「アケタの店」。
http://<WBR>www.ak<WBR>eta.or<WBR>g/mise<WBR>.html
19:30~23:00 ¥2,500
~メロンオールスターズ東京版~
出演者 森定道広(コントラバス)、出口煌玲(龍笛・篠笛)、藤井郷子(ピアノ)、田村夏樹(トランペット)、牧桃子(ダンス)、安田理英(舞踏) デカルコマリー(身体表現)


★5月19日(土)
「横浜エアジン」
http://<WBR>www.ai<WBR>regin.<WBR>jp/



隠国  こもりく

2007年05月03日 | 
はうはうのていに逃げ来よ隠国にこずゑのもずも泣き寝入るべし


ここまでは来たる遠流の身を容れてたたなづく果無山脈は果つ



村人の悔いをはるかに天駈ける山姥の哭く声をんをんと



あねさまの鼻緒は臙脂 うつしゑに蔵ひのこししふるものがたり



赤まんましんじょしんじょと小豆とぐ月夜は背なを見られてゐるぞ



ちちははも童でありしこの里に風の実とよばれ風花の散る



昼暗き大門坂を駆けまろぶ市女笠見ゆ わたしが見える



うらぎりもののやうにてあれど八咫鴉 幟に呵々とほこらかな眸(め)よ            

 

げに夏は畢んぬすさぶる素戔嗚(スサノヲ)の涙に八咫の火祭り流れ



草のへに木末(こぬれ)に神々哄笑(わら)ひをりされば啾々鬼もうたへな

 

 

*写真は熊野川上流 本宮付近




産土

2007年05月03日 | 

 

生(あ)れし家(や)に潮騒は満てり呪(じゅ)のごとくあかときに透く砧の骨に

 

子も貝もかくひろはれけむ遠つ世の磯にちちはは脛濡らすみゆ

 

漁りの媼は誦せり引き潮に「親が泣くゆゑちさきはかへさむ」

 

捨てられし仮名ひろふがに見老津(みろづ)駅 周参見(すさみ)駅紀勢本線をゆく

 

補陀落へわたりそこねし魂(たま)ありて荒磯(ありそ)に魚(いを)のここだまなこや

 

産土の一語乾きて不覚なる涙に答(いら)ふかへりなんいざ

 

俗名は忘れき盲ひの大叔母のむかしありけり 池月青蓮

 

みぎかうや ひだりきみゐの道しるべうつつかへるにせんなきものを

 

                          ☆

 

おくにはどちら?ときかれたら「熊野」と答えることにしています。

実際に使われる地名ではないのですが、紀伊山地を背に負いつつ、

黒潮に足を洗われているような、紀伊半島の南部に生まれ育ちました。

「和歌山」でも、御三家の「紀州」でもない、時に置き去られたような産土です。