脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

水本裕貴に告ぐ

2008年06月20日 | 脚で語るガンバ大阪
 あれは今年の3月20日だった。ACLグループリーグ第2節、アウェイ全南戦から日本への帰路に着く釜山の金海(キンヘ)空港だった。前日光陽で行われた4-3という熾烈な激戦を制した選手たちはやけにリラックスした顔で空港にて出発便の搭乗を待っていた。それもそのはずだ。パンパシフィック選手権優勝という絶好のスタートを切った2008年のG大阪は、JリーグとACLで思わぬスロースタートを強いられていた。この全南戦が事実上今季の公式戦初勝利だったわけで、そこには否応なしに弾ける選手たちの笑顔があった。
 こういった時には大概選手たちはそれぞれに自分たちの時間を大事にする。携帯ゲームに没頭する者、読書をする者、カフェテリアスペースで喫茶団欒を何人かで楽しむ者と様々だ。しかし、その中で一人孤立していた選手がいたのを良く覚えている。

 それが水本裕貴だった。思えばこの試合から彼のG大阪でのスタメン出場は保証されなくなった。1週間前のチョンブリ戦では唯一の失点の直接的要因となり、そしてわずか5日前のリーグ第2節磐田戦でも、彼は自身のセルフジャッジから3失点目を献上してしまう。それが指揮官に、中澤聡太のスタメン起用をほぼ唯一無二の選択肢として与えてしまうこととなった。この金海空港の搭乗ゲートから彼の苦悩は始まっていたのかもしれない。生真面目な性格が彼に自問自答を繰り返させたのか。彼から醸し出される、チームに馴染めていないようなどこか物寂しげなその表情は、同じ新加入ながら、コーヒーを啜って二川と寺田と共に談笑していた福元と明らかに対照的だった。その後の試合で彼がスタメン出場を果たしたのは、4月9日のメルボルンでのビクトリー戦だけだった。

 今回の彼の退団劇は、サポーターにとってはまさに“晴天の霹靂”だった。トゥーロン国際大会前には既に西野監督と話し合いが持たれていたようだが、北京五輪を控えた大事な時期であり、主将を務めるその代表チームでの確固たる信頼を得るためにも、コンスタントな試合出場の確保を急務と考えた本人の判断が優先されたわけだ。所属マネジメント会社の利潤追求等々、裏側には部外者が知る由もない事実もあるだろうが、要は本人に“G大阪で勝負する”という強い意志は無かったということ。3年という契約期間の大半を残して、水本は“横紙を破って”G大阪を出ていくこととなった。

 そんなまさに“横紙破り”の今回の移籍騒動だが、モノと消費行為に満たされすぎた“現代っ子”の社会的縮図を見ているようである。欧州などは、サッカーは半ば企業間のマネーゲームだ。受け入れ先に移籍金さえ用意できれば、選手の希望するチームへかなりすんなりと移籍が出来るもので、今季もニューカッスルのロゼフナル、マンチェスター・Cのビアンキが、“水の合わない”プレミアシップに早々と別れを告げてしまったのは記憶に新しいところ。金の前に“契約履行”というルールは吹き飛ばされ。天狗になっては没落していく選手も多い。
 今回のケースも、京都(まだ決定という訳ではないが)にある程度獲得を見込める移籍金が用意できることが、水本を交渉の窓口へと誘ったのだろう。本人にG大阪でヤル気が無いということなら、お金の用意できるチームは幾らでも救いの手を差し伸べてくれる。G大阪では控えでも、日の丸を背負えば未だに立派なキャプテンマークを付けている彼を他の金のあるJクラブがほおっておくわけがない。日本は、財政基盤の弱い地方クラブがまだ多いため、こんなケースは少ないが、ここで簡単に移籍するチームを選手自身が選べてしまうことが、とんだ“勘違い”を生み出し、才能ある選手の没落を容易に招いてしまうことも十分にあるだろう。つまり京都へ移籍したからといって、活躍できる可能性は無い。既存の在籍選手もプライドはあるし、決して良い気分ではない。“自分が満足に試合出場できる”チームだけを転々としていれば本人は満足だろうが、それが果たして自身の選手価値を引き上げる最善の手段だろうか。

 とにかく、その何でも買い与えられ、身辺の保証がなされていく“現代っ子”特有のわがままぶりが、彼を念願の移籍へと導いた。思えば、彼も千葉時代は早々にレギュラーポジションを奪い、五輪代表にはコンスタントに選出され、A代表のキャップすら20代前半にそのキャリアに刻むこととなったわけで、高校時代の無名ぶりと比べても、圧倒的に慌ただしいプロ生活がどこかで彼のプライドをねじ曲げてしまった。生真面目な自身の性格に似つかわない周囲のチヤホヤぶりがそうさせたのか。Jリーグは開幕してわずか15年で、100年以上の歴史を持つ欧州サッカーのような“名声の申し子”を早々と生み出してしまったのかもしれない。

 昨年は優勝争いの渦中で同じような失態を演じた、G大阪サイドの選手管理能力にも大いに疑問が残ることとなった今回の移籍騒動。強いて水本に告げるとするならば、“雨垂れ石を穿つ”ことを覚え、“臍を噛まない”ようにすべし。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kiki)
2008-06-20 22:09:28
人間関係というのも一つの要因かなという気もしてきましたね。
関東もんは馴染めなかったとか?
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Unknown (Unknown)
2008-06-20 23:43:26
中澤聡太も関東人だけど、愛されているよね。結局、本人の資質と努力の問題なのでは。
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Unknown (おやかた)
2008-06-21 02:23:03
どうやら、うちのクラブに来ることになりそうなんですが(苦笑)、はっきり言って複雑ですね。ガンバで「このチームでプレーする姿が想像できない」と言った選手が、うちで「骨を埋める」と言ってくれるか…?代表のためだけにうちを腰掛にされるならサンガも舐められたもんですね。

なにやら25日がきな臭くなってきましたが(笑)、なにとぞお手柔らかに…。
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Unknown (脚角)
2008-06-21 04:26:35
>kikiさん、unknownさん
コメントありがとうございます。

性格的な面で馴染めなかった面も大いにあると思います。
特に早い段階からミスが続く自分と出場機会を掴まないといけない焦燥感に駆られたことでしょう。
ファンサービスなどもほとんど笑顔が無く“謙虚すぎる”とも思ったほどです。
中澤とは彼のブログを見ても分かるように性格面では対照的でしたね。

>おやかたさん
コメントありがとうございました。

これでまた降格なんてことになれば何しに行ったのか分かりませんね。
G大阪もこの事で足踏みしているほど、リーグは余裕が無いので京都戦は容赦なくいかせてもらいますw
言うまでもなくフェルのこともあって、こちらサポが並々ならぬ気持ちが入ると思いますが。
集客面で効果が出れば良いんですが・・・
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