東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

安藤坂

2011年02月18日 | 坂道

安藤坂下 安藤坂下 安藤坂下 牛坂下を道なりに進むと、先ほどの石段の前の方にでるので、右折して安藤坂の坂下にもどる。四車線の広い坂道がまっすぐに上っている。傾斜は中程度であると思われるが、広いためか、かなり勾配があり迫力あるような印象を受ける坂である。

尾張屋板江戸切絵図を見ると、牛坂の西に、安藤坂とあり、まっすぐに北へ延びている。その先は伝通院であるが、現在の坂上の伝通院前の交差点近くが門前であったようである。近江屋板も同様で、△安藤坂とある。坂下は、牛天神の方へ曲がりまた曲がって神田上水へと延びている。坂西側に安藤飛騨守の屋敷があるが、これが坂名の由来とされている。

坂右(東側)の歩道を上ると、中腹歩道わきに「萩の舎跡」(春日1-9-27)の説明板が立っている。樋口一葉(1872~96)は、父の知人の紹介で14歳のとき萩の舎に入門し、18歳のとき一時内弟子になってここに寄宿していたという。

安藤坂下 安藤坂説明板 安藤坂上 「萩の舎跡」の説明板ではなく、坂の説明板はないのかと、まわりを見回したら、第三中学校の入口側に立っていた。次の説明がある。

「安藤坂  文京区春日1・2丁目の境
 この坂は伝通院前から神田川に下る坂である。江戸時代から幅の広い坂道であった。傾斜は急であったが、1909年(明治42)に路面電車(市電)を通すにあたりゆるやかにされた。 坂の西側に安藤飛騨守の上屋敷があったことに因んで、戦前は「安藤殿坂」、戦後になって「安藤坂」とよばれるようになった。
 古くは坂下のあたりは入江で、漁をする人が坂上に網を干したことから、また江戸時代に御鷹掛(おたかがかり)の組屋敷があって鳥網を干したことから「網干坂」ともよばれた。」

永井荷風「伝通院」に、「安藤坂は平かに地ならしされた。」とあるのは、上記の路面電車を通す工事のことをいっているのであろう。江戸時代には、九段になっている急傾斜の坂だったらしい(岡崎)。

『御府内備考』の小石川の総説に網干坂として次の説明がある。

「網干坂は伝通院前より上水の端に下る坂なり、今安藤坂と云り、又牛天神裏門の前の坂ともいへり、むかし此坂下入江の時、この辺多く獵(猟)師の住て網を干したるよりの名なりと、又或説に此辺むかし御鷹野に預る人の住居ありて、日毎に鳥網などほしたる頃いひならわせし名あり、此両説とも全くうけかひかたき事なり、近き頃迄このほとりに船宿などありしかは、 今も諏訪町内に船宿あり、 恐くはその類ひ多くありて、魚とる網などほしたるよりの名なるもしるべからず。【改選江戸志】」

坂下の諏訪町あたりに船宿があり、そこで、魚をとる網などをほしたことに因むという説のようである。

安藤坂上 安藤坂上伝通院前交差点 荷風は、『日和下駄』の「第十 坂」で次のように名文調でもって眺望の佳い坂をあげている。

「今市中の坂にして眺望の佳(か)なるものを挙げんか。神田お茶の水の昌平坂は駿河台岩崎邸門前の坂と同じく万世橋を眼の下に神田川を眺むるによろしく、角(さいかち)坂 水道橋内駿河台西方 は牛込麹町の高台並びに富嶽を望ましめ、飯田町の二合半坂は外濠を越え江戸川の流を隔てて小石川牛天神の森を眺めさせる。丁度この見晴しと相対するものは則ち小石川伝通院前の安藤坂で、それと並行する金剛寺坂荒木坂服部坂大日坂などは皆斉(ひと)しく小石川より牛込赤城番町辺を見渡すによい。しかしてこれらの坂の眺望にして最も絵画的なるは紺色なす秋の夕靄(ゆうもや)の中より人家の灯のちらつく頃、または高台の樹木の一斉に新緑に粧(よそ)わるる初夏晴天の日である。もしそれ明月皎々(こうこう)たる夜、牛込神楽坂浄瑠璃坂左内坂また逢坂なぞのほとりに佇(たたず)んで御濠の土手のつづく限り老松の婆娑(ばさ)たる影静なる水に映ずるさまを眺めなば、誰しも東京中にかくの如き絶景あるかと驚かざるを得まい。」

これまでたどってきた坂が安藤坂から次々とあげられている。しかし、これらすべての坂でそのような眺望は失われている(何回も繰り返すが)。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
「切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く戦前昭和東京散歩」(人文社)
「大日本地誌体系 御府内備考 第二巻」(雄山閣)
「荷風随筆集(上)」(岩波文庫)

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