東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

新坂~高橋是清翁記念公園

2010年09月18日 | 坂道

稲荷坂下を右折し進み、道なりに左に曲がって二本目を右折すると、新坂の坂下である。右の写真は坂下から撮ったものである。細い坂がまっすぐに上っているが、勾配はさほどきつくない。

写真左側に写っている標柱に次の説明がある。

「しんざか できた当時は、新しい坂の意味だったが、開かれたのは古く、元禄十二年(一六九九)である。しんさかとも発音する。」

新坂というのはあちこちにあり、そのうちの一つである。(以前の記事参照。)

尾張屋版江戸切絵図を見ると、イナリ坂の北西側近くに、志んサカ、とあり、北西方向に上っている。坂下から見て右側に青山備前守の屋敷があるが、これから青山通りの名がついたのではと思うが。また、近江屋版には、シン坂、とある。

左の写真は坂上の標柱から坂下側を撮ったものである。

石川によれば、坂上のほうは戦前から上流人士の邸宅が多く、坂下は町屋であったらしい。

岡崎は長い坂であるとしているが、左の写真の坂上の標柱まではさほどではない。しかし、そこから青山通りにでるまでは確かに長い。ここも、以前は、坂の途中であったのかもしれないが、現在は、ほほ平坦で、坂という感じはしない。この平坦な道となったところの右側にカナダ大使館がある。

青山通りにでて右折し、大使館の前を通り過ぎると、右手に樹木の多い公園が見えてくる。高橋是清翁記念公園である。公園入り口の説明板によれば、この公園は、日本の金融界における重鎮で大正から昭和初期にかけて首相、蔵相などをつとめた政治家高橋是清(1854~1936)の邸宅があったところである。赤坂表町といった。

高橋是清は、昭和11年(1936)2・26事件のとき蔵相であったが、青年将校に襲われてこの邸で亡くなっている。高橋邸を襲撃したのは近衛歩兵第三聯隊の中橋基明中尉が指揮する第七中隊の137名であった。近衛歩兵第三聯隊は、前回の記事のように、一ツ木公園の近くのTBSのあたりにあったから、高橋邸まではすぐで10分程度である。26日午前5時一斉決行の示し合わせであったので4時50分に営門を出発した。三分坂上から北西への通りを進んで青山通りにでたのであろうか。そうだとすると、円通寺坂上と稲荷坂上を通り過ぎ薬研坂を下り上ったことになる。

この地は昭和13年(1938)10月に東京市に寄附され、昭和16年に東京市が公園として開園した。第二次世界大戦のときの空襲により高橋所縁(ゆかり)の建物は焼失したが、母屋はお墓のある多磨霊園に移されていたため残り、現在は都立小金井公園にある江戸東京たてもの園へ移されているとのことである。

右の写真は園内を撮ったものである。この和風庭園はほぼ当時のままの姿で残されているとのことで、銅像、石像や石灯籠が配置され、樹木で鬱蒼とし木陰ができて涼しい。

ところで、2・26事件の決起将校らに対して、7月5日に軍法会議の判決(死刑17名、有罪76名)がでて、その後すぐ7月12日に中橋中尉ら15名に死刑が執行された。刑場は代々木の陸軍刑務所の北西に造られた。その場所は、現在、渋谷税務署になっており、その西側角に遺族によって二・二六慰霊像が建立されている。その前の道路を挟んで北側にNHK放送センターがある。

決起将校の出撃拠点の一つ近衛歩兵第三聯隊のあったところは後にTBSとなり、刑場前が後にNHKとなった。偶然の一致とはいえ、なにか因縁めいたものを感じてしまう。そういえば、青山通りを西に向かえば渋谷へ至る。

公園をでて右折しちょっと歩くと歩道橋がある。この歩道橋上から東側を撮ったのが左の写真である。

手前の大きな道路が青山通りで、信号下のあたりが薬研坂上であり、右側が薬研坂の下り(停車中の白い車の後ろ)である。写真奥側に延びる通りを進むと、前回の弾正坂上で、さらに行くと、牛鳴坂上に至る。

江戸切絵図などを見ると、この通りが江戸時代からあった道のようで、写真左へと延びる現在の青山通りは、後に開かれたのであろう。
(続く)

参考文献
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
太平洋戦争研究会編 平塚柾緒「二・二六事件」(河出文庫)
「古地図・現代図で歩く戦前昭和東京散歩」(人文社)
新創社編「東京時代MAP 大江戸編」(光村推古書院)

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