おはなしをしようか?

ご来訪ありがとうございます。お話のモデルとして、アイドルさんの名前をお借りしてます。私の妄想と理解した上でご覧ください。

your beautiful dream

2014-04-27 18:50:15 | 東方神起妄想小説
「覚えとけよ!」なんて、お決まりのセリフを吐いて連中は逃げていった。
ユチョンにのされた男はまだ意識朦朧といった感じで仲間に担がれていく。

「口ほどにもないってね。あぁ、疲れた。」

ユチョンヒョンは足首を回してノンビリ僕たちを見下ろした。

僕とジュンスはジェジュンヒョンをしっかり抱き締めて固まっていた。
見上げるとユチョンヒョンが目を細め微笑む。

「もう行っちゃったから大丈夫だよ。仔猫ちゃん達。」

だいぶアメリカナイズされてる台詞に突っ込む気力は僕たちにはなかったから、黙ってユチョンヒョンの顔を見つめるだけで、さすがに照れたのかタハハ…と頭をかいた。

「ジェジュンヒョン、大丈夫?どっこも痛くない?」

ジュンスが頬や体のあちこちを触るからジェジュンヒョンはくすぐったそうに笑い声をあげる。

「あっは!ジュンスやめて、大丈夫だからぁ。」

やっと笑ったヒョンの様子を確認したら気が抜けて僕はペッタリ座り込んでしまった。

「チャンミン…ありがとうね。ジュンスも。」

さっきまで僕達に抱き締められていたヒョンが僕とジュンスにフワリと腕を回した。

良かった。ヒョンがどこにも連れていかれなくて良かった。

「ちょっとちょっと!俺はぁ?皆で俺の事を無視するぅ。」

ユチョンヒョンがぷぅとむくれるからジュンスが慌てて駆け寄る。

「ヒョン、足は?だいじょぶ?」

「おふっ!ジュンスぅ。俺ぇ頑張っちゃったよ。誉めて?」

いつもの調子でヘラッとしてるヒョンの前に立つジュンスは少し考えるような素振りで小首を傾げた。

「えらい、えらい。ヒョンはいい子。」

小さな手のひらでユチョンヒョンのおでこの辺りを撫でると、予想外だったのか面食らっていて、その後ボンッと赤くなった。

「ジュンス、離れて!変態さんから離れて!」

ジェジュンヒョンが半ば本気で言ったら、ユチョンヒョンがひでぇなぁ、と口を尖らせた。

道端で騒いでいると、通行人が訝しげに視線を寄越すのに気づいて、僕らはやっと立ち上がった。

ジェジュンヒョンの様子を伺うと、さっきよりは落ち着いたみたいだけど、顔色があまり良くないみたいだ。

どこかで休ませないと…

「あ!会計してません!」

事情がわからないジェジュンヒョン以外が「あ!」と声を揃える。

「いちごぉ~!」

ジュンスが情けない声を出して一目散に駆け出した。

「いちごがどしたの?」

俺だけ意味がわからないと、先程のユチョンのように可愛らしく唇を尖らせたジェジュンを見て改めてホッとする。

本当に良かった。

「奢りますよ。」

だから何なの?と尋ねるジェジュンの姿にカラムの姿が重なる。

まさか、仕組まれた?

誰かが見ているように感じて辺りを見回すが知った顔はみつけられなかった。

偶然だろうか?

「チャンミン、ユチョン達見えなくなっちゃう。」

「はい、行きましょうか。」

ジェジュンは狙われたのだろうか。

後でヒチョルヒョンに報告しなきゃな。

予習の時間はとれなそうだと考えてチャンミンは店に向かって歩きだした。

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your beautiful dream

2014-04-25 14:03:40 | 東方神起妄想小説
ジュンス、ユチョンに続いてチャンミンが飛び出そうとすると、「お会計!」と叫ぶ店員に呼び止められ足止めをくった。

胸元から生徒手帳を取りだし、「すぐ、戻ります!」と後に続いた。
階段を凄い勢いでジュンスが飛び降り、ユチョンがその後ろを追うのが見えた。

先に視線をやるとジェジュンが数人の男に腕を掴まれ横道に入っていく。
抵抗するジェジュンの細い体を抱える男がニヤついてるのが見えてゾッとした。

ジュンスが奇声をあげる。

「ジェジュンヒョン!!」

声は届かず、姿が消えていく。
チャンミンは頭が真っ白になっていく。

ガラの悪そうな連中相手に立ち向かえるだろうか?
正直言ったら恐ろしくてならなかった。

握りしめた手が震えてる。

それは恐怖だったけど、頭は煮えたぎっていた。

くっそぉ!!

知らずに漏れていた叫びに通行人が振り返って見ている。
ジュンスが先程の曲がり角に消え、ユチョンも見えなくなる。

やっと追い付いた先で、連中に囲まれたジェジュンと対峙している背中が見えた。

「ジェジュンヒョン!!」

青ざめたジェジュンは両手をとられ、今にも連れ去られてしまいそうだ。

「あっれぇ?お仲間かな。僕たちも一緒に行く?」

一際背の高い奴の言葉に周りはどっと笑い声をあげる。
その中でもがくジェジュンを引き寄せると、ジッと顔を覗きこんだ。

顎を掴まれ上向きにさせられると、嫌悪感いっぱいの表情で振り払おうとしている。

「お前たち、そいつがジェジュンってわかってやってるの?」

場にそぐわない程に呑気なユチョンの声。
少しも怯えていない態度に頼もしさと、引け目を感じる。
片手で飛びかかろうと暴れるジュンスを押さえている。

「ちょっ!ユチョン!離して!」

「だぁめ。無駄な争いはしないに限る。」

じゃれてる様なふたりに連中が痺れを切らしたのかズイッと一歩前に出てくる。

ジュンスは噛みつきそうな顔をしてバタつくが、前に出ては引き戻される。

「あれ?キム・ジュンスとじゃん。シム・チャンミンもいるぜ?こいつらも連れてこうぜ?」

「あぁ、いいんじゃねぇ?なぁ仲間が多い方が楽しいだろう。な?」

こいつら、僕の名前まで知ってる。
薄気味悪くなり、顔をしかめると野次が飛んだ。

「あーらら。シム君ちょー嫌がってる。可愛いね。」

そいつが顎で指示すると1人こちらに足を進めてくる。

「やめろっ!!そいつらに手出したらただじゃおかねぇからな!!」

ジェジュンが怒号を浴びせるが、益々悪のりした奴が可愛い~!と頬を撫でるのが見え、カッとなる。

そんな風に触れていい人じゃない。
早く助けなければ。
僕は怖さも半ば忘れて飛び出した。

「チャンミン!!止まれ!」

「ヒョン!何故です!あんな奴ら!早くジェジュンヒョンを!」

「わか~ってるって。こっち来な?ヒョンが、すぐやっつけちゃうから。」

いつものヤンワリした口調で、目だけはジェジュンから離さない。
横顔はピリリとはりつめて凄く険しい。

「どーする?やっつけられちゃうって俺達ぃ。ヒョーンやめてぇ!」

ブハハと爆笑すり連中を睨み付ける。
ジェジュンヒョンは暴れ、腕から逃れようと必死だ。
白い肌に朱が走る。
その様が妖艶にも思えて、連中の目から隠してやりたいと切実に願う。

焦れてる僕とジュンスとは逆にユチョンヒョンは落ち着き払っている。
黙っている赤い唇から薄桃の舌がペロリと見えた。
瞬間。

その時僕はユチョンヒョンが消えたと思った。

ジュンスを押さえていた場所から気配が消え、あっというまにジェジュンヒョンをねじ上げていた男の首から肩にかけて、ユチョンヒョンの蹴りが炸裂していた。

激しい動きのはずなのに、真空にいるみたいに無音だったような気がする。

どっと倒れた男に引き摺られジェジュンが倒れると、はっと気づいたジュンスとチャンミンが走りより囲むようにして距離をとる。

「こいつ、何かやってんな?」

ユチョンヒョンの無駄のない攻撃に驚いた連中はジリと輪を作り周りを固める。

「なぁんで俺の名前を言ってくんないの!俺拗ねちゃうよ?」

ふざけた口調のまま足首を回し、あぁイテェとフラフラしてるユチョンを中心に輪が移動していく。

「話がちがうじゃねぇか。」等と言い合う連中の顔色が青ざめていく。

「次、誰がいい?」

一撃で倒された男は半分意識を失っているようで、目を閉じたままだ。

「あ、その子ほっとくとヤバいかも。病院行った方がいいと思うなぁ。」

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your beautiful dream

2014-04-17 12:59:05 | 東方神起妄想小説
本日の予定が全て無駄になり、チャンミンは少々落胆していた。
また予定を組み直さなくてはと、頭の中で今後のスケジュールを組み直し、自室で予習でもすればいいと落ち着いた所でまた邪魔が入った。

センター街の中程、2階にある喫茶店に何故かいる。

「あっ!止めてよ。そっちから飲まないで!」

それもこれも、この二人のせいだ。
目の前にはユチョンとジュンスがいる。
ジュンスが『どーしても!今日までの期間限定のジュースが飲みたいんだぁ!』と駄々を捏ねてきかなかったストロベリージュースをユチョンがストローを刺して横取りしようとじゃれている。

「ジュンスぅ。誰が教えてあげたんだっけ?」

「ユチョンヒョンだけどぉ…」

ユチョンヒョンがゆちょんひょんに聞こえる。舌足らずの話し方が可愛くて仕方ないとユチョンヒョンが抱きつくと、止めて!と言いつつジュンスはうはん!とくすぐったそうに身を捩り楽しそうだ。

そもそも僕はいなくていいんだと思う。
やっと立て直した予定も不意になり、少し苛めてやりたくなった。

「あなた方、いつからそんなに仲がよろしくなったんですか?」

もがいていたジュンスがピタリと止まり、硬直している。
ユチョンヒョンはチャンスとばかりに首筋に鼻を埋めて匂いを嗅いでいるようだ。

こんな人でしたっけ?

「そんなに、仲が良くないよ?」

腕に閉じ込められ、匂いを嗅がれてるまま言われてもねぇ、とため息をつくとジュンスはいま気づいたみたいにユチョンヒョンを引き離す。

「もぉ!止めてよ!チャンミンが変な目で見てる。」

「は?僕がいなかったらキスでもしてますか?」

ジワジワ苛めてやると、ジュンスの顔が赤くなっていく。
僕はこんな風に素直な人は嫌いじゃない。ついからかいたくなる。

「すっるわけないだろぉぉぉ!」

立ち上がったジュンスの手がグラスに当たり、ほとんど飲んでいないストロベリージュースがぶちまけられた。

「おふっ!ジュンスっ!」

「んぎゃーっっ!」

騒ぎに気づき、店員が駆けつけ迅速に対処をしてくれた。
ジュンスは益々真っ赤になって、ごめんなさい!を繰り返すのを僕は見ている。
ちょっと気がすんだ。

「ベタベタだぁ~。」

おしぼりで手をギュウギュウと拭いているが、ジュンスがやると上手くいかないのは何故だろう。
指についた果肉がのびるだけで余計に汚れていく。

「なんでとれないのぉ~!」

苛つき始めたジュンスからおしぼりを取ると、ユチョンヒョンが丁寧に拭いていく。

拭いてるだけなんですが…

最初はおとなしくキレイになっていく自分の手を見ていたジュンスがモジモジし始めた。
目がキョトキョトして落ち着かない。

それもそのはずで、ユチョンヒョンはジュンスの手を柔らかく包み、空いた手で指を1本1本ゆっくりと舐めとるように拭いている。
口元に笑みが浮かび、見ようによっては微笑ましいのかもしれないが、僕にはそう見えません。

「なに?」

僕の視線に気づき、ふっとあげた目は三日月型になっている。

「もう解放してあげたらどうです?茹であがっちゃいますよ?」

「ん?」

ふと見たら、ジュンスは歯を食い縛り気を逸らそうと窓の外を睨んでいる。
勿論、恥ずかしさで顔は真っ赤だ。

「可哀想に。イタズラされちゃって、ちゃんと責任とってあげてくださいよ。」

「モチロン!ねージュンスぅ?」

また激怒して言い返してくるかと思ったらジュンスは窓の燦に手をかけて、下を見ていた。
何時になく真剣な顔に僕はユチョンヒョンと顔を見合せ、ジュンスの視線を追う。

「ジェジュン?」

「やっぱ、そうだよね!行かなきゃ!」

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your beautiful dream

2014-04-06 09:53:15 | 東方神起妄想小説
元気よく走ってきたのはジュンスだった。
チャンミンを店から引き剥がすように体ごと方向転換させた後、先程の尖った空気をすっかりぬぐい去って、両手を大きく広げた。

「ジュンスぅぅぅ~!」

「ヒョ~ン!!」

ユチョンの呼び掛けに答えたジュンスが更に速度を上げ、手前で踏み込み胸に飛び込んだ。

「おふっっ!!」

ドッと突進してきたジュンスの頭が鳩尾に入りユチョンが顔をしかめている。
ジュンスは背後にいるチャンミンに気づかないのか、うはんうはーん!と苦しむユチョンを他所に頭をグリグリなすりつけてはしゃいでいる。

「ヒョンが離れるなって言ったくせにいなくなるってどーゆうこと?僕めっちゃ探し回っちゃったじゃん!」

「ごめんね。ジュンスぅ。迷子をみつけたもんだから。」

「え?迷子ちゃん!?どこ?」

いつの間にこんなに仲が良くなったのか、見ようによっては恋人同士みたいにベタ甘な雰囲気にチャンミンは口を挟めずに突っ立ったままでいた。

「え?わ!チャンミン!?」

「迷子じゃありませんよ。」

チャンミンに気づいたジュンスがユチョンを思い切り突き飛ばした。

「なにすんの、ジュンスぅ~ひどいなぁ。」

「あ、スミマセン!ユチョンヒョン。」

さっきまでの甘々な態度を隠してるつもりなのかジュンスは急に他所他所しく口調を変えてみせた。

「だめ、許さないから。」

尻餅をついたままで、唇を尖らせるのを見てジュンスはオロオロしてる。

そこへユチョンが腕を伸ばしたので、ホッとした顔で手を取ると、引っ張られて腕の中に抱え込まれている。

やれやれ…チャンミンはスッカリ憤慨していた気持ちが沈下していた。
ジュンスときたら、いつもこうなんだから。
呆れもしたが、ジュンス独特の明るい雰囲気に助けられたと安堵した。
ユチョンと険悪にならずに済んだのだから、ジュンスさまさまだ。

「Kissしてくれたら許すよ?」

「ふぎゃー!ちょっちょっヒョン!」

そのジュンス様はユチョンに鼻先ギリギリまで近づけられた唇を前に、「近い近い!」と暴れて顔を真っ赤にしてる。
愛しそうにユチョンがそれを眺めてる。

「付き合ってんですか?」

「なっなっなっっに言っちゃってんの!うは!うははは!」

からかってみせると、真に受けたジュンスはピョコンとオモチャの人形みたいに立ち上がり走り去ってしまった。

「ジュンスぅ~!ストップ!そこにいて!チャンミン、帰るぞ。」

「…わかりました。帰ります。」

今日は諦めよう。
暫くはユチョンヒョンを警戒しなくてはならないな、と余計な心配が増えたと心の中で溜め息をついた。

「ところで、ホントに付き合ってるんですか?」

道の先で言いつけを守り、直立不動のジュンスを見る。
ユチョンは首をかしげて可笑しそうに笑った。

「俺は気に入ってんだけどねぇ。」

うふふと笑うユチョンに目をやった奥に黒髪の少年が横切るのが見えた。
真っ暗闇を歩いているみたいな空気を纏い、真っ白な顔色。

髪や服装。
見覚えのある感覚、それはフンワリと微笑む兄みたいな上級生のそれに酷似していた。

確かにジェジュンヒョンに似せてるかもしれないな

カラムは美しい少年だ
それはチャンミンも認める

しかし、彼がジェジュンに成り変わろうとしているというのなら、それは無理な話だろう。

同じように髪を切って、同じ服に身を包み。
そうすればするほど、違いは浮き彫りになるだろう。

ジェジュンヒョンに近い人なら尚更なのに。

何となく、同情に似た気持ちになり、チャンミンは思考を止める。
深入りはしちゃいけないな。

慌てて目で追うが姿は人波に紛れてしまった。

たぶん、カラムだ。

「早くぅ~!!はりあっぷぅ!」

「はは!harryup!だって!かーわいい!chanming、go!」

ユチョンに肩を組まれてチャンミンは仕方なく帰路についた。

進む先に見えるジュンスが大きく両手を振り、明るい笑い声をあげている。

どこまでも幸せそうな顔を見て、カラムの横顔を思い返してしまい、チャンミンは胸が締め付けられた。

刹那いまでもの恋情。

恋愛って、思い通りには行かないものだ

ジュンスに抱きついたユチョンの美しい笑顔を見て、チャンミンは寂しくなった。


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your beautiful dream

2014-04-01 12:40:03 | 東方神起妄想小説
妙に飄々とした雰囲気の上級生
以前から食えない人だと思っていたが…

ユチョンはチャンミンから離れるつもりはないらしく、どうにかまいてやろうと暫く歩きまわってはみたが、彼の庭同然である場所では勝ち目はない。
諦めて帰ろうかと足を止めると目的地にぶち当たった。

蔦の絡まる壁に覆われて、店名を示すプレートが葉に埋もれている。
『ブランカ』
みつけてほしくないようにヒッソリとした空気が辺りを漂う。
木製のズッシリとした質感の扉に真鍮の飾りが施された取っ手。

通いなれた気軽な喫茶店を思い浮かべていたのに、雰囲気がある店構えに気後れしてしまう。
手を伸ばすのを躊躇っていると背中からユチョンが声をあげた。

「やめた方がいい。」

「ここに来るのが目的なんです。わかってるでしょう?」

「birthdaypresentが目的なんだろう?ここにはないよ。帰ろう。俺がみつくろってやるよ?」

プレゼントなんて口実だとわかっているだろうに、意地悪く返される。
振り向かずに手を伸ばすと、背後からユチョンが手を重ねて阻んだ。

「年上の意見は聞くもんだぜ?ここはお前が来るような場所じゃない。」

ぴったりと体を寄せてきたユチョンの体温を背中に感じる。
口調はからかうようで、いつも通りだが重ねた掌は少しでも動けばきつく握りしめられるだろう。

武術をたしなんだことはないが、殺気とはこの事だろう。
常に笑みを浮かべた上級生がこんなに怖いなんて知らなかった。

「どうしてもですか?」

「そ、どーしてもダメ。見てみな。」

顔の横からニュッと飛び出た指の先をみると、ドアの脇に文字も読み取れないほど小さなcloseのプレートがあった。

「閉まってるなら、そう言ってください。ビックリするじゃないですか。」

「あは、だね。でも開いてたとしても来ちゃダメだ。何故ここを知ってる?」

「ネットで見たんです。良さそうな店だなと思ってたんで。」

ヒチョルに頼まれた事は口外出来ない。
もとより言うつもりもない。
勘の良い上級生から早く解放されたいと内心ジリジリと焦っているが、努めて表情には出さず口をつぐんだ。

それを見透かすような視線を送られ、顔を背けるとユチョンは大きく溜め息をついた。

「悪いことは言わないから、ここに近づくのはやめておけ。」

普段、ユチョンは命令形で言葉を発することは少ない。
共に見回りをした時でさえ、年下のチャンミンにものを言いつける事はなかった。

「何故?別に構わないでしょう。カフェくらい誰でも入ってる。」

店の雰囲気からして、チャンミンのような年齢の人間に似つかわしいとは思えない。
重厚な扉は『大人』以外はお断りと断言しているようだ。
しかし、現にカラムはここの常連だ。

子供扱いされたのか、もしくは真面目で良い子のチャンミンには合わないとでも思っているのかと、自分にしては珍しくカチンときた。

「どこに入ろうが勝手じゃないですか。ユチョンヒョンに迷惑かけませんよ。」

「…チャンミン。」

怒気の混じった低い声を初めて聞いた。
しかし、引くに引けず思わず睨み返していた。

「…」

どちらも引かず、このままでは悪い方向にしか行かないだろう膠着状態から解放してくれたのは意外な人物のすっとんきょうな声だった。

「あー!ヒョン!!こんなとこにいたぁっ!勝手に行かないでよ!」

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