ALGOの塾長日記~愚公移山~

-学習塾方丈記-

学習指導の由なしごとを
    徒然に綴ります。

学ぶことの意義Ⅱ

2008年12月22日 | 中学受験 合格力随想
生物は自分の体内に自然治癒力を持っています。また、本来持つ成長力によって成長していきます。学習についても、人間がもともと持っている自然学習力や知的好奇心が源泉になり、学ばせていくのだと思います。現代の教育技術は自然学習力についてまだ研究が十分ではないため、その力を引き出そうとチェックテストやスモールステップ・イメージマップなど、さまざまな方法を使用しています。

しかし、いちばん大事なことはどう学ぶかではなく、何のために学習するかという「目的」です。「目的」は、初めは自分の個人的な利益に伴うものですが、いつまでも個人的な利益が「目的」のままである人は、次第に新しいことを学ぶ意欲を失っていきます。「目的」の達成度に応じて、自分の「目的」もまた成長していくことができる人のみ、学習に対する意欲を持ち続けることができるのです。

では、その「目的」の成長を決めるものは何でしょう。生物学の領域においてこの疑問に対し重要なヒントが提供されています。松本 元氏は、『愛は脳を活性化する(岩波科学ライブラリー)』の中で、「脳からのどんな情報出力も、自らの内部世界にあらかじめ存在するものによる」と述べています。つまり、私たちが学ぶものは、全く新しいものではなく、既に自分の中にあるものが発展したものなのです。

人間は、子供時代に自分自身と環境の区別をはっきりと持っていません。例えば、お父さんやお母さんが言ったりおこなったりすることは、そのまま自分の発言や行動と同じものとして受け取ります。この時期に、子供たちは同一化した父母の言葉によって、人生の最も骨格になる生きる方向性を身につけていくことになります。そして、その後、読書や対話や経験により少しずつ自分自身で中身を育てていきます。

しかし、この成長に伴い、自分の中身は次第に固定化していき、やがて、自分を基準にして環境や他者を客観的・批判的にとらまえるようになります。その過程において学ぶことは努力を要するものに変質し、自分の成長がついていかなくなったとき、学ぶことをやめてしまいます。

このように考えると、子供時代に、人間や社会の価値を小さく学んだ子は、その小ささ故、成長につれて自分自身を大きく育てていくことが次第に難しくなります。子供時代に、保護者の方から人間や社会の大きな価値を学んだ子は、最初は小さい目標からスタートしたとしても、その目標の達成に応じて、自分の目的を更に大きなものに育てていくことができます。つまり、子供は、自分の中に既にあるものとして新しい成長の道を歩んでいくことができるのです。


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