遅くなって大変申し訳ないのですが、ようやく鑑賞終了したので感想投下w
ダブルオーは原点回帰を果たした作品だった。
OOとは数字の0、即ち、原点という意味も込められているのかもしれませんね。
1話目を見た時と全話を見終えた時とで作品の印象がここまで違うのも珍しいかもしれません。
1話目を見た時、この作品の主題は「武力による紛争の根絶の是非」を問う物語かと思っていました。
しかし、それは全くの勘違いだった。
本作の真の主題は「世界の意思と個人の意思の乖離から生じる“歪み”」の描写。
これに尽きると思います。
新世紀エヴァンゲリオン以降、アニメ界には「セカイ系」と呼ばれる新ジャンルが生まれる事になります。
セカイ系とは、簡単に言えば、世界が主人公とその周辺人物を中心に構成されている、という考え方です。
要するに、世界の意思と登場人物の意思が合致する状態なんですね。
前シリーズのガンダムSEED DESTINYもガンダムにおけるセカイ系の作品でした。
あの話は主人公キラを世界の中心に据えた剣と魔法の物語みたいなもんでしたがw
ダブルオーはこれらセカイ系作品とは真逆の作品です。
この作品では、自分が世界の中心で世界を動かす事を「神」という完全なる存在によって表現しています。
ソレスタルビーイングが神であれば、彼らを中心とした世界が創造され、彼らを中心に世界は回る事になる。
しかし、作中では武力によって紛争を根絶するという崇高な「意思」を持ったソレスタルビーイングの行動は世界から「矛盾した行動」として受け止められる。
つまり、ソレスタルビーイングは彼らの「意思」とは関係なく彼らの「行動」だけで評価され、世界からは「悪」と認識されるのです。
その事を上手く表現していたのが、トレミー組とマイスターセカンドチームの対比です。
無差別大量虐殺を行ったマイスターセカンドチームと刹那達の決定的な違いは、「意思」が違う事です。
刹那達は純粋に紛争根絶を目指すために武力行使を行っているが、セカンドチームは遊び半分で民間人を虐殺したのですから。
だから、刹那は「あれはガンダムではない(=あいつらの意思は自分の意思とは全く違う)」と言ったのです。
刹那にとってのガンダムとは崇高なる意思を体現するための機体なのですから。
だが、刹那達は、その「意思」とは逆に、世界からはマイスターセカンドチームと同じ「悪」と見なされる事となる。
その様に判断され、世界から弾かれる理不尽さ・葛藤は自分が世界の中心に存在する事を前提とするセカイ系の話では起こり得ない。
詰まるところ、刹那は世界の意思を思い通りに動かす神にはなれなかったという事なのです。
ゆえに、彼の意思とは無関係に世界はただ淡々と回り続ける、と。
この反セカイ系は初期ガンダムシリーズの伝統を継承したものです。
初期ガンダムシリーズでは主人公を中心とした世界だけでなく主人公以外の脇役キャラの存在する世界も描写しました。
その「主人公以外の脇役キャラの存在する世界」の描写こそがガンダムが「リアル」と呼ばれる所以なんですね。
(悪い意味ではなく)その伝統を破壊し流行であるセカイ系の波に乗ったのがSEEDシリーズであり、今風の新しい「リアル」の概念を作った訳なのです。
ゆえに、ダブルオーは脱セカイ系の原点回帰を果たした古風な「リアル」作品であると言えると思う次第です。
第13話『聖者の帰還』におけるガンダム非武装作戦時に、スメラギは「ソレスタルビーイングの想いを世界に見せる」と言っていましたが、正に世界から理解されない(=世界の中心になりえない)ソレスタルビーイングの苦しみを表現していた言葉だと思います。
彼らは世界が歪んでいると感じた事でしょう。
何せ自分達の崇高な意思を知ろうともせず、ただ行動のみで善悪を判別されるような世界なのですから。
彼らは、この世界の意思と個人の意思の乖離から生じる“歪み”を失くすために世界を変えようとするのですが。
この作品でいうところの「変えるべき理想の世界」とは、各キャラクター達が世界から認められ、世界の意思と各個人の意思が合致する世界の事を指すのでしょう。
意思の乖離から生じる歪みが抹消された世界こそが理想の世界である、と。
今作では世界の意思と個人の意思を合致させようと奮闘した挙句、それを成し得なかった主人公達を描写したので、2期目は世界の意思と個人の意思の合致による主人公達の世界への帰還を描く話になるんだろうな、きっと。
この作品は地味で断片的な描写の積み重ねによって構成されているので劇的な演出を好む視聴者にとっては退屈な作品だったかもしれません。
しかし、行間で物語を読み解いていくタイプの視聴者にはこれ以上無いくらいの傑作だったと思う次第です。
沙慈とルイスのラブコメチックな断片的描写の積み重ねも、偏に彼らの出会いと別れを描くためのものでしたし。
あの片手切断シーンだけをクローズアップさせるのであれば、一つの「戦争の悲劇」を描くには十分でしたが、それまでの地味な描写の積み重ねがあったからこそ、あのシーンを2人の「別れ」の契機として描く事ができたのです。
1話1話の出来はそうでもないですが、全体を通した出来は種運命やコードギアスの完成度を遥かに超えていたと思います。
私の中ではガンダムシリーズで5指に入る作品ですよ。
今秋開始予定の第2期も非常に楽しみな次第です。