今回の金融サミットに向けての日本政府の提案は高く評価できる点が多いと考えている。
少し、話を離れたところから始めるが、今回の金融危機は、証券化商品やらCDSなどの金融派生商品を通じて、住宅ローンなどの信用リスクが世界中の金融機関に広がり、その影響が見えないところが問題の核心であろうと思う。そのために市場が疑心暗鬼になり、世界的に金融が目詰まりを起こして、現在は実体経済に影響がおよび始めている。
こういった状況を解決するには「ぐっちー」氏などが主張するように上記のような取引について全てを政府が保証し、個別の取引について明らかにする作業が必要になるのだろう。その際、必要になるのは政府による資金調達と資本注入・資産の買い上げなどであり、同時に経済の財政政策による下支えも行わなければならない。そのため米国は国債発行により、巨額の資金調達を行わざるをえない状況となっている。
こういった状況になると、海外からの資金調達とその金額の大きさから米ドルの信認や米国債の暴落の懸念が出てくる。しかし、以下に述べるようにそのような問題が実現化する可能性はかなり低いと思う。
http://blog.goo.ne.jp/aiubis/e/d6b02dec81740007cedcc030f3f086c1
上記の記事「ブレトンウッズ3.0」でまとめたように、第二次大戦後の世界経済の発展は米国の貿易赤字とそれに伴う米ドル供給によって支えられてきたこと。そして、SDRなどの仕組みが作られ、国際通貨体制を支える努力が続けられてきたこと。今回の金融危機に対応した各国の動きを見ても、1930年代のような自らの国の経済を閉鎖的な形で保持するような動きにはなっていない。なんらかの国際通貨体制や自由貿易がそれぞれの国の発展にとって重要であるという認識は究極のところでは共有されているものと考えられること。
http://blog.goo.ne.jp/aiubis/e/3acbd9278d862daeb42215dd40caf638
さらに2番目の記事でまとめたように、輸出国が輸入国に大して持つ債権は結局負けてやったり、贈与したりすることで輸入国の経済発展(もしくは復興)に協力せざるをえなかった歴史があるためである。この点は今後の世界経済を考える際に極めて重要である。なぜなら、国際通貨体制とそれによる自由貿易体制で経済を発展させたきた日本や中国、産油国などの国は持っている米国債を売ってしまうことはできず(大量に売れば結局値が下がって自分の首をしめることになる)、結局のところ米国への信用供与という形である程度経済的に「泣かざる」をえないと思うのだ。
今回の日本政府の提案は、11月15日付けの日経の記事によれば、1)IMFにおける加盟国の拠出金を2倍に増やし、日本は外貨準備のうち10兆円を拠出する。2)世界銀行において。途上国銀行の資本増強のための基金を設置、3)アジア開発銀行の資本金を倍増となっている。
ちょっと見ただけでは、単に世界金融危機に対して、それぞれの機構に拠出金を増やすだけのように見えるが、そこはかなりよく考え抜かれた部分が大きいと思う。先に述べた、輸出国ー輸入国の債権・債務の関係で言えば、積み上がった巨額の米ドル・米国債といった債権をIMFや世界銀行に「凍結」することによって、為替や米国債の暴落を防ぎ、同時に新興国に対する経済支援を肩代わりすることで、1)経済体制の支援者としての米国へのサポートになると同時に、2)新興国の経済が悪化することを防ぐことができるためである。
今後の新興国支援のため拠出金を増やすことは建前上反対しにくいと思われるし、新興国側もこれを機会に発言力を高めたいと思っているはずなので、それに伴う義務という形では拒否しにくいと考える。日本政府のオリジナルなのかどうかは私にはわからないが、10兆円を拠出することを表明したことも含めてもっと高く評価されてよいのではないだろうか。
一方、米国の経済数字はとても悪い。小売売上高や失業保険の申請件数などは予想を超えて悪化している。しかし、今まで海外から借金をしながら高い消費で繁栄を謳歌していた米国にとっては消費を減らして貯蓄率を高めていくことは痛みを伴うものの、避けては通れない過程であるはずである。こうした数字はそう遠くない招来にファンダメンタルズが改善し、中長期的には事態がよくなっていく証のようなものだろう。
何で読んだのかよく覚えておらず出典が示せないが、OECDの家賃と住宅価格の分析によれば米国の住宅価格が理論価格から乖離しているのは3割ほどだという。米国の不動産価格低下とそれに伴う耐乏生活の時期は言われているほどは長くないのではないだろうか。
さらに大統領に当選したオバマ氏は、いろいろの情報を総合して考えると用意周到で老獪な政治家なようだ。以下のような記事にあるように環境やエネルギーを国の経済の柱とするようになれば日本経済にとっても大きなプラスになるだろう。
http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/itou/34/02.shtml
株価が下がるときは皆悲観的になり、それにあわせたように経済雑誌やブログに暗い話が満載となる。そうした雰囲気に惑わされず、それほど遠くない夜明けを見据えて、事業や投資における布石を打っていくことが重要なのだと思っている。