読書の森

アンドレジイド『狭き門』 前



『狭き門』を忘れ去られた純愛小説の名作と言ってはいけないだろうか?
1909年、パリで上梓されたこの作品はキリスト教の戒律が守られていた当時の人々の共感を呼び大ベストセラーとなった。

私が母に勧められて、この本を読んだのは中学生の時である。
ミッション系の中学に通い、朝礼で賛美歌を歌う生活にこの本はよく似合った。

上品で清潔感に溢れたヒロインは、異国の貴婦人の様に心に映った。

母はかなりの文学少女で幼馴染のボーイフレンドも文学少年だった。
ひょっとして学徒出陣するその人が母に送った本だったのかも知れない。



古い岩波文庫本の中に、ジェロームとニ歳年上の従姉妹アリサの恋が描かれる。

背景に美しい19世紀フランスの風景。
清らかな瞳のアリサはジェロームを深く愛しているのに、彼を拒む。

この事で若い恋人同士は同時に苦しむ。

実はアリサの母は非常に奔放な女性で男を作り、彼女と父を悩ました。
そしてアリサは自分の中に淫蕩な血が流れているのを恐れてジェロームと結婚に踏み切れないのである。

二人は結ばれぬまま、アリサは熱病に罹って死ぬ。



この物語を出征する恋人が母に与えたとするなら、かなり残酷な話である。

何故ならジェロームはアリサの死を哀しむあまり生涯妻を娶らなかったからだ。
つまり若い母の恋人は、自分が戦死しても嫁してくれるなという暗示をかけた事になる。

母の恋人はいっそ母を奪いたいかったのかも知れない。
しかし、自分の行く末に戦争が立ちはだかる。
淫蕩な若い自分を恥じる思いもあるのかも知れない。
それでもいつまでも独りで自分だけを愛し続けて欲しかったのではないか?

まあ、深読みし過ぎですが。

戦後、母は病気で兵役を免れた父の妻になり、その恋人が必死に探し回って見つけた時は赤子の私を抱いた姿だった。

彼は母と同年、非常に闊達な成功者であり、女にモテた。
つい最近まで世界旅行を楽しんでいた様である。
毎年送られる年賀状で私は知ってる。
仕事に挫折し陽を浴びる事がなかった父の人生とまるで異なる。

青春の思い出をそっくりそのまま無邪気に伝える母に私は傷ついた。
何故なら、私は情けない男(父親)の娘であり、そっくりだと貶すからだ。

それは別の話であり、そんな事を通り越して戦争は多くの恋人同士を引き裂いた。
母と恋人の様な、戦争を挟んだドラマは母の友人にも起きていた。

そして当時の若い恋人同士は純愛小説を好んで読んだ。
もっとも『狭き門』は敵国のベストセラーで禁書だったのかも知れないが。

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