昨年末の番組で多少時期を逸してしまったが、12月26日放送のNHKスペシャル「38万人の甲状腺検査~被曝の不安とどう向き合うか」について遅ればせながら触れておきたい。信夫山ネコさんのブログで紹介されているとおり、その番組内容は県立医大の甲状腺の検査に対して極めて批判的なものだった。
それは取材者として出演しているNHK福島支局の中島紀行デスクのコメント(動画28分辺りから)に端的現れている。
住民たちは健康被害が起きるかもしれない、何がおきるかわからない、と不安に思っている。(福島県立)医大は大丈夫だと繰り返すだけで、住民からすれば自分たちの不安ときちんと向き合ってくれない、最初から結論ありきの姿勢ではないか、と不信感を強めていた。…こうした不信感から検査を受けない人もいますし、結果を知ることが怖くて受けない人もいる。逆に安心ととらえて診察を受けない人もいる。
こうした県医大批判は番組を通じて福島の親それも母親たちから何度も語られている。中島デスクは母親たちへの取材から、最後はこんな感想を述べている。
ただ今回取材をしていて強く感じたのは、今の福島では一見、日常を取り戻しているかのように見える親の多くが実は不安を押し殺して暮らしているということなんです。本当はいろいろ知りたいのだけれども、放射能のことを話すのが憚れる、考えて悩むのがつらいといって、こうした人々が検査の網から漏れてくる恐れがある。
「不安を押し殺す」「放射能のことを話すのが憚れる」といった極めてネガティブな文言が飛び出す。これが福島県民の一般の声のように。確かにこうした不安を持つ親は少なくないだろう。しかし、これを福島県民の大方の真意と捉えるのは正しいのだろうか。
福島の親たちに不安が全くないといったら嘘になるだろう。こんな事故があれば、不安に思うのが普通だ。しかし、本当に「不安を押し殺している」人々ばかりであろうか。中島デスクがいみじくも語っているように「安心と捉えて診察を受けない」人も少なくないのではないか。
実際、その割合はよくわからない。しかし、報道する側の立ち位置として、どうも福島住民の不安ばかりを追っている報道が多すぎる。このNHK番組の趣旨がとりもなおさずそうだし、他の民放番組では大半は同様だ。どうも住民の不安に沿って報道することが正義であるかのような思い込みが強い感じがする。
もっと住民の不安を解消するような番組があってもよいと思う。そのためには県民検査を実施している県立医科大の立場を汲んだ放送内容があってしかるべきだ。県医科大はこれまで、民放の報道ステーションなどの偏向報道に対してたびたび番組後抗議を寄せているし今回のNHKでも同様である。それがあくまでも専門家からの具体的な反論なのにもかかわらずだ。
しかし、県医科大のような批判したい対象には対しては申し訳程度の取材で済ませ、反対側の立場の意見ばかりを聞くのでは不公平のそしりを免れない。これでは朝日新聞の「吉田調書」暴露報道となんら変わりがない。NHK福島支局中島デスクのコメントは一見穏健で良識的だが、それが逆に煽り報道の隠れ蓑になっている感じがする。