土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

動物に対称性は見えるか

2019-02-10 | 随想
まず蜘蛛の写真を撮りためているJurgen Ottoさんの写真をご覧ください。
6枚目などなんと巧妙なカモフラージュなのだろうか。

むろん色や質感は擬態としてよくできている。だが我々はすぐ見つけ出すことができる。対称性、この場合は線対称性、厚みを考慮すれば面対称性が問題ではないか。蜘蛛の各部分の大きさのスケールに対応する樹皮の凹凸には対称性がない。

対象性という数学的知識がなくても、ナチュラルでないという感じで、周りの無秩序な自然の中で目に留まるであろう。この写真の中で蜘蛛は際立って不自然、あるいは人工的なのである。いやむろん人工ではないが、多くの動物はほぼ面対称な身体を持っている。(むろん植物の花や、無機物の結晶なども対称性で人目を引くことはあるのだが。)この蜘蛛の場合は小昆虫などの獲物や鳥などの天敵から身を隠しているのだろう。この種が生き延びてこの形を定着させているのだから、このカモフラージュは、対称性を持つにもかかわらず、効果を上げていると言えるだろう。

まだうまく言い止めることはできないが、対称性というのは上下左右とかおそらくは遠近よりも高次の視覚的認識であろう。そこで一般化した次の疑問が生じる。
「猿、鳥、犬、猫、魚などに対照性は認識できるか?」

たしかめるには、例えば同じ色をした対称形と非対称系の多様な形を持つビスケットのようなドッグフードをつくり、材料は前者をまずいもの、後者を好みのものに統一する。これらを、臭いで区別できない離れたところから選ばすことを繰り返す。後者を選ぶ回数は増えていくだろうか。僕は動物を飼っていないので、どなたか試して教えてください。システマティックにやれば報告書を書く価値があるのではないだろうか。

コメント (7)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« メモリー | トップ | Can animals detect symmetry... »
最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
動物にも対称性は見えるらしいか (重定勝哉)
2021-12-09 18:01:07
奇妙で愉快な"Wrap-Around Spider"というクモの写真に触発された「動物に対称性は見えるか」という問いかけ 非常に面白く見せていただきました.しかし,対称性の認識は必ずしも人間だけの特技ではないようです.因みに,動物心理学会研究という雑誌に載っていた「フサオマキザルにおける左右対称性の認識」(動物心理学研究 第58巻第2号,188 p, 2008)という抄録にはミツバチやツバメにさえその能力のあることが確認されているそうです.以下は,そのコピーです.

-------------------------------------------------------------------
P1-05 フサオマキザルにおける左右対称性の認識

京都大学       
       ◯上柿恵一・高橋 真・藤田和生


 ヒトはシンメトリ,特に鏡像対称に敏感である。 その理由として,シンメトリと繁殖相手の遺伝子の質との関連が指摘されている。つまり,繁殖相手の顔がシンメトリであることは,対象が健康であり,その遺伝子の質も正常であることを示している。したがって,繁殖相手を選ぶ際の指標としてシンメトリを利用するものが生き残った結果,ヒトはシンメトリを選好するようになったとされている。同様な主張はツバメにおいてもなされている。また,繁殖以外では,ミツバチがシンメトリな花を選好することがわかっている。ミツバチの場合は,食料探索時の指標としてシンメトリを利用するものが生き残ると同時に,植物もその形状をシンメトリなものに進化させた結果であるとされている。このように,系統発生的に離れた種において,異なる理由に基づくシンメトリに対する選好が見られている。しかし,自然界において見られるシンメトリの多くは一面的なものであり,少し視点を移動させるだけでシンメトリでなくなってしまうものが多い。それにもかかわらず,シンメトリを選好する種が存在するのは何故なのだろうか。また特定の理由に基づいてシンメトリを選好する場合,その選好は特定の刺激についてのみ見られるのか。これらの点を明らかにするために,本研究ではフサオマキザルにおけるシンメトリへの選考について検証した。実験は次のように行った。試行間間隔3秒の後,レバーに接触すると試行を開始した。試行開始後,モニター上の刺激表示箇所9ヶ所の内,2ヶ所にランダムに刺激(対称・非対称)を提示し,刺激に接触すると報酬を与えた。刺激の表示は刺激に接触するまで続け,刺激接触後に試行を終了した。そして,2種類の刺激対称・非対称)の内,どちらに接触したかを記録した。なお,刺激の提示順序はランダムで1個体あたり150試行を実施した。刺激には同種他個体,植物系食物,動物系食物,非食物,幾何学図形を用意した。そして,刺激の左半分を反転コピーしたものを対称刺激,対称刺激を加工した(一部分を移動・欠損・付加させた)ものを非対称系刺激とし,モニター上で150ピクセルに縮小して表示した。現在,刺激及び手続きに問題があるため,明確な結果は得られていない。被験体や刺激等における問題点を解決する必要がある。
thanks (北村虻曳)
2021-12-09 23:52:13
重定さんありがとう。人間以外にも対称形の感知能力はやはり少し知られているのですね。そういう能力が繁殖や摂食に有利に働くだろうというのはうなずけます。フサオマキザルの場合はもう一つうまく言ってないようですが、刺激の提示法に改良の余地があるでしょうね。
それにしても重定さんの文献探知能力には恐れ入ります。
動物にも相性性は見えるらしいー補足 (重定勝哉)
2021-12-10 10:47:29
フサオマキザルの実験については,続編ないし本論文が出ていないか探したのですが残念ながらまだ見つかりません.代わりに,イルカ類の認知機構を扱った「シロイルカにおける対称性の成立」と題する論文が引っかかってきました(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/15/3/15_3_358/_pdf/-char/ja).認知科学分野に特有の問題意識や実験的アプローチが垣間見えて面白いです.よろしかったらのぞいて見て下さい.
対称性の認識に関連して (泉井 桂)
2021-12-10 15:39:22
面白い問題提起ですね。私はすぐメスグロヒョウモンという雄と雌で全く羽の模様を異にする蝶のことを思い出しました。そのようなキメラの蝶は時たま見つけられているからです。このような蝶での生殖行動についてどのようなことがわかっているのか少し調べてみました。モザイクの鶏や昆虫での記載がありますが、さらにクロマルハナバチについてはそのような論文はありましたが、キメラの方が正常な雌にアタックしようとしたが、途中でやめたようでした。逆にキメラが正常な雄と雌どちらからアタックされたかの記述はなかったように思われました。以下をご覧ください。


1)https://ja.wikipedia.org › wiki › 雌雄モザイク

2) https://storage.googleapis.com/natureasia-assets/ja-jp/ndigest/pdf/v7/n6/ndigest.2010.100604.pdf
雌雄モザイクのニワトリが現れる訳

3)) 雌雄モザイク
2018年5月15日
有性生殖を行う生物にとって、「オス・メスどちらとして振舞うか」は大変重要です。研究に使用しているナミアゲハの場合、野外でオスはスピーディーに、対してメスはフワフワと飛んでいる様子が観察できます。もちろん、ミカンの葉を前肢で熱心に叩いてから産卵するのはメスだけです。
昆虫では、稀に同一個体内に雌雄両性の特徴が混在する「雌雄モザイク(ジナンドロモルフ)現象」が生じます。これは、私たち哺乳類と異なり、昆虫の性が細胞ごとに独立して決まるためです。クワガタムシや雌雄で色合いが大きく異なるような種類のチョウの場合、見栄えも良いので、雌雄モザイク個体の写真を目にする機会も比較的多いように思います。それらに比べるとだいぶ地味な昆虫ですが、以前の勤務先で学生さんと行ったクロマルハナバチというハチの雌雄モザイクに関する研究が、二ヶ月ほど前に小さな論文として世に出ました。体の右上半身がメスで残りはオスとしての特徴を持つこの個体、メスに対して猛然と接近するものの交尾直前でやめてしまう、という様子が複数回観察されました。なぜ彼(?)は「なんとなく煮え切らない態度を示す」のではなく「途中でキッパリやめた」のでしょうか?ご興味のある方は、こちらで当該論文をご覧いただければ幸いです。
さて、ナミアゲハですが、よく見ると雌雄で色合いが異なります。しかし、残念ながら今のところ飼育中に雌雄モザイクが出現したことはないようです。ミカンの葉を差し出したらどのように反応するのか、一度試してみたいものです。

大阪府高槻市紫町1-1 TEL:072-681-9750
COPYRIGHT © JT Biohistory Research Hall. All rights reserved.



4)Apidologie (2018) 49:411–414 * INRA, DIB and Springer-Verlag France SAS, part of Springer Nature, 2018 DOI: 10.1007/s13592-018-0568-0

Scientific note on interrupted sexual behavior to virgin queens and expression of male courtship-related gene fruitless in a gynandromorph of bumblebee, Bombus ignitus Koshiro MATSUO1 , Ryohei KUBO2 , Tetsuhiko SASAKI2 , Masato ONO1,2 , Atsushi UGAJIN1,3
thanks-2 (北村虻曳)
2021-12-10 16:24:30
「心理学」はあやふやなものが多かったから「認知科学」という方が好きです。
「シロイルカにおける対称性の成立」は読み込むと対称性の意味が異なります。実態と記号の間の相互翻訳を指しているのですね。でもとても面白い。この人達のように普段から動物を扱っている人が加わると、方法が的確になり、図形の対称性についても良い実験ができそうです。
幾何的な形態は、捕食、生殖、危険回避の3つに大きく関わるでしょう。対称性は色、大きさ、質感などより高次のものだから脳のどの段階で認知するかという問題ですね。脊椎動物と並んで昆虫、とくにミツバチや蝶類は視覚が発達している代表でしょうから観察に値しますね。
昆虫のキメラについてはまったく知りませんでしたが、いろいろな仮説の検証にありがたい対象ですね。
thanks-3 (北村虻曳)
2021-12-10 20:45:33
ニワトリの場合もあるのですね。その「自覚」まで触れられているのが興味深いです。
血液キメラには左右がありませんが、ニワトリの場合も昆虫の場合もバラバラではなく大体「左右に分かれる」機構は何なのでしょう。
キメラとモザイクを区別する向きもあるようですね: http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/text_id/Genetic%20Mosaics.html
動物にも相性性は見えるらしい−3 (重定勝哉)
2021-12-11 22:44:43
泉井さんが引用されたKoshiro MATSUO et al.の論文を読んでみました.その最後の段落に何故”雌雄モザイクのクロマルハナバチが女王蜂との交尾を突然中止した”かついて考察してありましたが,その理由が非常に傑作なので下にその原文と翻訳(DeepLによる)を載せておきます.

We recently found that female (both queen and worker) B. ignitus secretes a chemical compound, which exerts a repulsive effect on conspecific females as a contact chemical (R. Kubo, unpublished data). Thus, we assumed that the gynandromorph received opposing information from its
dimorphic antennae during the inspection of a queen. The fru -expressing olfactory receptor neurons housed in the left antenna were activated by the queens’ attractive sex pheromones, whereas the right antenna responded to the repulsive chemical component, resulting in the disturbance of olfactory-dependent transition from approaching to copulation attempt.

我々は最近、B. ignitusの雌(女王と働き蜂の両方)が化学物質を分泌し、これが接触化学物質として同種の雌に反発効果を与えることを発見した(R. Kubo, unpublished data)。したがって、雌雄同体は、検査の際に二形の触角から相反する情報を受け取っていると考えた。
雌雄同体は、女王を点検する際に、二形の触角から相反する情報を受け取ると考えた。左のアンテナにあるFruを発現する嗅覚受容ニューロンは、女王の魅力的な性フェロモンで活性化し、右のアンテナは反発する性フェロモンに反応する。右側のアンテナは反発する化学成分に反応して 結果として 嗅覚に依存した接近から交尾の試みへの 嗅覚に依存した接近から交尾の試みへの移行が阻害される。

コメントを投稿