日々想々

日ごろ思いついたことや気になっていることを自由に記してみたい

龍の国ブータンに学ぶ

2012-01-01 10:31:36 | Weblog
グリム童話集に『幸せハンス Hans im Glück』という一編がある。ハンスは7年の奉公の後、親方から金塊をもらい故郷へ向かう。途中、道行く人と次々にモノを交換。金塊を馬に、馬を牛に、牛を豚に、豚をがちょうに、がちょうを(なぜか)砥石に。のどの渇きをいやすため井戸の水を飲もうとしたとき、砥石をうっかり中に落としてしまう。結局、もらった金塊は無に帰してしまったのだが…。「ぼくみたいな幸せ者は、世の中に誰もいないんだ!」ハンスはとぶように、母親の待つわが家へ帰っていった。教訓的な意味づけは一切ない。しかし、失ってなお幸福というハンスの物語は、『般若心経』の説く色即是空や『法句経』に散見される、「モノの束縛を離れたところに心の自由=空がある」との教えに一脈相通じるものがある。1976年、弱冠21歳の第四代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクが、スリランカ・コロンボでの記者会見中、「私たちはGNP(国民総生産)より大事にしているものがある。GNHだ」と語った。GNH(国民総幸福)が世に知られる契機となった発言だが、当初、GNHは数量化が難しく観念的との冷ややかな見方が支配的だった。しかし、世界がひたすら経済成長を追い求めた結果ほころびが露呈、混乱を極めている今日、GNHの重みは次第に再認識されつつある。成長率は高くても幸せ感に乏しく、格差の拡大さえ生じかねないGNPより、心の豊かさを含みとするGNH指標の方が安定性・持続性の点で説得力に富む。GNHを国の基本理念とするブータンは、自然環境・伝統文化の保護を憲法に盛りこむなど(2008)、ゆるぎない信念をもって着実に前進する。人びとはチベット仏教を生活の拠りどころとし、信仰心に篤く日々の参拝を欠かすことがない。祈るのは自分のためではなく、人のために、世の中のために、生きているものすべてのためだという。社会的弱者を地域社会全体が扶助するシステムもしっかり根づいているようだ。昨年は偶々、ブータンに関連する話題が相次いだ。7月国連総会は、ブータンの「幸福哲学」を発展の最終到達目標とする決議案を採択。11月には第五代ワンチュク国王・王妃が国賓として来日、滞在中の言動は私たちの心に深い感銘を与えた。ほんとうの幸せはごく身近にあって、「ゆかり」、「よしみ」、「きずな」など、伝統社会に昔からあった関係性を尊重し生きることではないだろうか。すべてのご家族がお幸せでありますように! Sei jedes Haus im Glück!