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千葉法相の英断を評価する

2010-07-29 01:20:45 | 事件・犯罪・裁判・司法
 昨日の朝日新聞夕刊は1面トップで千葉法相が死刑執行を命じたと報じた。

千葉法相 2人死刑執行
 政権交代後初 自ら立ち会う

 千葉景子法相は28日午前に記者会見を開き、死刑囚2人の死刑を同日に執行したと発表した。死刑の執行は昨年7月に3人に対して行われて以来、1年ぶり。確定した死刑囚はこれで107人となった。政権が交代し、千葉法相が昨年9月に就任してから初めての執行となる。かつての死刑廃止議員連盟のメンバーで、今月の参院選で落選した千葉法相が執行に踏み切ったことは、論議を呼びそうだ。


 出た! 「論議を呼びそうだ」。
 
 千葉法相は会見で、自ら執行に立ち会ったことを明かし、「死刑に関する根本からの議論が必要だと改めて思った」と語った。法相として執行に立ち会ったのは「おそらく初めて」という。そのうえで、法務省内に勉強会を設置し、死刑制度の存廃を含めたあり方を検討する▽国民的な議論の材料を提供するため、メディアによる東京拘置所内にある刑場の取材の機会を設ける――ことを明らかにした。

 執行されたのは、2000年6月、宇都宮市の宝石店で女性従業員6人を焼死させ、1億4千万円相当の貴金属を奪ったとして、強盗殺人などの罪が確定した篠沢一男死刑囚(59)▽03年8月、埼玉県熊谷市で飲食店従業員などの男女4人を殺傷したとして、殺人などの罪が確定した尾形英紀死刑囚(33)――の2人。ともに東京拘置所で執行された。

 篠沢死刑囚は02年に宇都宮地裁で、尾形死刑囚は07年にさいたま地裁でそれぞれ死刑判決を言い渡された。いずれも07年に死刑が確定し、執行までの期間は、篠沢死刑囚が約3年4カ月、尾形死刑囚が約3年だった。

 近年では、鳩山邦夫元法相が約1年の在任期間中に約2カ月に1度、計13人の死刑を執行した。千葉法相の前任の森英介前法相も3回にわたって9人に執行した。

 死刑執行まで1年以上の空白期間ができたケースも過去にはある。就任会見で「サインしない」と発言し、直後に撤回した杉浦正健元法相の在任期間(約11カ月)を含む06年12月までの約1年3カ月、執行されなかった。


 以前にも述べたが、死刑執行の法務大臣命令について、刑事訴訟法第475条第2項は

判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。


と定めている。したがって、この項の但し書きに当たらない死刑囚については、法務大臣は判決確定から6か月以内に死刑執行を命じ「なければならない」はずである。
 だから、法務大臣個人が死刑に賛成でないからといって、死刑執行を停滞させるがごとき行為は、この条文に反しているのである(もっとも、この6か月以内という期限については、法的拘束力のない訓示規定にすぎず、これに反しても違法ではないとする地裁判例があるそうだが)。

 ところが、55年体制下の第2次海部改造内閣で法務大臣を務めた左藤恵は、自己の信条を理由に死刑執行を拒否し、しかもそれを公然と表明した。続く宮沢内閣の田原隆法相の下でも死刑の執行はなく、宮沢改造内閣で警察官僚出身の後藤田正晴が法相に就くに至って、ようやく死刑の執行が再開された。
 以後、短命大臣を除いて、死刑は細々と執行され続けてきたが、第3次小泉内閣の杉浦正健法相が、またしても信条にのっとり執行しなかった。そのためか後任の長勢甚遠と、その後を継いだ鳩山邦夫は、近年にない2桁台の執行に及ぶこととなり、鳩山は朝日新聞夕刊のコラム「素粒子」に「死に神」と揶揄されるに至った。
 死刑執行が法務大臣の裁量によるものであるかのような前例を作った左藤の罪は極めて重い。

 政治家が個人の信条として死刑廃止論に立つことはあっていいし、それを政治課題としてもかまわない。
 しかし、わが国の死刑制度が上記のようなものである以上、法相の地位に就いたのなら、粛々と死刑を執行すべきだし、それができないというなら初めからその地位に就くべきではないというのが私の持論である。
 千葉景子が死刑廃止に積極的であるとは聞いていたので、左藤や杉浦のような事態が三たび繰り返されるのではないかと心配していた。
 だから、今回の執行は英断であると評価したい。

 アサヒ・コムには千葉法相の記者会見の模様がもう少し詳しく載っていた

死刑執行に立ち会い、千葉法相「根本からの議論が必要」

 「執行が適切に行われたことを自らの目で確認し、あらためて根本からの議論が必要と感じました」。死刑執行に立ち会った千葉景子法相は、神妙な面持ちでそう語った。

 就任以来、執行に慎重な姿勢を示し「国民的な議論」と「刑場などの情報公開」が必要との考えを繰り返してきた。執行前日の27日の記者会見でも「在任中に具体的な動きを起こす考えはあるか」と問われ「なかなか知恵がないですけれども、いろいろと念頭に置きつつ努力を継続している」と、かわしていた。

 その翌日の執行。「国民的議論をする前になぜ執行したのか」と記者会見で問われると、「国民的な議論を深めるに至ることができなかったことは確か」と認めた。そのうえで、「今後真正面から議論させていただき、それを受け止めて議論が展開していくことを願っている」と話した。

 死刑は、再審請求されている場合などを除き、判決確定から6カ月以内に執行するよう刑事訴訟法に定められている。千葉法相は、選挙前から確定した裁判記録を読むなどして「様々な要件や状況を検討してきた」という。今月の選挙で落選したことの影響を問われると「まったくそれはございません」と否定した。

 今後の内閣改造の時点で、政界から引退することを示唆しているが、省内には勉強会を設けることも決めた。その成果については「簡単に結論が出るとは思えないが、ご意見を聞きながら議論の内容を発信していきたい」。

 死刑廃止の持論をなぜ曲げたのか、という問いには「考え方を異にするということではなく、職責に定められていることをさせていただいた」と厳しい表情のまま語った。


 わざわざ執行に立ち会ったこと、「今後真正面から議論させていただき」と述べていることなどから、千葉はまだ死刑廃止論者であるように見える。
 にもかかわらず執行に踏み切ったその姿勢を重ねて評価したい。

 これに対し、自公両党からは落選大臣に死刑執行の資格などないといった声があがっているという。

政府・与党、死刑執行「適正な判断」=野党、落選法相を批判

 民主党政権下で初めて死刑執行されたことについて、政府や与野党からは28日、賛否両論が相次いだ。政府・与党は「千葉景子法相が法の定めるところに従って適正に判断された」(仙谷由人官房長官)と強調。これに対し、野党側は千葉氏が参院選で落選したことを問題視し、「国民にノーと言われた人が死刑執行のはんこを押した」(川崎二郎自民党国対委員長)と批判した。

 仙谷氏は記者会見で、今回の死刑執行について「政権内部でいま執行すべきだとか、すべきでないとか議論したことはない。あくまでも任された千葉氏の判断だ」と説明した。

 千葉氏が命じたことの是非に関しては「法治主義の下で自らの職務を全うした。それ以上でもそれ以下でもない」と述べた。枝野幸男民主党幹事長も「粛々と法に基づいて法執行を行ったと受け止めている」と記者団に語った。

 これに対し、川崎氏は記者会見で「レッドカードを受けた人がやるべきことではない」と批判。山口那津男公明党代表も「(千葉氏は)法相の職にふさわしいかどうかという点で民意を得られなかった。国民の理解が得られない」と指摘した上で、「菅直人首相の任命責任が改めて問われる」と記者団に語った。 

[時事通信社]


 しかし、左藤や杉浦の職務怠慢を問うこともなく放置してきた自民党(杉浦については公明党も)にそんなことを言う資格があるのか。
 国務大臣の任命権は内閣総理大臣にある。選挙は国会議員を選ぶ機会ではあっても大臣としてふさわしいかどうかを判断する場ではない。「レッドカード」「法相の職にふさわしいかどうかという点で民意を得られなかった」との非難は当たらない。

 言っておくが私は千葉法相が積極的とされる人権擁護法案にも夫婦別姓法案にも反対である。千葉のかねてからの政治的スタンスも支持しない。
 しかし、今回の死刑執行は上に述べたような理由で評価するし、落選したから大臣の資格もないといった主張は実に低次元の言いがかりにすぎないと考える。

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