木の下で話しましょう

ソトコトとは、木の下で話しましょう、というアフリカ語源の福祉用語です。

タンポポ

2022-05-25 | 社会

書類を整理していたら手書きの2枚の原稿用紙が出て来た

どこかへ投稿する予定だったようで末尾にペンネームと44歳(会社員)と書いてある

 

「GWの間は田舎へでも帰ってた?」

「いいえ、友人に会ったりナポレオン展へ行ったりしてこちらにいたよ」

「GW中は割引料金で宿泊出来たから知らせたくて電話をしたけれどつかまらなかったから」

(当時、携帯電話はなかった)

「そりゃ残念でした、夜間にでも電話をくれれば良かったのに・・・」

「夜はもうクタクタ、電話をするには遅いし寮じゅうに響いて聞こえるから電話しにくいの」

「あれから元気?」

「通勤のマイクロバスに車が突っ込んできてみんな軽い鞭打ち状態でなんだか鬱陶しいの」

「過労気味だから充分体に気をつけてよ、もういい加減にして帰っておいで」

「そういうわけにもいかないの、一年間は辞めるわけにいかないんだから

先日、父が亡くなったけど葬儀にも出れなかった」

「近いのだから休んで帰れば良かったのに」

「離婚をして仲居をしていることを誰にも告白してないから出られないの」

「そんなもの正直に言わなくても何日もいるわけでもあるまいし」

「言いそうな自分が怖いから帰れなかった」

複雑な事情がありそうで彼女には今が人生の谷間なのかもしれない

 

半年前までは会計事務所の事務員をしていてそこで知り合った

徹夜までして懸命に働いていたけれど薄給では間に合わないからと新聞広告でみつけた

住み込みの仲居に転職をした

あんなに不眠不休で働いては死んでしまうのではないかと真剣に心配をした

巡り合わせの不都合か、お人好しの悲運かは神のみぞ知るところだけれども

近頃の私には神様の意向がさっぱりわからない

タンポポの胞子だってその辺でぼんやりしているのもあれば果てしなく飛んでいくヤツもいる

 

遠く離れるほどに風当たりも強くて吹き飛ばされてしまう

それが溝に落ちようが空高く舞い上がろうがいいじゃないですか

人生て良い時ばかりではないが、もう少し何とかならないのかとしばしば想う

神様、どうか最期には帳尻が合うように運命の糸をバラまいて下さい。

 

一応、原文のまま掲載した、800文字制限なので説明不足で不鮮明な個所もある

なぜ投稿しなかったのか・・・

 

実はこの後、間もなく彼女にそっくりの女性がTV放映された

アップされた顔をみて思わず絶句したほどだ

永い逃亡の末、時効間際で逮捕された女性である

 

その未解決事件を知らなかったが彼女だったのかもと考えれば知らず知らずに検索してしまった

なにもかもが附合して事務所に早朝から夜遅くまでいたのも納得出来た

遊びに行きたいからと訊いてもどこに住んでいるかは絶対に教えてくれなかった

面倒見がよく毎日、私のためにランチを作ってくれて持参してくれたから随分と助けられた

あの頃、知らなかったエクセルさえも簡単に使いこなして私にも教えてくれるはずだった

夜間になるとよく電話をして来た

高視聴率でテーマ曲もヒットしたTV連続ドラマを放映していたがいつも観られずに終了した

 

あんな善人がなぜどうして殺人を犯し逃亡したのか

後にカラオケアプリで知り合った前科のある女性から彼女の話を聞くことが出来た

刑務所内でも人の世話が好きで受刑者に「○○ちゃん」と慕われていたようだ

あの女性が彼女であれば面会に行きたかった

しかし、残念ながら彼女は若くして獄中で病死してしまった

 

あの頃の彼女の身上を思えばかわいそうでいつでも涙があふれる

そして後で知った整形したとかの鼻筋があまりにも綺麗で度々横を向いてもらい眺めたものだ

その背後から雨上がりの虹がはっきりと現れたのも未だに覚えている

 

投稿しなかったのは想像だにしなかった彼女に纏わる哀しい人生を知ったからであろう。

 

 


特定健診

2022-05-13 | 生活

毎年、会社へ提出するために健康診断を実施している

例年のように「特定健診のお知らせ」と書かれた緑の封書が届いた

天候が気がかりだったがたまにぱらぱらと雨が落ちている

 

施設へ着くと計ったように開始時間丁度の9:30分だった

1番かと問うたら先人がいるらしく5番の番号札を渡された

そして紙に書かれた文字に返答を要求された

”生理中ですか?”

「えっ!?72歳で生理があるとすれば病気でしょう」

あまりの衝撃に思わず大声で口走ってもうたわ・・・

ふたりの受付嬢は何事もなかったかのようにすまして、わかりましたと応答した

ドア前の案内のおっさんも微動だにしなかった

マスクが幸いしてか彼らの表情はうかがえずお役所仕事のマニュアル進行を察した

しかし、なにかしら不気味であった

 

まずは採尿である

去年と異なり紙コップと小さなビーカーを渡され説明を受けた

「最初の尿は捨て紙コップからビーカーに移してください、半分ほどで結構です」

紙コップにはこぼれないように突き出た注入口がある

イチバン絞りを捨て次のしずくから受け入れろとはどうゆうこっちゃ・・

私の排出口は水道の蛇口のように器用ではない

朝からなにも食べられず空腹を満たすために水道水をコップに4杯飲用した

自宅で半分ぐらいは排出したけど残りはまだ出ないかもと案じていたらなみなみとお出ました

小指ほどのビーカーに半分と言われたがせっかくなので9分ほど注入して係に渡した

例年ならその場で結果を教えてくれたが今年は違うようである

 

指示されるがままに身長、体重、血圧、腹囲を測り聴診器でハートと甲状腺の触診を受け採血で終了した

血圧測定は誰のせいか何のせいかは知らないけれど測定不能のエラー続きで5回ばかりやり直した

肺のレントゲンもなく心電図測定もなく時間短縮で終了した

個人情報厳守というわりにその都度名前と誕生日を連呼させられた

そのせいで前後のおっさんらがふたりとも24年生まれだと知った。

 

2日後、採血ミスの内出血で左腕に青紫の大きなハートマークの入れ墨が出現した

・・しばらくは失せそうに無い・・・

当世流行りのワンポイントタトゥーには全く興味がなくその道を極めてもいない。