木の下で話しましょう

ソトコトとは、木の下で話しましょう、というアフリカ語源の福祉用語です。

ファースト

2018-12-11 | Weblog

上下順位で仕事をしなければならない場面がある。

例えば認知症利用者の場合、ゴミをゴミと認識出来ない婆様が大半である。ヘルパーである私は、まず利用者にこれはゴミかどうか、捨てても良いか?を訊ねる。ほぼ全員がそれはゴミではありません、再利用出来る資源だから捨てないでください、と応える。

はい、わかりました、と、利用者の言い分を優先してそのままにする。すると経営者やら他ヘルパーがそれをみて私が仕事をしていないと叱る。

経営者は「ご家族様がみたらヘルパーが何もしていない」と苦情を言われると怒りを露わにする。わかりました、と、ゴミを出そうとすれば認知症婆様が「まだ袋に余裕があるのでいっぱいになってから捨てて!」と声を荒げる。プラゴミやら牛乳パックを捨てようとすると本気で泣きわめく婆様もいる。これ、近隣者にもれ聞えればヘルパーの高齢者虐待だと誤解されるかも知れない。そうかそうかとなだめて捨てるのを辞めれば経営者が怒る。しょうもない、やってられないわ~、利用者ファーストにしなければへそを曲げてしまい家に閉じこもる。経営者は明日になれば忘れてしまうので捨てればよい、自信たっぷりにのたまうが短絡的に事は進まない、認知症とはいえ通常の会話が出来ているし厭なことは執念深く覚えていていつまでも名前は忘れたけど大事なものを勝手に捨てた、果ては置き場所を忘れてしまった金を誰かが盗んだと誰彼なく言いふらす、不思議と顔を覚えていて話の内容で誰かを推測できる。

そしてアル中の婆様がふたりいるのだが過飲で足が立たなくなり倒れて額を4針縫いドクターストップがかかり与えるなとのお達しが出たものの家族がなぜかしら大瓶を持参する。婆様は喜んでいるが自分の財産を狙い一刻も早く殺そうとしているとウイスキーを煽りながら私に愚痴る、なくなると自分でよたよたと歩行器を押して一駅向こうの酒問屋まで買いに行く。訪問時に居なくて探すのは日常茶飯事である。責任者に連絡をすると買って来た酒を取り上げるように指示される、家族に知れるとまずいから・・・???取り上げて隠すと遠路はるばる不自由な体調でせっかく手に入れたブツを探しながら「泥棒!!!返せ!!誰かつかまえて!!」と汗をかきながら路地の真ん中で絶叫する。熟知の近隣者はまた婆様が叫んでいる、やかましいな、と誰も出てこない。

全く。。。。

訪問時には、出来上がっていて起きられずにろれつさえ回っていない。よくぞ鍵を開けてくれたと感心することがある。

それもこれも嫌われたら一巻の終わりで開けてもらえず会話もせずに帰れ!のひとことなのである。経営者は金銭を支払う家族ファーストで家族はそのように手を焼かせる婆様をヘルパーに任せる、任せられたヘルパーはどちらかにつき日々彷徨う。

婆様は今さら他人が家に来て指図して、なんでや?何様じゃ、金まで払いどうして好きなことをさせないのか?と自問自答する。ヘルパーを気に入れば家族が悪いと慰めてくれるが経営者の言うとおりに仕事をすれば、もう来ないで!と門前払いになる。経営者はヘルパーを交代させればよいだけだが婆様の怒りは収まらなく意固地になり人間不信になり認知が進む。

 

しかし、まだこの程度の事なら誰かの忍耐でどうにかなるが、最近のこの国は、国民ファーストなどとは程遠くアベファーストを突き進んでいる。高齢の利用者は彼がTV画面に映ると「気分が悪い」と舌打ちをしながらすぐにチャンネルを替え、露出度の激減した夫人が出ると「このどぶすが、出て来るな」と電源を切ってしまう。



氷雨