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なぜ大戸屋は高級天ぷら店をニューヨークに

2015年07月30日 | おいしんぼうネタ

2015年7月14日、大戸屋ホールディングス(大戸屋)がニューヨークのマンハッタンに高級天ぷらや(天麩羅 まつ井)をオープンさせた。

日本では気軽に食べることが出来る低価格帯レストランである大戸屋。アジアでも日本とほぼ同じように定食メニューを提供し、現地の人気を博している。その大戸屋が日本食ブームに乗って、高級店の展開を始めたのだ。

なぜ大戸屋は高級天ぷら店をニューヨークに出店したのだろうか。

海外に流出する日本の名店

「天麩羅 まつ井」の料理長は「なだ万」出身の松井雅夫氏。「なだ万」といえば、日本を代表する日本料理店として有名だが、ここ最近は業績の悪化が目立つ。特に、ここデパートなどでのお惣菜である「なだ万厨房」が増えたことで、日本料理を極めようとする職人志望が少なくなったという。なぜなら「なだ万」に入ってもお惣菜部門に配属されたら、自分の望む道とは異なってしまうからだ。経営側とすれば、ブランド力を活かして、より多くの売上・利益を上げることで、本丸である「なだ万」の店舗自体を維持していこうということなのだろうが、結果としては失敗だった。2014年、なだ万はアサヒビールのグループ傘下に入ってしまった。

今の日本において、いかに名店と言えど経営は決して安泰ではないケースも多い。苦しいのは「なだ万」だけではないのだ。多くの日本料理店が、今そして数年先の経営に悩んでいる状況がある。だからこそ、それぞれ模索を続けている。そして、経営の選択肢のひとつとして海外進出に注目する日本料理店も増えている。

次々に出てきた高級寿司屋の海外展開

すでに日本を代表する名店の海外進出は続々と続いている。例えば、寿司の名店「かねさか」はシンガポールの名門ラッフルズホテルに「Shinji」という店舗を構えている。毎日、築地の魚介類をシンガポールに空輸しているほど品質にもこだわっており、高価格にも関わらず、いつも客足が途絶えない。日本を代表する寿司の名店「すし匠」もホノルルのリッツ・カールトンに店舗を構えることが決まっている。また日本屈指の寿司の名店「あら輝」もすでに日本の店舗を閉店しロンドンに移転した。「すきやばし次郎」の小野二郎さんの次のスーパースターとも言われる荒木さんのロンドン移住は「あら輝」ファンだけでなく、日本の飲食業界にとって衝撃的なニュースだった。

ニュースでは、大戸屋、CoCo壱番屋、ラーメンやうどんチェーン店など1000円前後で食べることができる飲食店の海外進出や現地での人気ぶりばかりが取り上げられるているが、実は日本を代表する高給料理店の海外進出が加速している。

なぜ高級寿司屋の海外進出が加速しているのか?

10年以上前から寿司は海外でも人気だ。ただ、海外の寿司屋に行ったり、スーパーで販売されている寿司を見たり、食べたりするとわかるのだが、日本で食べられる寿司とは似ても似つかなかったりする。その多くの店は外国人が経営し、見よう見まねで握っている外国人が板前だったりする。そもそも修行もしていないし、本物の寿司屋に行ったことのない料理人までいる。ただ、これまでは、それでも寿司は人気だったのだ。

だが、そんな時代は終わりを迎えつつある。日本への外国人観光客の飛躍的な増加によって、本物の寿司や日本食を知る外国人が増えているからだ。その人たちが本国に帰った時にも、それまで食べていた寿司ではなく、本物の寿司を食べたいというニーズが高まっている。

一方、日本の経済状況を見ると、少子高齢化やデフレによって決して安泰とは言えない状況が続いている。日本国内だけに目を向けていて、今後も続けていけるのかと感じたり、海外の方がもっと成長できるのではないかという飲食店経営者側の思いもある。

つまり、海外でのニーズの高まりと、経営者側の意向がマッチし始めたので、今までのような比較的安い日本料理店だけでなく、高級店の海外進出が加速し始めてきたのだ。そして、この傾向は、寿司だけでなく日本料理全般に広がりつつある。それが大戸屋による高級てんぷら店のニューヨーク進出なのだ。

日本料理のポテンシャル

2013年、和食が世界無形文化遺産に登録されたように、寿司だけでなく日本料理全体に注目が集まっている。私も仕事柄、外国人が来日した際に食事に行くことも少なくないのだが、彼らが好むものは寿司やラーメンだけではない。

例えば、神戸牛など脂ののった霜降りの肉は、海外で食べる機会がなかなかないので、すき焼きやステーキなどは大人気だ。天ぷらも人気であるし、とんかつも人気だ。例を挙げればキリがないほど、多くのポテンシャルを秘めている日本料理。ただ、それらの一流店が海外に進出しているかと言えば、まだまだ少ない。大戸屋の高級天ぷら店の海外進出は、より多くの高級日本料理店が海外に進出するきっかけになっていくのだろう。

(新井 庸志 マーケティングコンサルタント)



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