あ/た/ま

聴く読む観る買うの備忘録

花酔ひ / 村山由佳

2012-07-30 | 
花酔ひ
村山由佳
文藝春秋


 ブライダル会社の元同僚の誠司と麻子、葬儀屋の一人娘と従業員だった千桜と正隆。互いにどこか満たされないものを抱えたまま暮らす二組の夫婦が、ふとしたきっかけで巡り会う。麻子と正隆、誠司と千桜の出会いは永年抑えてきた欲求を目覚めさせることになり、4人は自身の業とたたかいつつも、それぞれの性愛に溺れていく。
 「ダブル・ファンタジー」で官能の世界を描くことに挑戦した著者が、更にエスカレートした性の深みに挑んだ作品。官能や性をを掘り下げようという気概は感じるものの、その試みへの比重が大きすぎて物語としては中途半端な印象。著者がこのテーマを何らかの形で咀嚼し、物語に昇華するのを待ちたい。

県庁おもてなし課 / 有川浩

2012-07-30 | 
県庁おもてなし課
有川浩
角川書店(角川グループパブリッシング)


 高知県庁に新設された「おもてなし課」。観光立県を目指して手始めに県出身の人気作家に観光特使を打診するが、「バカかあんたら」と罵倒されることしきり。それでも、頭を垂れて教えを請い、故郷の振興のために奮闘する。
 フィクションといいつつ、著者の故郷への思いに溢れた温かい物語。故郷愛に終始することなく、恋愛や家族愛といった人間関係や主人公が追いかけるプロジェクトの行方など、物語としての骨格も充実していて読み易い。ややステレオタイプな印象は否めないが、登場人物が皆温かく誠実で居心地のよい作品。

Restless: 永遠の僕たち

2012-07-29 | 映画
永遠の僕たち コレクターズ・エディション [DVD]
クリエーター情報なし
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


 交通事故で両親に先立たれ、自身も臨死体験をしたイーノック(Henry Hopper)は、学校にも行かず友人といえば彼にしか見えない死後の世界から来た日本人特攻兵ヒロシ(加瀬亮)だけだった。他人の葬儀に参列するのを趣味のようにしていたイーノックは、そこで余命3ヶ月の少女アナベル(Mia Wasikowska)と出会う。死ぬということに強い思いを持った2人と彼らを見守るヒロシ。アナベルに残された短い時間を3人はどのように過ごすのか。
 余命僅かな恋人との出会いを描きながらも、恋人の死という悲劇のみにフォーカスするのではなく、少年の成長や、残り少ない日々を慈しむように生きる少女の姿を描いた美しい作品。映像や音楽を含めて映画としての綺麗さを堪能できる。主人公の少女に見覚えがあるなぁ、と思ったらキッズ・オールライトのお姉ちゃんだった。少年の方は初めて観たが、名優デニス・ホッパーの息子らしい。

In Time: タイム

2012-07-28 | 映画
TIME/タイム [DVD]
クリエーター情報なし
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


 科学の進化により老化が克服され、時間が通貨となった未来の世界。人々の成長は25歳で止まり、25歳からの余命は通貨として流通している。富める者は永遠に生き続け、貧しいものは明日の命を稼ぐために働いている。九十地も貧富の差に応じて定められ、スラム・ゾーンや富裕ゾーンに分断されている。スラム・ゾーンに現れ自死を選んだ男に100年の余命を譲られ、殺人の罪を疑われたたウィル(Justin Timberlake)は富裕ゾーンに逃げ込み、大富豪の娘シルビア(Amanda Seyfried)と出会う。
 時間が通貨になり、貧富の差が余命の差に直結するという設定は奇抜な割に現実世界への示唆もあって面白い。しかし、スローリー展開が雑というか浅いというか、せっかくの世界観を生かせていない印象。冒頭からしばらくはもっと面白い話になりそうな予感があっただけに惜しい感じ。Amanda Seyfriedは期待通りに可愛いので、観賞用ムービーとしては損のない出来。

心にとどく英語 / マーク・ピーターセン

2012-07-27 | 
心にとどく英語 (岩波新書)
マーク・ピーターセン
岩波書店


 「日本人の英語」「続~」に続く著者の3作目。日本人の犯しがちな誤りを題材に英作文を指南する1作目、表現によるニュアンスの違いとその文化的な背景を解説した2作目に続いて、本作ではより微妙なニュアンスの違いを題材に英語表現に投影された感情の機微や、日本語のそれを英文にする難しさを説明している。英文にこめられた微妙なニュアンスを映画の場面を例にとって説明する語り口は分り易く示唆に富んでいて今回も面白い。

ヒトリシズカ / 誉田哲也

2012-07-23 | 
ヒトリシズカ (双葉文庫)
誉田哲也
双葉社


 拳銃で撃たれた男が亡くなった事件が解決に向かおうとする時、検視官が不思議なことに気づく。男を撃った弾丸は男の体内で一度止まり、その後もう一度奥に進んだというのだ。その後も時を隔てて起こる事件の線上に一人の少女の影が浮かびあがる。
 「ストロベリーナイト」「武士道シックスティーン」の誉田哲也の連作短編。読み始めは他の作品に比べて地味な印象だったが、全ての短編に絡んでいる少女の存在が意識される頃から俄然面白くなる。ステレオタイプな分り易いキャラを描くことが多い著者にしては不気味で謎の多いキャラが新鮮。最後はやや曖昧に終わってしまい、彼女の本質をもう少し描れていない感があるのが惜しい。

 

A little Bit of Heaven: 私だけのハッピー・エンディング

2012-07-22 | 映画
私だけのハッピー・エンディング [Blu-ray]
クリエーター情報なし
ポニーキャニオン


 広告代理店に勤める30歳のマーリー(Kate Hudson)はある日、自分ががんに冒され既に末期に達していることを知らされる。彼女の気遣う周囲の反応苛立ち自棄になるマーリーだが、誠実な医師のジュリアン(Gael García Bernal)に救われ、やがて彼を想っていることに気づく。
 主人公の余命が僅かというシチュエーションながら、暗くなりすぎずポジティブでいい意味で軽いタッチの作品。ジュリエットへの手紙では影の薄かったGael García Bernalもいい味を出しているし、主人公の母親を演じた Kathy Bates 、神様役の Whoopi Goldberg といった実力派を配したキャスティングも魅力的。少なくとも、OL受けを狙ったようなタイトルよりは上出来の作品。

Bellwether / Seamus Blake

2012-07-19 | 音楽
BELLWETHER
クリエーター情報なし
CRISS CROSS


 David Kikoski名義のカルテット"Limits"が気に入ったので、メンバーが似ていてSemus Blakeがリーダーの本作も聴いてみた。ベースがMatt Clohesyになっているが、Sax, P, Ds は同じ。更にギターのLage Lund が加わっている。本作でも冒頭からBill Stewartのドラミングは躍動感たっぷり。かといってアグレッシブ一本槍でもなく、メロウな感じの曲までバラエティがあるのも良い。ラストの#7ではドビュッシーまですっかりJazzに料理しているのはお見事。

Seamus Blake (ts, ss),
Lage Lund (g),
David Kikoski (p),
Matt Clohesy (b),
Bill Stewart (ds);
Criss Cross 1377

1. Dance Me Home (John Scofield)
2. A Beleza Que Vem (Seamus Blake)
3. Subterfuge (Seamus Blake)
4. The Song That Lives Inside (Seamus Blake)
5. Bellwether (Seamus Blake)
6. Minor Celebrity (Seamus Blake)
7. String Quartet in G Minor, Opus 10 (Claude Debussy)

The Cube / Tom Harrell - Dado Moroni - A. Dulbecco - R. Fioravanti - E. Zirilli - S. Bagnoli

2012-07-18 | 音楽
THE CUBE
クリエーター情報なし
ABEAT FOR JAZZ


 Tom Harrell と Dado Moroni とのデュエットだった"Humanity"のゆったりした雰囲気が気に入ったので、セクステット編成のこのアルバムも聴いてみた。Harrellの柔らかなtpとMoroniの硬質p音色は相変わらずだが、編成が大きくなっているし、曲によって誰かが抜けたりして変化をつけている分、更に表情豊かな1枚に仕上がっている。楽曲的にも陽気な曲があったり、#4などはラップ的な出だしだったりとバラエティ豊か。特に来いったのは冒頭#1や#7といった"Humanity"にも通じるゆったりめの2曲。

Tom Harrell (tp,flh),
Dado Moroni (p, el-p),
Andrea Dulbecco (vib, marimba),
Riccardo Fioravanti (b),
Enzo Zirilli (ds,per, vo),
Stefano Bagnoli (ds),
Bhai Baldeep Singh (vo),
Marco Decimo (cello, strings arr.)

1. Tom's Soul
2. Streets
3. Corale
4. Hidden Passages
5. Da Lontano
6. Sea
7. The Cube
8. Valzenrico
9. Zio Masi

時生 / 東野圭吾

2012-07-17 | 
時生 (講談社文庫)
東野圭吾
講談社


 不治の病が息子時生の命をいよいよ奪おうとする時、宮本拓実は妻に彼が20年以上前に出会った少年トキオとの物語を語り始める。彼は20年以上前に息子に会ったことがあるという。
 プロットだけ聞くと、よくあるタイムスリップもののようだが、登場する親子の絆や、トキオが語る未来や生への思いなどによって物語が奥の深いものになっていて良い。構成の巧みな東野圭吾とは言え、冒頭から物語全体の構造はすぐに分かってしまうのに、読後に感動をもたらす筆力には関心。