虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

インスタントラブ6~人を見る眼~

2017-04-25 17:05:53 | 小説


 彼は彼女の状況を母親には話しておいた。
 
 彼が彼女に魅かれたのは、自分が出会ったことのない女性だったからだ。
 彼女が今まで恋愛をしてきたどのタイプともかけ離れていた。


 暴走族、高校中退、前科者、刑務所・・・・・。
彼女もまた自分が普通の幸せをつかむことはないと思っていた。自分に言い寄ってくる男性はみんな同じタイプだった。

 その最もたる共通項は、「勉強してこなかった」ことである。彼女にとっても大学まで出ている男性との出会いは初めてだった。まして、学校の教師をしている人と恋に落ちるとは夢にも思わなかった。

 彼女は修羅場をくぐってきた人間だ。

 わりと事の成り行きを予言してあてることができた。人の恋愛にはそうだった。しかし、自分の恋の結末は・・・。自分の思考回路が破壊されていくような錯覚の恋愛だった。彼女もまた彼との出会いに今まで感じたことのない感情を抱いていた。

 「うちの息子でよかったらよろしくお願いします」

 彼の母親から出た言葉・・・。

 母親だけは彼女の本質と、息子のいい加減さと甘えをうまくコントロールすることができると先見の目があったのかもしれない。

 彼の母親もまた壮絶な人生を歩んでいた。彼の姉二人は、父の前妻の子供。つまり、他人の子供を育て上げた。それも結婚したのは、姉たちが小学生の頃。最も多感な時期・・・。そして彼を授かり、姉たちも育て上げた。

 

 彼の家族とあったあと、彼は自分の故郷を案内した。

 幸せだった、寒さがきしむ街を歩いても、二人はあたたかった。これからずっと二人でいられるという喜びが実感してくるのを感じていた。

 彼女も彼が育った街が好きになっていた。彼の遊んだ場所、通った高校・・・。彼は思い出の街を案内した。彼女も彼の歴史を知ることに喜びを感じていた。

 夜、二人は寒さのきしむ街並みのある居酒屋でお酒をのんだ。

 「緊張したよね」
 「うん、けど、よかった・・・。私、絶対、離れないからね」
 「うん、俺も好きになってよかったと思う」

 彼の母親は84歳を迎える。病院に入院している。彼女はそんな母を毎日、献身的に看病している。そして、いつも母の手を握りしめている。

 「顔ださなきゃ、許さないからね」

 仕事を理由に彼が母親のところを訪れる日の間隔があくと、彼女は凄みをきかせてにらみつける。

 優しい人である。彼女は・・・・・・。

 辛い経験をしたからこそ、彼女は人の痛みがわかるのかもしれない。
一度道を踏み外すと軌道修正するのは並大抵のことではない。

 その世界やしみついた匂いから脱却するのは難しい・・・。
けど、最後は自分の人生は自分が決めるのだ。

 彼の教え子が高校になって悪い道へ進んで、一度、相談にしたことがあった。彼女はたった一言・・・。

 「自分の人生なんだから自分で決めな」
 「けど、変わる気があるなら、私は応援するよ」

 彼女と結婚して心から、よかったと思っている彼がいる。