水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

雑念ユーモア短編集 (43)活着

2024年04月13日 00時00分00秒 | #小説

 活着・・とは、挿し木、接ぎ木、取り木をした植物が根づいて生命力を得るように、無→生へと変化する現象を指す。これは何も植物に限ったお話ではない。^^
「中崎君、このファイル、岡本官房長のところへ…」
「はいっ!」
 人事院搭載名簿により、今年からとある中央省庁へ採用された中崎は、課長の八木山に指示され、大臣官房室へと向かった。中崎が美人だということは関係ないと思うが、^^ 一種試験をトップで通過した中崎は、人事院でも高く評価され、どこの省庁でも引く手が数多(あまた)だった。ということで、でもないが、今朝も八木山に猫撫で声で柔らかく指示されたのである。氷川には、早くこの課へ活着してもらいたい…という雑念が巡ったに違いなかった。それだけ中崎が有能で、しかも美人となれば、他の中央省庁も黙ってそのままにはしておかない。氷川の隙(すき)を見計らい、中央省庁の様々な部署から中崎へと魔の手が伸びた。
「あっ! こんなところにハンカチが…。あの…落とされました?」
 見え透いた接触工作である。態(わざ)と少し前に落としておいて、何気なく訊(たず)ねる・・という手口だった。
「いえ、私のじゃ…」
 中崎は楚々と否定し、課へと引き上げた。
「チェッ…」
 不首尾に終わった別のとある中央省庁の職員は、舌打ちをしながら庁舎ビルから去った。
『ほんと、嫌だわ…。ストーカーみたい…』
 そんなことが度(たび)重なり、中崎は早々と中央省庁を退職した。医師国家試験に合格していた中崎は医師へ転職したのである。活着は、なかなか難しい・・というお話でした。^^

                   完


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