水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-86- 道理(どうり)

2018年01月21日 00時00分00秒 | #小説

 世の中で[無理が通れば道理が引っ込む]とは、よく言われる名言だ。だが、間違った無理は正して通さないようにしないと道理が消え、積もり積もれば逆転して道理が道理でなくなるから、その点は注意を要する。
 一人の男が歩道を散歩していた。すると、とある家の前に捨てられているチューインガムの噛(か)み屑(くず)に気づいた。まあ、普通の神経の持ち主なら人の家の前にポイ捨てはしないだろう…と男は常識的に思った。しかし、その思いはマナーと呼ばれる道理であり、別に捨てたところで非常識ながらも警察に捕(つか)まる訳ではない。そう気づいた男は、少しテンションを下げ、その家の前を通過した。しばらく歩くと公園があったから、男は設置されているベンチの一つに座った。すると、先ほど通った家の前の噛み屑が脳裏(のうり)に、ふと浮かんだ。男は無性に気になりだした。
「よしっ!」
 開口一番(かいこういちばん)、ベンチを勢いよく立ち上がった男は、捨てた人物になり変わり、道理を貫(つらぬ)くことにした。男はその家の前まで戻(もど)ると捨てられた噛み屑を手で拾(ひろ)い、また公園までUターンした。そして、設置された屑篭(くずかご)へ捨てた。男は[無理]という目に見えない悪霊(あくりょう)を屑篭へ捨てて退治(たいじ)したような、いい気分になり帰宅した。男のテンションは道理を通したことで逆転し、高くなっていた。

                                


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