水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-95- 食物連鎖(しょくもつれんさ)

2017年04月05日 00時00分00秒 | #小説

 強い者が弱い者を虐(しいた)げ、甘い汁(しる)を吸う。残虐(ざんぎゃく)で腹立たしい話だが、人が生きていく上で、自然とそうなっている姿である。これは、人間以外の生物にも言えることで、目に見えるか見えないくらいの微細(びさい)なプランクトンがオキアミによって食べられ、そのオキアミをより大きな魚が食べる・・という食物連鎖(しょくもつれんさ)とよく似ていて、人の世界‎にも当てはまる。
「海老根(えびね)君は、誠に申し訳ないんだが、尾鯛(おだい)君の下(もと)で頑張ってもらいたい…」
 春の人事異動が発令され、部長の鮑(あわび)は言いづらそうな顔で課長の海老根にし辞令書の用紙を渡しながら小さく言った。海老根は新しく次長に昇格した尾鯛より5年ばかり前の入社組で、本来なら尾鯛の上司が海老根になるはずだった。だが、尾鯛の実家は会社の大株主としての発言力を持ち、当然、お目出度(めでた)い鯛の尾頭付(おかしらつ)き話になったのである。残念ながら、海老根にはそこまでの目出度さは出せなかった。ただ、それだけのことなのだが、これが目に見えない人間社会の食物連鎖である。さらに申し添(そ)えれば、鮑、尾鯛、海老根が勤める会社、舟盛(ふなもり)食品は、すでに宴会(えんかい)物産によって吸収合併されることが本決まりとなっていた。

                             完


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