ふろむ播州山麓

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津波の歴史 16 「貞観津波 後編」

2011-05-17 | Weblog
前回に触れました経済産業省での原子力安全保安審議会(2009年6月24日開催)の議事録を紹介します。「耐震構造設計」と「地震構造設計」、ふたつの小委員会による「地震津波・地質地盤」についての合同審議でした。
 所属委員は合計25名。当日はかつかつ過半数の13名が出席。経産省の川原耐震安全審査室長は開会にあたって「当ワーキングの定足数は、委員25名に対しまして過半数でございますので13名となってございます。ただいまの出席委員は13名ですので定足数を満たしてございます」。12名が欠席されていますが、それらの方のお名前は不明です。

 議事録のタイトルはずいぶん長い。「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会 地震・構造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤 合同WG(第32回)議事録」と記されている。以下、一部を抜粋します。

○岡村行信委員(産業技術総合研究所活断層研究センター)「御存じだと思いますが、ここは貞観の津波というか貞観の地震というものがあって、西暦869年でしたか、少なくとも津波に関しては、塩谷崎(いわき市)沖地震とは全く比べ物にならない非常にでかいものが来ているということはもうわかっていて、その調査結果も出ていると思うんですが、それに全く触れられていないところはどうしてなのかということをお聴きしたいんです。」
○西村(東京電力)「貞観の地震について、まず地震動の観点から申しますと、まず、被害がそれほど見当たらないということが1点あると思います。あと、規模としては、今回、同時活動を考慮した場合の塩谷埼沖地震でマグニチュード7.9相当ということになるわけですけれども、地震動評価上は、こういったことで検討するということで問題ないかと考えてございます。」
○岡村委員「被害がないというのは、どういう根拠に基づいているのでしょうか。少なくともその記述が、信頼できる記述というのは日本三代実録だけだと思うんですね。それには城が壊れたという記述があるんですよね。だから、そんなに被害が少なかったという判断をする材料はないのではないかと思うんですが。」
○西村(東京電力)「済みません、ちょっと言葉が断定的過ぎたかもしれません。御案内のように、歴史地震ということもありますので、今後こういったことがどうであるのかということについては、研究的には課題としてとらえるべきだと思っていますが、耐震設計上考慮する地震と言うことで、福島地点の地震動を考える際には、塩谷埼沖地震で代表できると考えたということでございます。」
○岡村委員「どうしてそうなるのかはよくわからないんですけれども、少なくとも津波堆積物は常磐海岸にも来ているんですよね。もう既に産総研の調査でも、それから、今日は来ておられませんけれども、東北大の調査でもわかっている。ですから、震源域としては、仙台の方だけではなくて、南までかなり来ているということを想定する必要はあるだろう、そういう情報はあると思うんですよね。そのことについて全く触れられていないのは、どうも私は納得できないんです。」
○名倉安全審査官(経済産業省)「事務局の方から答えさせていただきます。/産総研の佐竹さんの知見等が出ておりますので、当然、津波に関しては、距離があったとしても影響が大きいと。もう少し北側だと思いますけれども。地震動評価上の影響につきましては、スペクトル評価式等によりまして、距離を現状の知見で想定したところでどこら辺かということで設定しなければいけないのですけれども、今ある知見で設定してどうかということで、敷地への影響については、事務局の方で確認させていただきたいと考えております。/多分、距離的には、規模も含めた上でいくと、たしか影響はこちらの方が大きかったと私は思っていますので、そこら辺はちょっと事務局の方で確認させていただきたいと思います。/あと、津波の件については、中間報告では、今提出されておりませんので評価しておりませんけれども、当然、そういった産総研の知見とか東北大学の知見がある。津波堆積物とかそういうことがありますので、津波については、貞観の地震についても踏まえた検討を当然して、本報告に出してくると考えております。/以上です。」

 さらには下記のようなやり取りも議事録には記されている。
○衣笠善博委員(東京工業大学大学院教授 地震地質学)問題を2点指摘し「3つ目ですが、このような地形・地質調査の結果を無視してまで不確かさを考慮するようなことが行われると、まともな地形・地質の専門家は、もう保安院には協力できない、幾ら頑張って意見を言ったって、最後はえいやっと不確かさの中に含めてしまうというようなことがあるようでは、もうこれ以上の協力はいたしかねるということも言いたくなるわけです。/そのようなリスクがあることを承知の上でこのような文書をお出しになるなら、それは行政庁判断ですけれども、その3つのリスクについては行政庁に負っていただきたいということだけ申し上げておきたいと思います。」

 進行役の纐纈主査(委員)は「ほかのまともな地質・地形専門の方は御意見があると思いますが、いかがでしょうか。」
 ある委員は「いいかげんな地質屋ですけれども、きちんとやりたいとは思います」。また別の委員は「私もいいかげんな地質屋ですけれども」
 そして、この「いいかげんな話し」の出た直後に、会議は終了する。

○纐纈主査「今回いただいた御意見も含めて、今後、適切に事務局で報告書に反映していただくことにしまして、修正等につきましては、事務局及び主査(纐纈)とで進めさせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。/それでは、大分時間を超過しましたが、本日の審議を終了させていただきたいと思います。」

 2009年6月24日、経済産業省別館10階の共用1028号会議室で、朝10時から12時半まで2時間半開かれた審議は、終了した。
 なお当日の出席者名を列記します。出席委員以外は発言者しか名はわかりません。
 
□<委員> 纐纈一起(主査):東京大学地震研究所教授(地震学)/安達俊夫:日本大学理工学部教授(建築学)/吾妻崇:産業技術総合研究所活断層研究センター(地形学)/阿部信太郎:電力中央研究所/岩下和義:埼玉大学工学部教授(耐震工学)/宇根寛:国土地理院(地理調査)/岡村行信:産業技術総合研究所(産総研)活断層研究センター/衣笠善博:東京工業大学大学院教授(地震地質学)/駒田広也:電力中央研究所/杉山雄一:産業技術総合研究所活断層研究センター/高島賢二:原子力安全基盤機構規格基準部/吉村孝志:東京大学大学院総合防災情報研究センター教授/吉中龍之進:埼玉大学工学部教授(地盤工学)
□<経済産業省> 川原耐震安全審査室長/名倉安全審査官/原子力発電安全審査課長/小林統括安全審査官
□<東電> 高尾/西村 

 翌7月13日、第33回ワーキンググループ会合が開かれました。出席した委員は前回同様、最低定足数の13名。ほぼ半数の12名は欠席である。
 東京電力は貞観地震についてコメントしています。「869年貞観の地震については、周辺の震度に関する情報がない」。当然です。千年以上も前の地震に、科学的な震度情報があるわけがありません。震度についてわからなくとも、津波についてはトレンチ調査で明らかであったはずですが。
 また東電は、福島沖で地震が起きたとしても、震度4~5程度であろうと結論した。福島第1「敷地周辺の震度分布に関する情報は見当たらない」と結論したのです。
 確かに千年以上も昔の情報は『日本三代実録』以外には見つからない。しかし大津波の痕跡は、仙台から福島県、さらにはその南の茨城県まで、明らかに土質調査が被災を証明しているのです。
 東電の報告書の末尾には「869年の貞観の地震については、今後も引き続き知見の収集に努め、適宜必要な検討を行っていく所存」であると。

 なお、6月の議事録はネット上で公表されています。PDF 35枚。市民国民が客観的に密室の審議を知り理解するために、議事録やさまざまの公的情報をオープン化することは、本当によいことだと思います。インターネットがわたしたちの1次情報収集を激変させます。
 アメリカではいま< G 2.0 >が提唱されているそうです。「ガバメント2.0」です 。政府がどんどん情報を開示し、わたしたち国民は、ネットで収集し判断する。さらにはそれらを加工整理し、ビジネスにもジャーナリズムや生活にも活用していく。
 すばらしい流れであると、思っています。各国が同方向に目線を向ければ、ついに地球市民が誕生します。「知らしむべからず」は、時代に逆行した、亡国への道程でしかありません。
<2011年5月17日 南浦邦仁>
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