
日本の制度は、戦後期~バブル経済時期にかけては世界でもまれな「社会主義的政策」が実現した国であろう。その代表的な、世界に誇るべき制度が国民皆保険である。しかも、実現させた政権は長期にわたり政権の座にあった自由民主党である。ただし、自民党といっても吉田茂や池田勇人など経済発展を何よりも重視した勢力によって実現したし、力のある野党や国民の力もまた与っていた。つまり、岸信介や安倍晋三といった皇国史観・帝国主義の「長州」保守勢力によって実現したわけではないということも肝要かもしれない。
さて、医療保険の制度とは法律に基づいて幾つもの保険機関が構成員から保険料を徴収し、医療行為を行った医師などに給付する。医療を受けた側は医師等から受けた医療行為に応じて一定の割合で自己負担する。(国庫負担については、保険事業者ごとにも異なるのでここでは触れない)
この自己負担金額が高度な医療によって相当高額になる場合、金額に応じて「高額療養費」が保険事業者から支払われるのだが、今回問題となっているのはこの高額療養費が支給される自己負担額を引き上げようというものだ。
私が病院やクリニックに月57,000円以上を支払うと高額療養費の対象になるのだが、今後は60,600円以上でないと対象にならないということである。
ブログやフェイスブックに上げた通り、偶然、昨年10月、胃の内視鏡手術を受けたた。このためこの月の医療費自己負担額が約60,000円ほどになり高額療養費の還付を受けた。もしこれが制度改正後だと還付は受けられないことになる。
もちろん、「高額療養費の対象ではないから胃癌を放置しよう・・・」とはならないから、支払いが増えたとて必要な医療は受けるが、基本的にどのような制度的立て付けになっているのだろうか?
根拠法を2つ上げる。大所の制度はこの2つなので・・・
健康保険法
『第百十五条 療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養(食事療養及び生活療養を除く。次項において同じ。)に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費として支給される額に相当する額を控除した額(次条第一項において「一部負担金等の額」という。)が著しく高額であるときは、その療養の給付又はその保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額療養費を支給する。
2 高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める。』
2 高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める。』
国民健康保険法
『第五十七条の二 市町村及び組合は、療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養(食事療養及び生活療養を除く。次項において同じ。)に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費若しくは特別療養費として支給される額若しくは第五十六条第二項の規定により支給される差額に相当する額を控除した額(次条第一項において「一部負担金等の額」という。)が著しく高額であるときは、世帯主又は組合員に対し、高額療養費を支給する。≪中略≫
2 高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める。』
ご覧のとおり基本構造は同じ。肝心なのはアンダーライン部分だ。つまり、・・・・・制度は第1項で創設したが具体的な事柄は全部政令で決め国会は関与できない・・・・だけではない、くだくだしく政令の条文や施行規則の条文は上げないが、結局は厚生労働省が勝手に決める・・・
つまり実際の運用については・・・
「各都道府県知事あて厚生省保険局通知」で『貴管下保険者に対し特段の御指導をたまわりたい。』と書き、支給要件、支給額、支給方法等・・・申請書の書き方まで・・・を通知している。
まあ、申請書の書き方まで国会に関与させるべきとは思わないが、今回の議論は高額療養費の別表を作らせ所得税法と同様に法律の一部であったなら、国会は「103万円の壁」同様の議論もできたはずだが・・・・・・政令に委任してしまった以上「像は作って眼鼻は入れず」の状態でひたすら政府にお願いするばかりである。
つまり、社会保険、医療費の最大の問題点は、具体的な制度運用や金額等について、ほぼ、厚生労働省の裁量が大きすぎることから発している、と思っている。役人は極めて弱い存在であり、財力(業界力)も政治力もなく強い抵抗のできない国民大衆に押し付ける以外、自己保身が出来ないのだから。