セピア色の写真

 

　　　　　　　

 

　「これね　もう一枚しかなくなったのよ」

　母が　大事そうに札入れから取り出したのは　もうセピア色した古い写真。

　兄が一歳の誕生日のころだから　もう50年以上前のものですね。

　「身に着けて持っているの？」

　「そう　まぎれもないお母さんの息子だから．．．」

　「そうやって　毎日眺めているの？」

　「でもね　古くなったから　傷や痛みで見えにくいのよ」

　「どれどれ　」

　写真を写して再度プリントアウトしてみましたが　たいした修正にはならず

　傷もそのままですが　なんとか　見られるようにはなりました。

　子供はどれだけ大きくなって　親よりも社会人として確立しても　いつまでたっても

　子供のまま．．．

　親は　特に母親は赤ちゃんの頃からの　子供によってもたらされた幸福感が

　いつまでも心に残るようです。

　天使のような瞳で　ひたすら母親の姿を追ういじらしさが　忘れられないのですね。

　成人して結婚し　別の家庭を持つと　一定の距離感がうまれ　子供とはいえ

　もう赤ちゃんの時のようには　まるまる愛でくるめなくなる淋しさもあったのでしょう。

　母よりも先に逝ってしまった兄が　今　赤ちゃんの頃のまま　母の元に

　戻ってきたような感じがしているのでしょうね。

　撮りなおしてカバーをかけてあげると　嬉しそうにまた札入れにしまう姿が

　田舎から帰ってくる電車の中で　蘇ってきては外の景色がにじむことです。