「風が気持ちいい」
と、大喜びの声が上がる。
朝夕の冷え込みはするものの、日中の陽射しは穏やかで、
タンデムするのには丁度いい日和だ。
前方にアメリカンバイクにタンデムしているのを発見。
おや、タンデムシートのライダーの動きがオカシイぞ?
カーブでも、直立状態だ。
バイクがハーレーだから、乗り慣れていないのかな?
ん、バイクから小さな車輪が見えるぞ。
あっ、畳んである車イスだ。
それに、タンデムシートにバックレストが装着してあるぞ。
信号待ちで、横に並んだ。
乗っているのは、50歳半ばの夫婦のようだ。
男性ライダーが、
「お子さんは、いくつ?」
と、話しかけてきた。
我が子が答える。
こちらも、質問する。
「お体、調子が悪いのですか?」
「腰から下が動かない」
と、答えてくれた。
「それでも、乗りたがってね」
と、シートベルトを施した同乗者を指差す。
同乗している女性ライダーの顔を見る。
にこやかに笑っている。
表情をみると、脳梗塞、脳溢血などの病気だろうと推測する。
四輪車に乗り降りさせるのはタイヘンだろう。
それを、バイクでするのは更にタイヘンであろう。
健常者を乗せてのライディングでも神経を使うのに、まして体の不自由な人を乗せてのライディングは、もっとタイヘンであろう。
世間では危険な乗り物と言われているだけに、周囲からの重圧も推し量れる。
それでも、バイクに乗りたいのだ。
バイクの気持ち良さを満喫したいのだ。
熱い風、冷たい風が、ライダーを刺激する。
穏やかな風、柔らかな風が、ライダーを包んでくれる。
バイクのシートには、強さと優しさが同居している。
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