僕の細道

【となりの山劇】第40話

<ある事件 の巻、前編>

 ワシはお盆休みに何処にも旅行しない代わりに、4日間せっせと家族を車に乗せ、岐阜の近場を出掛けまくっていた。これはそんな時に起きた、ある事件である。

 昨日の夕方、出掛けまくった休みの締めくくりに温泉でも入ろうと、岐阜市街から1時間程北に入った美山町にある、「瀬見峡温泉」へ出掛けた。ここは知る人ぞ知る温泉で、露天風呂が有名である。
 その温泉の帰り道、温泉から少し走った所で、前方に何やら『警察らしき車両』が複数台停まっていた。しかも『警察らしき服装を着た人達』がワシの車を停めようとしているので仕方なく停めた。どうやら何かの検問のようだ。ワシが窓を開けていると『警官らしき男』が近づいてきた。

 「免許証を見せて」
 「何事ですか?」
 「飲酒運転の検問です」

 何の事はない、この検問の手前にはバーベキューが出来る大きなキャンプ場があり、そこでビールを飲んでいるであろう帰りの人を待ち構えていたのであった。ところがこっちはバーベキューをしに来たのでは無いし、温泉に入ってから酒類を飲む習慣もない。だから怖いものは何も無い。

 うっとうしいなとは思いつつも車の中から免許証を『見せる』と、その『警官らしき男』は「見えない」と言う。
 ワシは最初、この男は何を言ってるんだろうと思いつつ、よく見えるようにその警官らしき男の顔の前、30センチ位の所迄免許証を差し出して『見せた』が、それでも「見えない」と言う。どうやら、『見せる』のではなく、『手渡す』事を要求しているらしい。せっかくの気持ちいい風呂上がりに水を差され、しかも訳わからん『警官らしき男』の嫌がらせのような行為にカチンときたワシは、それでもなおあくまでも免許証を『渡さない』でいた。

 「車をこっちに停めろ!」
 「車から降りて出てこい!」
 「そんな事してたらお前が損をするだけだぞ」

 その警察官らしき人物がいきなり脅すような口調で怒鳴るのである。しかしながら、繰り返すが、こちらには弱味は何も無い。そう言うなら降りてやろうじゃないのと、車から降りて胸と胸が触れそうになるくらいの正面に立ち、顔と顔が当りそうな位まで顔を近づけてやった。

 「あんたは誰だ?」
 「見れば解るだろ。」
 「そこまで言うなら、あんたの身分証明書を見せてみなよ。」
 「警察手帳はみせなくてもいい、見せなければいけない決まりも無い。」
 「その言葉、覚えとくぞ。」

 「この検問は、飲酒運転の検問だってな。オレは飲酒しているか?」
 「飲酒していないようだ。」
 「だったらこれ以上ここにいる理由は無いな。」
 「とにかく免許証を見せろ。」

 結局、名前でさえも聞き出せなかった。それどころかあれだけ近づいていながら、こちらに触れようともしない。こちらも下手に触って因縁をつけられたくもないので意地でも触らない。それにしても、全くとりつくシマもないのである。しばらくしょーもないやりとりを繰り返していた。

 「見せるだけでは『提示』にならないのだぞ。」

 この言葉もよく覚えておくとして、そろそろ車のカミさんがイライラしだしたし、子供も泣きだした。ワシはバカな『警察官らしき男』には逆らうが、子供にはあっさりと負けるのである。
 仕方ない。もうこれ以上長引かせたくないと思い、不本意ながら免許証を渡した。すると、その『警察官らしき男』(くどいようだが、身分証明書を見ない限り警官とは認めない)は免許証を軽く眺めてすぐに返してよこした。ところが、話はそこで終わらない。

 「目が悪いんじゃあないのか。」
 「そんな事、関係ないだろ。」

 またまた余計な事を言って別の話題に突っ込んでしまった。再びガタガタと言い争いをしてから、もう行こうと思い車に戻り、改めてこの辺りの道を聞こうと、立ち去ろうとする『警察官らしき男』を呼び止めた。

 「○○までの道を知りたいのだが。」
 「知らん。来た道を戻ればいいだろ。」

 ホント、この『警察官らしき男』は最後まで口のききかたを知らない。

後編につづく

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