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萩桐紀

萩原氏、桐生氏、両氏を中心とした甘島(ましま)という国の歴史絵巻。

其名不語~その名も語らず その四

2008年09月11日 | 『萩桐紀』本編
 桐生藤重(きりおいのふじしげ)が語る星歌会(せいかのえ)の様子に、一同は少々驚き、会話は途絶えた。口火を切ったのは理能(まさとう)だった。 「それでは、いつ暴動が起きてもおかしくないですね」 洋泉(ようぜい)は少し考えて「治安上まずいだろ。もう既に乱闘騒ぎで怪我人まで出てるんだ。その歌会が開かれる時は、警戒態勢をとらなくちゃならない。な、頭の弁」 「えぇ、そうですね。そうは言っても我々蔵人(くろ . . . 本文を読む

其名不語~その名も語らず その三

2008年09月03日 | 『萩桐紀』本編
 雨は降り続く。昼、洋泉と理能は、内裏の西門の外にある右衛門陣屋へ向かった。右衛門陣屋の階で、すでに桐生音琢(きりおいのおとたか)が二人を待っていた。 「蔵人の頭(くろうどのとう)お二人を出迎えるとは、思いもよりませんでしたよ」  音琢(おとたか)は、がっしりと骨太な体格の男で、洋泉よりも少し若い。愛想のある顔をほころばせて出迎えてくれたので、親しく話したことのない理能(まさとう)も、心がほぐれ . . . 本文を読む

其名不語~その名も語らず その二

2008年09月03日 | 『萩桐紀』本編
 相変わらず薄暗く、雨が続いているのに埃っぽい書庫である。理能(まさとう)は小さな窓を引き、外の光を入れた。盛先(もりさき)を荒々しく、書庫に引っ張り込んで来た理能だったが、振り向いて盛先に微笑みかけた。  「盛先殿、十年ほど前に陰陽寮にいらしたんですね?」 「え。まぁ、はい」 「では、当時、私より一つ年上で、アベのカキマロとかサキマロとか申す者が出入りしてませんでしたか?」  盛先の顔色が変わ . . . 本文を読む

其名不語~その名も語らず その一

2008年08月31日 | 『萩桐紀』本編
 校書殿の前に着いたころには、本格的な雨になっていた。理能(まさとう)は濡れたまま、蔵人所に入っていった。すでに、雅道(まさみち)、只寿(ただいき)、千里(ちさと)、延安(のぶやす)がいる。理能のその姿を見て、いち早く千里が寄ってきた。  「頭の弁殿、どうされましたか」  「こんな姿で失礼。着替えに戻る余裕がなかったものだから」と理能は、四人に見られながら、文や巻物の類が山と積まれている自分の文机 . . . 本文を読む

花菖蒲に雨 その三

2008年08月13日 | 『萩桐紀』本編
 牛車が急に停まった。徒歩で牛車の脇を歩いている伴の者が、何やら騒いでる。 能才(よしかど)は物見窓の半蔀戸を大きく押し上げて外を見た。理能(まさとう)も能才(よしかど)の後ろから見ようと腰を浮かせた。  「馬、とまれ!危ないじゃないか!」  「あれ!若様」  「とまれ、とまれ!」  「うあぁ~」  「理才(まさかど)様!」  「とめて、リイ!!」  声が聞こえてくるが様子がわからない。理能は、牛 . . . 本文を読む

花菖蒲に雨 その二

2008年08月12日 | 『萩桐紀』本編
 「なぜ理子(おさむこ)は男装しているんですか! 髪、切ってしまったんですか? あの格好でどこへ行ったのですか?」  理能(まさとう)は珍しく、語気を強めて兄の能才(よしかど)に詰め寄る。能才は、身体をひねって後ろの物見窓の半蔀戸を少しだけ押し上げて外を見ている。聞いているのか聞いていないのか、答えたくないのか、しばらくそうした状態のまま能才は何も言わなかった。  「ん? なぜ男装するのかって?  . . . 本文を読む

花菖蒲に雨 その一

2008年08月12日 | 『萩桐紀』本編
 理能(まさとう)は、久々に自分の邸で一晩ゆっくりと眠り、朝を迎えた。寝台から出て廂の戸を開けると、朝というのにぬるく湿った外気が入ってきた。長雨の季節に入ったのだろうか。朝日も鈍く雲に覆われていた。 手入れの行き届いた庭には、花菖蒲がまもなく咲こうとしており、薄紫や藍や白のたっぷりとしたつぼみが上へ上へと伸びている。  ――あのように尖り、上に伸びるつぼみも、いつのまにか気がつけばほころんで花 . . . 本文を読む

宿直の夜話 その四

2008年07月21日 | 『萩桐紀』本編
 真夜中過ぎまで左・右・内大臣と蔵人の頭二人は飲みながら話しをしていたが、何がどうなるというような実のある話しはなく、理能と洋泉はさんざん三大臣の若かりし日の話など聞かされた。  宿直所に戻る二人は、酒に酔ったのか、三大臣の話しに中てられたのか、足取りはしっかりしていても頭がどうにもぼうっとしたまま、長い渡殿や孫廂を心許なく歩いていく。  「あのお三方があれほど仲が良いとは。驚きだな、理能殿」   . . . 本文を読む

宿直の夜話 その三

2008年07月18日 | 『萩桐紀』本編
 「ところで洋泉(ようぜい)」と、内大臣が言う。  「今日、弾正台に呼び出されたそうではないか。左大臣殿から聞いたぞ」と内大臣が言うので、洋泉はぴくりとした。この話しは避けたかったが、避けられるはずもなく、待ってましたとばかりの左大臣が「どうであった、中将殿」と追って尋ねる。  「はぁ、太刀を抜いたか否かを問われただけでした。もちろんそのようなことはしておりませんから、そう申しましたら、まぁそれで . . . 本文を読む

宿直の夜話 その二

2008年06月29日 | 『萩桐紀』本編
 左大臣のような高位の役職に就いている者も内裏の一番奥の一角、桐壷辺りで宿直することがある。理能らがいる宿直所からかなり歩いて行くのだが、その道道、左大臣公展は二人に小さい声で話しかけた。  「今日の宿直のメンバーは、どうしようもないのばかりですね。ふぉ、ふぉ、ふぉ。」と笑う。二人の返事は待たずに話しつづけた。「千世は言うに及ばず、桐生の二人も、藤原の大夫も、ろくに仕事などできずに官職ばかりは人並 . . . 本文を読む