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ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【何とかならない時代の幸福論】他人と違うことをする子への評価

2021-02-19 00:14:49 | Weblog

『何とかならない時代の幸福論』(朝日新聞出版)は、
NHK Eテレの番組 「SWITCHインタビュー達人達」(2020年3月21日放送)で放送された ブレイディみかこさんと鴻上尚史さんの対談を、未放送分も含めて加筆してまとめた1冊。

放送された時も見ていたけれど、お二人の考えや指摘を活字で改めて読んだ。

日本とイギリス それぞれの国で今、何が問題になっているのか。
問題になっている事柄について、どう対応していったらいいのか。
特に、今後の社会の担い手となる子ども教育に必要なものは何か? について語られている。

興味深かったのは、「人と違うことをする」ことに対する評価、価値観だった。

保育園で、子どもが他の子と違うことをしようとした時、それを妨げてはいけないという価値観があるイギリス。
他の子と違うことをしようとしたら止められ、同じことをするように促されたり、強制されたりする日本。

日本の学校の中には、髪の毛の色、ストッキングの色まで「校則」で縛る。 生徒・児童が納得のいく理由などない「校則」で、自分たちの身なりや行動を規制されることに慣らされる。 会社という組織に入っても、周囲の人と違うことをするのは難しいかもしれない。

ただ、新しい事業を起こしたり、他の企業と差別化したりするには、誰かと同じことをしていてもだめなのだから、 目的や理念に沿っていることを前提に、人と違うことをすることは許容されるべきだろうし、 挑戦することを促されるべきだと思う。
それを妨げるような空気のある企業は、長い目でみた時、成長を見込めないのかもしれない。

今、自分がいる環境について「窮屈だわ」と思う人は、何らかの自覚があるので、救いがあると思う。
他人や組織を変えるのは難しいので、自分がいる環境について、どう捉えるか。
自分がどう対応していくのか。
自分自身が居心地よい環境をどうつくっていくか。なのだろう。

学生時代に、変な校則を「そういうものだから」と受け入れ、疑問も持たずに過ごして、 大人になった人は、会社に入っても組織のルールに従って、案外、出世できたりするのだろうか。
右肩上がりで経済成長していた時代にはそうだったかもしれないけれど、 今後はそうはいかないかもしれない。

この本のタイトルには「何とかならない時代」と付けられている。

その時代を生き抜くために必要な視点のいくつかを、お二人の言葉から学んだ気がする。

何とかならない時代の幸福論

【AX】恐妻って、どんな妻?

2021-02-13 22:20:12 | Weblog


主人公は、恐妻を持つ殺し屋・兜。
文具メーカーのサラリーマンとして、妻と一人息子を養っている。
殺し屋という仕事を辞めたいと本気で思うようになった時、 物語は大きく動き出す。

私は女性なので、「恐妻」って、どういう妻のことを指すのだろう?と思いながら 読み進めた。
兜の妻は、私から見ると、とても「恐妻」には思えない。
こういう夫婦って、わりと多いんじゃないのかな。
夫婦関係で、こういうやりとりってあるあるで、 「恐妻」と思っているのは、主人公だけなんじゃないのだろうか。
裏の業界では知られている「殺し屋」が、妻を恐れているって個性が、 小説を面白くする要素だと分かってはいるのですが、 「恐妻」って、どんな人のことを言うのかは、ずっと気になり続けた。

夫からみて妻が恐いと感じられると、「恐妻」といわれてしまうけれど、 妻からみて夫が恐いと感じられると、「恐夫」とはいわないよね。
「亭主関白」ということになるのか。
暴力ふるうような夫は「DV夫」とか、別の言い方がありそうだし。

女性、妻は、優しくあるのが「普通」「理想」で、恐れられるのは普通じゃないから 「恐妻」などとマイナスの烙印を押されるのだろうか。

「恐妻」というワードが最後まで気にかかってしまった。

物語には、殺し屋とその友達の友情、父が息子に寄せる思いが描かれている。
伏線もクライマックスでちゃんと効いていて、楽しめる娯楽作品。

AX アックス (角川文庫)

【アーモンド】他人の感情を理解できない少年が愛を知る物語

2021-02-08 21:06:03 | Weblog



他人の感情を理解できない人は、「モンスター」だろうか?
いや、他人の感情を100%理解できる人など、そもそもいるのだろうか。
「お互いに、ある程度、理解しあえているよね」という前提で人間関係を築いているのではないか。
そんなことを考えさせられた。

「アーモンド」(ソン・ウォンピョン著、矢島暁子・訳)は、脳の偏桃体が生まれつき小さく、人の感情が理解できない主人公ユンジェの物語。
偏桃体は、大きさから「アーモンド」と呼ばれているそうで、小説のタイトルもこれを採っている。

人の感情が分からないという「障害」を抱えた子どもは、どう成長するのか。
成長する可能性があるのか。 著者は、そんな問いを立てて、執筆したのかもしれない。
物語は、主人公の語りで進んでいくが、行間に母親が息子に注ぐような視線の温かさを感じた。 人の温もり、優しさを感じて、ほっこりする一冊。 


【人間の土地へ】日本で暮らす私は、何を大切に生きるのか

2021-01-31 15:33:16 | Weblog


「とにかく、読んでみてほしい」というしかない1冊。

テレビや新聞などでは、なかなか分からない。知ることができない、シリアという国。
そこで暮らしている人々の暮らしや習慣について、著者が出会った人々や出来事を通して 描かれている。
読み進めるうちに、遠い国のことだという先入観は消えていき、 生きていくうえで、必要なものは何なのか? という問いが浮かんできた。

シリアと日本との間には、様々な違いがある。
日本は、経済的に豊かであるとされ、空爆で生命が脅かされることはない、安全だ。
シリアの情勢は悪化し、一般の市民が安全で暮らせる状況ではなくなった。
しかし、情勢が悪くなる前のシリアの人々の生活の営み、家族の関係に「豊かさ」を感じるところもあった。

シリアの人々は、家族を大切にする
助け合う
男性と女性の役割の違いがある
土地に根差した暮らし、経済がある 日本とは異なる部分も多いけれど、日本で暮らす人々、家族と共通する部分もある気がしてくる。

著者は、日本人女性で初めて世界2位の高峰K2に登頂した小松由佳さん。
小松さんはK2登頂後、山の麓で生活を営む人々に興味を持つ。
シリアで出会った人たちと交わり、日本とシリアを行き来する。
シリアの知人、友人を通して、情勢が急速に悪化していく過程を見てきた。

私たちが「内戦」と呼ぶものを、別の人は「革命」と呼ぶ。
立場が変われば、捉え方が変わる。
立場も、本人が主体的に選んだものとは限らない。
大切な家族を守るため、生活を維持するため、目の前にあった方法を選択した結果かもしれない。
正義とは、善悪とは、何か。
日本で暮らす私自身は、何を大切にして、生きるのか? 問い直した。

【エンド・オブ・ライフ】命には必ず終わりがある。積極的に考えたいテーマではないが、読後は晴れやか。

2021-01-12 19:59:11 | Weblog








「命には必ず終わりがある」ということは、分かっているけれど、
自分自身の「死」には、向き合いたくない。
身近な人、大切な人の「死」についても、積極的に考えたいものではない。

ただ、向き合わざるを得ない時は必ず来るし、
考えたくなくても、考えなくてはならない時が必ず来る。

そう思い、佐々涼子さんのノンフィクション「エンド・オブ・ライフ」を購入した。
いつでも読み始められるように机の上に置いていたのだが、「重そうだなぁ」「気が沈んでしまうかも」という気持ちがあり、表紙をめくるまでに少し時間がかかった。

新しい年を迎え、「えいっ!」と気合いを入れて読み始めたら、
一気に、読み終えてしまった。
確かに「重い」エピソードも綴られている。

しかし、あぁ、こういう命の閉じ方もあるのだと、教えてもらえた。
必ずしも「辛い」「重い」ばかりではないのだということを知ることができ、
救われる。

自分自身が希望するような命の閉じ方ができるのかどうかは分からない。
考えていても、いざ、その時が近づいてきたら、心が揺れて乱れてしまうかもしれない。

でも、命には必ず終わりがあるということに向き合わないまま、
ただ恐れている状態より、本書を通していくつかのケースを知ることができたのは
良かったと思う。

重いテーマだと敬遠する気持ちのハードルを乗り越えて、ぜひ、読んでほしい1冊。

エンド・オブ・ライフ (集英社インターナショナル)

【須賀敦子の旅路】今なら分かるかもしれない。あの作品を読み直してみたくなる一冊

2020-10-22 23:56:05 | Weblog

 

 

あの頃は、よく分からなかった。
その理由が、今は、分かる。

10代や20代では、分からない。
社会に出て、他人との間で揉まれて、自分にできる役割や仕事について考えたり、葛藤したり、挫折したりする経験をしたうえで、初めて味わえるものがあるのだと思う。

 作家・須賀敦子の作品「ミラノ 霧の風景」を初めて読んだのは、

大学生の頃だった。
正直なところ、どんな作品だったのか、

どんなことを感じたのか、よく覚えていない。 

当時の私では、須賀が「ミラノ 霧の風景」に書いたものを受けとめたり、くみ取ったりするのは難しかったに違いない。

そのことが、大竹昭子さんの著書「須賀敦子の旅路」を読んで、はっきりと分かった。

 「須賀敦子の旅路」は、著者が須賀敦子の作品の舞台となったイタリア・ミラノ、ヴェネツィア、ローマなどを訪れ、歴史や風景に触れ、須賀に縁のあった人からの話を交えながら、作品を読み解いていく一冊だ。



イタリアから日本に帰国してから作家となるまでの「空白の20年」について、 大竹さんが探っている『東京』の章は、特に興味深い。 

須賀敦子が、なぜ、作家になったのか。 
何が、誰が、きっかけとなったのか。 
執筆の題材を、どのように描こうと考えていたか。 
作家としての姿勢、在り方。 
これらに関する大竹さんの説明を読んで、 
改めて、須賀敦子の作品を読み直して確認してみたくなった。



【暗やみの中で一人枕をぬらす夜は】秋の夜長にお勧めの1冊

2020-10-01 23:00:37 | Weblog



大人はみんな自分のものさしを持っているけれど
だれでもそれを唯一と思っている

だから重さを巻尺ではかったり
長さを分度器ではかったりしてしまう

だから大人の話はいつもチンプンカンプン
わかりあったつもりで何もわかっていない

子供はみんなそれをしっているけれど
おりこうなのでなんにもいわない

ブッシュ孝子の詩「ものさし」




秋の夜長にお勧めしたい1冊、
ブッシュ孝子さんの詩集「暗やみの中で一人枕をぬらす夜は」
この本に収録されている「ものさし」という詩を読んで、思い出したことがある。


子どもに対して、「自立してほしい」「巣立ってほしい」と思いながら、
一方で、「いつまでも傍にいてほしい」「頼ってほしい」と思う。

母がそんな話をした。

「自立してほしいのか?、依存してほしいのか? 一体、どっちなの?」

20代だった私は、「それって、矛盾しているんじゃない」と指摘した。

「親の気持ちは、矛盾するものなのよ」
というのが、母の答えだった。

その時まで、私は矛盾している物事があると、
それを整理して矛盾がないようにするのが良いことだと思っていた。
しかし、母の答えを聞いて、時と場合によっては、矛盾したままで良いケースがあるのだと気が付いた。

ブッシュ孝子の詩は、
生きることについて、考えさせられる。

失うという事を
知らない人がいる
得るという事を
知らない人がいる
何だか最近は
そんな可哀そうな人ばかり



秋の夜長に、ページをめくりながら、
ちょっと立ち止まる。



暗やみの中で一人枕をぬらす夜は―ブッシュ孝子全詩集


【13歳からのアート思考】美術館で作品の説明書きばかり読んでしまうあなたへ

2020-09-21 23:02:38 | Weblog

「13歳からのアート思考」は、アート(芸術)とどう向き合えばいいのか?基本的な姿勢を示してくれる一冊。

「こういう見方が正しい」 「こういう捉え方がよい」ということではなく、

アートを見る時に、既存の情報や知識にとらわれがちなことを指摘し、 そこから自由になるには、こんな問いを立ててみたら?と提案してくれる。

既存の情報や知識がいったん頭に入っていると、そこから「自由になろう」と思っても、

どうしたらいいのか分からなかったり、縛られていることに気づかないまま、モノを見てしまっていることが多いと思う。

「13歳からの」というタイトルだが、大人にも十分に役に立つ。

子どもの頃に、アートについて、こういうふうに見方を教えてくれる人と出会えていたら、

大人になった時に違う感覚を身に着いてるのかもしれないと思った。



「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

【二週間の休暇】大人の夏休みとは、こういうものかもしれない

2020-09-09 00:14:44 | Weblog


もしかしたら、「大人の夏休み」とは、こういうものなのかもしれない。
フジモトマサルさんの「二週間の休暇(新装版)」を読んで、そう思った。

大人になると、なかなか休めない。
会社員として働いて、
休日になると、その時間を有効に活用しようとする。
家を掃除したり、料理したり、趣味をしたり、
習い事をしたり、資格の勉強をしてみたり、、、。
子どもがいれば育児があり、
高齢の親がいれば介護があったりする。
稼働している日が多い。

そんな大人にとって、本当に休むのは、どういうことなのか?

「二週間の休暇」は、
記憶をなくした主人公が、2週間、それまでとは異なる世界で過ごす物語だ。
なぜ、そこで暮らしているのか不明のアパートで、手料理をつくったり、
見知らぬ街の住人、鳥たちのインタビューを起こして、まとめたり、
それまでと何かが異なるけれど、何かが変わらない世界。
そこで過ごした二週間は、主人公に何をもたらすのか。

大人の夏休みは、
それまでの自分をいったん忘れて、
自分は一体、どんな人間なのか
どんな生活をしたいのか
どんな仕事をしたいのか
どんな人と出会いたいのか
それらを確かめるための時間を過ごすことではないだろうか。

フジモトマサルさんの創った世界では、
登場人物たちが発する言葉は多くない。
物語を展開するために使われる言葉もほとんどない。
描かれた人や動物の動き、
建物や景色で、ゆるやかに物語が進んでいく。
そして、そのなかに、文字にしない言葉がたくさん詰まっている。

二週間の休暇〈新装版〉

【生きる はたらく つくる】すべてはつながっている

2020-08-30 21:59:22 | Weblog


皆川明さんのブランド「ミナ・ペルホネン」を知らなくても、
ファッションやデザインに興味がなくても、この本から刺激を受けることがあると思う。

「生きる はたらく つくる」

この本は、生きること、働くこと、作ること、
これらの根本にある考え方、理念について書かれている本だからだ。

作ることは、デザインや洋服を作るということだけでない。
これまでになかった新しいものを作ることだけでもない。
毎日を食事を作ることだったり、
SNSで発信をすることも、情報を作ることかもしれない。

働くことも、お金になる仕事だけでなく、
庭の草取りをしたり、
友達の引っ越しを手伝うことも、働くことかもしれない。

作ること
働くこと
それも含めて、生きることなのだと思う。

皆川さんは、自らのブランドについて「100年つづくブランド」を目標に掲げている。
自分一人で達成できないことを踏まえて、「つづく」を視野に入れている。

何を大事にしていくか。
ブランドにおいても、生きることにおいても、同じなのだと思う。

進路や就職で悩んでいる人には、ぜひ、読んでほしい。

すでに社会に出ている人には、

自分の働き方や生き方を見直したり、考え直したりする際の参考になる。

社会人として十分に経験を積んでいる人は、
今、目の前にある物事にどう向き合っていくかについて、
改めて見直すことになるだろう。

定年や退職で、働くことを終わりにする必要はない。
自分の手を動かすことが、つくることだとしたら、
できることは、いろいろある。

希望が膨らむ。元気が沸いてくる1冊。

生きる はたらく つくる