中年オヤジNY留学!

NYでの就職、永住権取得いずれも不成功、しかし、しかし意味ある自分探しに。

平成くたびれサラリーマン上海へ行く (その11)無秩序からの解放

2018-09-13 13:18:02 | 小説

(ここまで) その10から投稿に間がありました、すみません。
原稿を読み直し、書きたいことは沢山有るものの、過ぎると力み過ぎで有ったりと修正。
かと言って、自分からの心の叫びを記せずして、読んでいただく方に申し訳ないしと時間がかかりました。



その 11)
( 無秩序からの解放へ 

それからというもの、次郎の試行錯誤での訴状の作成が始まった。
新たに、六法全書を買い、訴状となる粗書きは、黄色や赤のマーカーや、重要な所を示すインデックスで、さながら大學の卒業論文作成にも似たものとなった。

そんな中、劉さんが次郎の家から姿を消してから初めて次郎に電話をかけてよこした。
意外だが、次郎にすればまた当然でもあった。
直感で次郎は、彼女の日本での逃避行は思うようにいっていないと想像。
大卒の日本人すら“就職氷河期”と呼ばれる2000年前後、まして彼女は日本語を全くしゃべれずサバイバルすることは困難だろう。
この世の何処に楽に暮らせる楽園がある?

(彼女は戻りたいと・・・)本人は上海からの国際電話だという。
彼女は、家を急に出たことに申し訳なかったと詫びたあと、実は彼女の例の副業でもある服が中国で任せてきた友人とトラブルが発生して、急きょ中国へ帰らなければならなかったという。
そして、今は一応解決したので、次郎さえ良かったら日本に帰ろうと思っているという。
最後に、次郎に今でも自分のことを好きか(戻ってきてほしいか)?と締めっくった。

全てが、次郎には遅く、心の整理は終わりかかっている。
次郎が一人で悩んでいる時は、彼女は無しのツブテ、次郎には今更という感がする。

それどころか何か恐ろしい事を企んでいる人は、もう必要ない、次郎の家に帰る必要もなかった。
今となっては、彼女が突然家を飛び出してくれ、彼女の目的をはっきり分るように次郎に示してくれて、むしろ良かったと受けとめている
家に彼女が居て、次郎の留守にコソコソやられた方が地獄かもしれない。
次郎は、彼女に帰ってくる必要はないし、もう電話をしないよう伝え電話を切った。

国際電話と彼女は言ったが、それは“ウソ”で、彼女が日本の何処かにいることは間違いなかった。
命からがら、大金を中国現地のマフィアに支払い(当時、偽装結婚の相場は日本円で200万円)日本に密航してくる人がたくさんいる。
劉さんにしても、やっと手に入れたビザで、わずか数日で日本を離れるわけはないと。
そして、今になって電話して来たのは、彼女は当初に自分が思った通りに稼げず、計画の愚かさを知り、やはり次郎のもとで雨風をしのいだ方が得策と判断したのだろう。
しかし、次郎はもう彼女にはゴメンである。
それにしても、今回の件に関し、次郎のツケだけが重く残ってしまった。




(未確認情報でも翻弄しあう中国人達)
彼女が服の副業に手を出し、失敗したので金をくれ、ダメなら貸して欲しい、その後そのトラブルで上海に戻り、そして解決したので戻りたい。
仮にもファッションに精通し売買を生業と志すなら、時代遅れの皺だらけのコートを誰がこの冬の準備に次郎の部屋に持ち込むか?
騙すにしても、何と幼稚な筋書き

思えば中国人は“ガセ”も含め、不確定情報でも“金づるにしようと”いとも簡単に飛びつく。 かつて次郎の連れの女性達とタクシーに乗り合わせた際も、初対面同志の運転手も彼女達もおとなしく乗車してない、どちらかとも無く話しかけ話が盛り上がり、最後には電話番号の交換をする。
日本人にしたら恐ろしい話である、まして女性でもいきなり見知らぬ運転手と電話交換

そして個人レベルでも必然的に“蜘蛛の巣”のように張り巡らされる人間のネットワーク

何せ中国に行くと、来客中でもお構えなしに男女を問わず知り合いの電話への着信の多い事、おかげで当事者の会話は度々中断する。 何と落ち着きの無い文化だ

中国13億人、男女、学生、正規非正規、公務員、未婚既婚を問わず会社等に所属の有無にかかわらず、一方で個人自営業を兼ね、他人の軒を借りつつ、次なる”ホット・スポット(熱烈市場)“にキョロキョロしていると言っても過言ではない。
次郎と劉さんの国際結婚もイタコ商会の山下を端に中国人ネットワークに繋がる産物であり、また次郎のように変に持て余したエネルギーの余っている中年の所業である。

(裁判所の扉開く)
そして、事件は未だに解決されていない。
訴状の下書きは、何度も何度も書き直された、少しでも裁判所での印象を良くしようと。
証拠の書類を訴状に添付し、正月を直に控えた十二月の暮に、次郎は東京地方裁判所に訴状を提出した。
次郎にとって、訴状が受けつけられるか否か?心は薄氷を踏むが如くハラハラしていた。
ズブの素人が書いた訴状を地方裁判所が受けつけるか?
もしも、拒否されたら、その先どうして良いか全くわからない。

しかし、意外にも裁判所の受付の担当官は次郎の訴状に最初から最後まで目を通し、割り印の足らない所だけを指摘し、その場で次郎に修正させ、訴状は受理された。
ついに素人の次郎の訴状が受理されたのである。
これにより、裁判が開始されるのだ。

次郎は人間には不思議な力が有るものだと思う。
今まで弁護士にしか裁判をすることは出来ないと信じ込んでいたが。
確かに劉さんとの婚姻解消のために数冊の裁判関係の専門書の購入、弁護士のカウンセリングを数度受けた。
しかし大事なことは“貫徹しようとする情熱と勢い”なのかもしれない。

きっと難関大学に合格したり、難しい国家試験に合格した人達は困難を>“情熱と勢い”で一日一日少しずつ制覇し続けた人達なのだろう

今回、何故かわからないが、次郎は何時か分らないが、この裁判に勝つ予感がする。
裁判所を出る次郎は久々に、心が晴れ晴れしていた
次郎は、冬の外気に触れ吐く息を白くさせ、思わず“勝つかもしれない”と叫んだ。


(つづく)


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