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城南信金さん、「CSRとしての脱原発」ってどういうことですか? 2/2

2013-07-03 | 原発・核

「節電プレミアム預金」など、金融機関としての新商品を発表

もんじゅ:脱原発のメッセージを出すほかに、じっさいに金融商品もつくられたんですよね。

吉原:はい。2011年5月には、「節電プレミアム預金」「節電プレミアムローン」と、節電に投資したお客さまの金利を優遇する商品を発表しました。

 そして、マスコミのみなさんにもそういったことをアピールしたんです。なぜかというと、それまでほとんど報道されなかったから。つまり、マスコミも原子力ムラの巨額のお金によって支配されていて、報道の自由をみずから失っているという状況だったわけです。

もんじゅ:とくに震災直後は、上の方針で報道できない、ということのほかに、現場で自主規制してしまう傾向もつよかったみたいですよね。

吉原:記者のみなさんは報道したい。でも、会社の方針ということで、上層部が握りつぶしていた、という環境でした。だから、企業として「こういう活動をしているんだ」と一生懸命アピールしてもなかなか取材してもらえないんですよ。

 ツイッターなど、ネットでは多少話題になっても、大手マスコミには出られない。OurPlanet-TV(非営利のネットメディア。独自取材したドキュメンタリー番組を配信している)など、ネット番組では配信してくれましたけど、大手テレビに取材されたぶんは、けっきょくボツになってしまった。

もんじゅ:えっ。ボツになったんですか!?


マスコミに報道してもらうためには、新商品も出すし、変人扱いされてもかまわない

吉原:そこで大手マスコミにたいしてどうアピールするかと考えたときに、新商品を出さないわけにはいかないだろうということになりまして。「節電にからめてこんな商品を出しましたよ」とリリースすれば、記者も書きやすい、報道されやすいだろうと思ったんです。

もんじゅ:なるほど。メディアとして、脱原発というメッセージそのものを取り上げることはむずかしくても、ユニークな商品があるぞ、とニュースにするのならハードルがぐっと下がりますよね。

吉原:ですからあえて、「原発に頼らない、安心できる社会のための商品」と、商品紹介の中にも入れました。するとマスコミの方もしだいに「自分の方針としては書けないけれど、変な奴がいるということなら書ける」という感じに変わったんです。

 記者さんも一計を案じまして、わたしを変人としてあつかえば記事も書きやすいです、と。それならばわたしがドン・キホーテにもなりましょう、ということで協力しました。

もんじゅ:メディアが書きやすい商品を出そうとか、自分が前面に立つことで記事になるのなら、という姿勢は戦略的ですね。

 マスメディアに取り上げられるってすごく重要ですよね。ボクはツイッターから活動を始めたからこそ、すごくそう思います。伝わる人数と安心感が、ネットとはやっぱりぜんぜんちがいますから。大手メディアで報じられることによって、それをみた人たちが原発について話題にしやすくなっていく、というのもひとつの成果ですし。


全店の電力を東電からPPSに切り替えて、電気代も安くなった

吉原:夏の節電をずっとやって、最終的には30%の節電に成功しました。

もんじゅ:3割の節電っておおきいですよね。そもそも震災前に原発でつくっていた電力って、日本全体の3割弱ですから。そのぶんをまかなえてしまう。

吉原:そうなんです。それから、2011年12月には、城南信用金庫全店で使う電力を、東電からエネットというPPSに切り替えたんです。PPSというのは、東京電力など既存の電力会社以外のあたらしい電力会社のことです。

 政府は冬になるとまた「原発を止めると電力が足りなくなる」といいはじめました。そこでPPSから買いましょう、と考えたんです。それなら東電さんも困りませんよね。「足りないというなら、ほかから買えば助かるんじゃないか?」という穏当な話です。しかも、PPSのほうが値段が安いんですよということをキャンペーンさせていただきました。お客さまからもひじょうに注目していただきましたし、そのあとつぎつぎに企業や自治体にPPSブームが広がったんです。

もんじゅ:それにたいして、PPSが売る電力が足りなくなるんじゃないか、という話も耳にしますよね。

吉原:あれはウソですよ。いくらでも電力はあるんです。なぜならば、大手メーカーさんは重油とか石炭をいっぱい持っていますよね。それに、電気をつくるうえでいちばん安いのが石炭火力で、いまは高性能の石炭火力や、石炭ガス化技術が出てきています。

 石炭はいまでも発電方法として世界の主流ですけれど、これからもそれは変わらないと思います。高効率の石炭やガスコンバインド発電もあるし、天然ガス、シェールガスも出てきていますし。電力はつくろうと思えばつくれる。それを足りない、足りない、といっているわけです。


計画停電のせいで、お客さまの町工場では製品がすべてパーになってしまった

>吉原:計画停電という名のもとに、東京・神奈川のほとんどのエリアで停電があったでしょう。わたしどものお客さまも、大変な苦労をされました。

もんじゅ:あれは時間帯もふしぎでしたよね。電力需要のピークがくるお昼時だけやるならわかるんですが、朝とか夜とか電力使用のすくないはずの時間も、順繰りに停電をしていった。いったいなんのためだったんでしょう。

吉原:もう山猫ストみたいでしたね。その結果、わたしどものお客さまの町工場などは、製品がすべてパーになるなど、たいへんな被害を被ったんです。それなのに、そういったことに対して、ひとことも謝罪がない。

 それから、夏はひどいことに、ピーク時の使用量が多い企業に対して、ペナルティを課すというとんでもないことをおこなったわけです。自分たちが事故を起こしたために発電できないのに、ユーザー側にそういったペナルティを課すとはなにごとかと。

もんじゅ:2011年7月1日から9月まで出された、東京電力と東北電力の「電力使用制限令」ですね。ピークの時間帯に、前の年の最大電力量から15%カットした値を超えて電力を使うと、罰金が発生してしまう。


無責任な官僚体質がいやになって、東電離れを決意した

吉原:こういったお役所仕事というか、官僚以上に官僚的なのが電力業界じゃないかと思うんです。道徳観・倫理観がまったくない。

 この無責任主義にたいして、おなじく企業の経営者としておかしいんじゃないかと思うんですよ。経営者だったら「迷惑かけてごめんなさい」って謝るのが筋でしょう。そういったことをひとつもしない態度に疑問を感じます。だからわたしどもとしては、「東電からは電気を買わない、東電離れをしていこう」と決めたんです。

もんじゅ:一般家庭ではむずかしいけれど、企業であれば東電以外から電力を買うことができますもんね。切り替えることで意思を示せます(PPSから電力を買えるのは、使用する電力が「高圧」に分類される消費者のみ。一般家庭は「低圧」のため買うことができない)。

吉原:ところが、電力業界というのはひどいところなんですよ。PPS業界に対して、「安定的な電気供給をしない場合は受けつけない」ということまでやっている。電力を平準化するための業者をつくればクリアできる問題なのに、それをあえてやらない。つまり規制をかけて、絶対にシェアが増えないようにしているんですね。電力業界を擁護するためにPPSいじめをしている。そういったことで、地域独占体制による利益をむさぼっているわけです。


総括原価方式があるから、電力会社は企業努力をしなくなる

吉原:しかも、「総括原価方式」というものがあって、いくらコストがかかっても、すべてそれを消費者に転化できてしまう。

もんじゅ:総括原価方式は、やっぱりいろんな問題のおおもとだと思います。「これだけかかったから、これだけ払ってね」と、かかったコストをぜんぶお客さんに請求できてしまう。絶対に赤字にならないようなシステムなわけです。

 ふつうの企業なら、より安くつくろうとか、競合に負けないようにしようとがんばるのに、電力会社にはそういう企業努力をする必要がないんですよね。むしろ、お金をかけるほど利益が増えるようなところがあるから、原発のような固定費の高い発電方法を選びたくなってしまう。

吉原:東電が計画停電を実施した結果、電力の供給にリスクを感じた大手企業はつぎつぎと自家発電設備を導入しましたよね。だから日本ではこの1~2年で、企業を中心として自家発電設備がかなり増えたはずです。その自家発電設備、あるいは休んでいる発電設備を動かせば、PPSはいくらでも供給能力を増やせるはずなんですよ。

 問題は、それをユーザーのもとまで送るルートを押さえているのがやっぱり電力会社だということ。いくら電力をつくっても、電力会社が運んでくれなければ売ることができない。邪魔してるんですよね。その問題を解決するためにも発送電分離は必要でしょう。


全国の自治体があつまった脱原発首長会議

吉原:2012年4月に「脱原発首長会議」ができました。静岡県湖西市の三上市長から、「ぜひ城南信用金庫の本店で創立総会をやりたい」といわれて、「こちらこそやらせていただきたい」と引き受けました。

もんじゅ:脱原発首長会議はボクも注目しています。総会はここでおこなわれたんですね。知りませんでした。

吉原:この本店に約70の自治体の首長さんたち、社民党の福島みずほさんや、田中康夫さん、共産党の志位和夫さんなど、自民・民主の方も含めてたくさんの方がいらっしゃって、城南信用金庫としてもバックアップしました。

もんじゅ:脱原発首長会議では、これまで原子力に頼ってきた自治体が「もうやめよう」「福島のような事故をくりかえしてはいけない」といっていたり、近隣に原発があるけれど交付金は入ってこない、というような自治体が「リスクだけ背負わされてたまったものじゃない」というように、切実な声が交換されていますよね。


63の全国の信金があつまって、復興をあとおしするビジネスフェアを開催

吉原:脱原発首長会議はあくまでもおてつだいをしたんですが、わたしどもも原発に頼らない安心できる社会をつくろうということで、昨年の11月1日に、東京ドームを貸しきって「日本を明るく元気にする“よい仕事おこし”フェア(http://www.jsbank.co.jp/fair/)」というのをやったんです。

もんじゅ:あ、それ、ボク知っています。東京に来たときに城南信金さんの窓口にいって、そしたらそのフェアのことを詳しく説明してくれたので。

 企業がやっているCSR活動について、窓口の方が一生懸命その意義を語ってくれる、っていうのは意外となかなかないことだと思うんですよ。トップや広報の方がそういうのを語るのはよくありますけど、お客さんと向きあう現場の人が自分のことばで説明してくれるのってとても新鮮でした。それだけそのフェアの意義が社内で浸透しているんだな、とおどろきました。

吉原:そうでしたか! それはうれしいですね。これは、全国の63の信用金庫が共同で開催したビジネスフェアなんです。お取引先の方々とのフェアですね。ただ、わたしどもは「ビジネスライクではビジネスは生まれない」と考えておりまして。

もんじゅ:ビジネスライクではビジネスは生まれない? どういうことでしょう。

吉原:協同組織の考えかたからいえば、社会貢献こそがほんとうのお仕事につながるんだと思って、社会貢献フェアとしてやりました。


ビジネスライクから、ビジネスは生まれない

もんじゅ:社会貢献とビジネスって、一般的にはちょっと逆というか、べつものですよね。フェアではどういうことをされたんでしょう?

吉原:まずひとつは、東北を応援しようと。東北でなくなった方々の鎮魂のためにも、東北の企業、人々を応援しようということで、全国の企業のみなさんに「あつまってください」と呼びかけました。  もうひとつは「原発に頼らない、安心できる新エネルギー社会」をテーマにしたんです。鎌田慧さん、小林よしのりさん、落合恵子さんなど、20数名のさまざまな方が一堂に会して、「原発に頼らなくても世の中はやっていけるんだ」ということを話していただくシンポジウムをやりました。

もんじゅ:復興と脱原発のふたつがテーマだったんですね。

吉原:これは経団連が絶対にやらないことなんです。われわれ信用金庫業界が共同開催する全国的なイベントにおいて、脱原発をテーマにかかげる。そうすることで「経済界だって原発に賛成している人間ばかりじゃないぞ」としめすことがだいじだと考えてやったんです。

 主義主張を超えて、平野復興大臣(当時)にも来ていただきましたし、経産省も後援してくださいました。「脱原発がイヤだから後援しない」なんてことになったらたいへんなことになりますもんね。

もんじゅ:ふだんは原発を進める立場の人たち、脱原発とは口に出せない人たちも、こういうイベントならばということで賛同してくれた、巻き込んだということですね。

吉原:そうなんです。中小企業の方々や、そして協同組織であるわれわれのような金融機関だって、ビジネスをやっていくとともに、社会に対してどう貢献するかということを忘れちゃいけないと思うんですよ。そういうものが、ビジネスマンのあるべき倫理観や道徳観じゃないでしょうか。もともと信用金庫がめざすのは「人間性を回復する経済」なんだ、と思ってやっています。(後篇につづく



転載元
BLOGOS(ブロゴス)
2013年07月03日 07:53
http://blogos.com/article/65122/

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