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ヒガワリテイショク

BGM:Last Dinosaur

焼き肉屋にて

2006-07-03 16:09:33 | 
A「とりあえずビール.生中ね.お前は何にする?」
B「とりあえずと言う単語がビールに対して失礼なので訂正してください.
  何はなくともビールとか,何が何でもビールじゃないと,とか.僕も生中で」
A「塩タン,ロース,カルビ,ミノ,あとキムチとナムルね」

A「本日の議題は焼き肉におけるジレンマについてだ」
B「このネギから左は僕の領土なので侵入しないでください」
A「世界を狭くするな.狭くすれば,哀しさがその中であふれてしまう」
B「夢の世界に入ってる間にタンが焦げてますよ」

A「手塩にかけて育てた肉を食べられたときの絶望を君は知っているかね」
B「今経験しました.ていうか返せ.そのロースは僕のです」
A「愛娘が何処の馬の骨ともしれん男に奪われる様な気分だろう」

A「この様に,焼き肉には常にリスクが存在する.
  手間をかけた肉が他人に食われる可能性だ」
B「だからネギで区画を分けようとしたのに…」
A「土地を分割して治めると言うのも一つの手段だ.しかしそれが最適か?」

B「少なくとも喧嘩は起こらないでしょう.自己責任で焼いて食うんですから」
A「スリルがないじゃないか.恵んで貰ったパンより盗んだパンの方が美味いぜ」
B「リスクがあったときの方が同じリターンでも大きく感じる理論ですか」
A「そうだ.適切なリスクとリターンの設定は全てを面白くする」
B「博打打ちの理論にすぎないとおもいますが.
  リスクがあるなら何もいらない,と言う人もいるんじゃないですかね」

A「そういう人間は最終的に期待値が低いので,負ける側に追い込まれる
  赤ご祝儀アリ雀荘における棒テン即リー全ツッパ理論だ」
B「リスクを見切ってつっこめる方が勝つ確率が高いと.現実にご祝儀はないですがね」
A「石橋を叩いてる間に泳いでわたるヤツがいる,ってことだな」

A「つまるところ,ある程度のリスクを許容しつつリターンをかっさらうのが,
  爽快で面白いというだけの話なんだけどね」
B「結論はベタですね.現実に良くマッチするモデルだとは思いますが」
A「それだよ.それで肉を混在して焼くことが肯定されたわけだ.
  んじゃシメにビビンバいっとこう」

倫理とは

2006-05-10 03:12:09 | 
A「倫理委員会って,いったい何を基準に結論を出してるんでしょうね」
B「卑小な思いこみだ.偏見と妄想とも言う」
A「せめて道徳や常識や倫理といってくださいよ…」

B「倫理盲という言葉を知っているか?読んで字のごとく倫理を理解できない人間だ」
A「そいつはただ非常識なだけなんじゃないですか?あなたのように」
B「常識は思考の枠になるだけだ.非常識こそ美徳」

B「倫理というのは,簡単に言えば何をして良くて,何をしてダメかを判断する事だ.
  例えばそこら辺の道を歩いてる人間に殴りかかってはいけない.なぜかわかるか?」
A「そんなの当たり前でしょう.決まっています」
B「答えは返り討ちに遭うかもしれないからだ.戦力分析は慎重にな」

B「先ほどの答えで言えば,当たり前だと思わせているのが道徳であり倫理だ.
  それは社会的不利益行動の歯止めとして存在する防衛機構.
  物言わぬ調停者.目に見えず,しかし常に我々を縛りまた守る者」
A「あなたはゲーム脳だから歯止めが効かないんですか?」
B「既にゲーム脳だからその判断はできんよ.
  まぁ,言わんとしたいことはわかっただろう.倫理とはそう言うものだ」

A「つまり,社会的な利益と我々の利益を結ぶ存在であると」
B「既に答えがわかっているような口ぶりだな.まぁいいが.
  社会的におぼれる子供を助けることは有益だが,自分の危機という障壁がある.
  それを嬉々として乗り越えるために社会がバイアスをかけているわけだ」
A「人間は道徳が無くてもおぼれてる子供を助けますよ」

B「そうであればいいんだが.全員飛び込むならそもそも道徳なんて概念はないだろう」
A「道徳という概念があると言うことは,完全に浸透はしていないと」
B「そうだ.空気の中で空気の存在に気づかないように道徳が完全であれば話題に上らん.
  だからこそ,我々は道徳教育をせっせと子供に仕込むわけだ.
  他人のいやがることを進んでしましょうとマチコ先生も言っていた」

B「倫理盲というのは,つまりこの倫理を理解できない人間だ.
  道徳の存在を軽々と無視して考慮に入れないやつだな」
A「街を歩いてるとそこら中にいそうですが」
B「程度問題だ.道徳はきつめに作られているから,少々ゆるめた方が良いのさ.
  我々は超人だから,そこらへんの例外事項は勝手に体得するわけだな」

A「じゃあ,倫理盲の人はどんな人なんですか?」
B「普通の人間と変わらんよ.基本的な行動自体は.ただし彼らが法に従っている間はだが.
  彼らはメリットがデメリットを超えたら躊躇無く人を殺せるというだけだよ」
A「十分異常だと思います」

B「戦争とかを考えればわかるが,トリガーを引くときに葛藤するかどうかだけだよ」
A「銃が人を殺すのではない.殺意が人を殺すのだ」
B「もっとも,普通に社会生活を送る上でメリットがデメリットを上回ることはそうそう無いが.
  法律という物はこれでなかなか不備も多いが良くできているのだよ」

A「そう言えば,先ほど倫理委員会からヒトクローン培養への警告書が届きました」
B「馬鹿な奴らだ.なぜクローンを作ってはいけないのか,という点に触れてない.
  クローンを作るメリットはあるが,デメリットはほぼ無いというのになぜ怒るんだか」
A「なるほど.これが倫理盲ですか.駄目な物は駄目,という話に納得できないのですね」

B「それで納得するなら親のしつけにビンタはいらんよ.ん,何だね,その銃は」
A「ベタなオチですがね.あなたへのビンタだと思ってください」
B「ふん,今更か.撃っても良いが,臓器が傷ついたら俺のクローンからちゃんと移植してくれよ?」

或る冬の日

2006-02-05 05:45:14 | 
A「子供の頃,将来何になりたかったですか?僕は宇宙飛行士だったんですが」
B「俺は…いや,もう忘れてしまったよ」

B「俺はね,逃げたんだよ」
A「何からです?」
B「自分の可能性から」

A「昔は,なんだか自分が万能であると思っていたものです.
  何処までも走っていけると思ってたり,大きな水たまりを躊躇せず飛び越えたり」
B「あのころはまるで夏休みが無限に続くようだったな」
A「でも,大人になるにしたがって,その万能感は失われていったんです.
  自分が特別な存在じゃなくて普通の人であることがわかってしまった」

B「玉にあらざる事を恐れてそれを磨かなかった結果というわけだ.
  今考えれば立派な原石だったかも知れないのにな」
A「磨けなかったんだから,結局玉じゃなかったんですよ」
B「それは慰めになるのかな」

B「俺の友人が言っていたよ.大人に夢を見せられすぎたと.
  子供の頃,何故大人は諦めると言うことを教えてくれなかったのだろうな」
A「彼らもまたそうやって大人になったからでしょう.
  自分と同じ絶望を味あわせてあげたいという愛情ですよ」
B「そして最近の若い者は,か.人間の進化は止まっているな」

A「大人になると言うことはそういうことなのでしょう.
  つまり,夢を忘れられるということです」
B「俺は立派な大人になれたってことか.教育ってのは全くありがたいね」
A「もしかして大人になんかなりたくなかった,とか思ってません?」

B「よし,実験終了だ.飯食いに行くぞ,飯」
A「また学食ですか.水曜日はチキンカツカレーとカツ丼の二択ですね」
B「裏をかいて野菜炒めだな.健康のために.まぁ,気休めだが」

哀しくて美しい話

2005-10-02 00:26:08 | 
場面だけを覚えているがタイトルを思い出せない話がある.
本当は,もっと美しい表現で,もっとぞっとする表現だった気がする.
本で読んだのか,誰かから聞いたのか.それとも自分で考えたのか.
それすら定かでは無いので,どなたかこの話を知っていたら教えてください.


ある旅の男が,廃村を歩いている.
男はうっかり井戸に落ちてしまう.
井戸は深く,既に枯れ,足場はない.抜け道もない.

光がささない井戸の底,男は自分に迫る緩慢な死を思い絶望する.
男は空が青から黒に変わることで夜が来たことを知った.
男がまどろんでいると,不意に男の顔に光が当たった.

月が,井戸の口を覆っていた.
一直線にさし込む月の光が井戸の底を照らしていた.
井戸の底には,一輪の儚い花があった.

それは月の光の中,たった一輪の青白い花を微動だにせずに咲かせていた.
月の光は角度を変え,男は徐々に闇の中へ.

一日に一度だけ差し込む月の光.たった5分の花との出会い.
二日が過ぎ,三日が過ぎて,光の角度が変わっていく.

四日目に満月が来た.

青白く輝く井戸の底.
寝ころんで花を横目で見ながら,男はつぶやく.
「ロマンチックやなぁ…」