相続税の節税になると話題の「配偶者居住権」を解説します。
●配偶者居住権とは?
所有権を「住む権利」と「その他の権利」にわけて住む権利のみを生存配偶者が相続できるとした権利。被相続人の所有していた住宅に住んでいた配偶者について、原則としてその配偶者が亡くなるまでの間、原則無償で利用し続けることを認める権利で、所有権より限定された利用権である。
●新しい権利ができた背景
残った高齢の配偶者を住んでいた家から追い出すようになるのは酷ではないか?という意見をもとに相続法を改正して住む権利を守ろうとしたことによりできた権利である。
●配偶者居住権が認められるための要件
①遺産分割協議の結果、配偶者居住権を取得するものとなった場合。
②遺言などにより配偶者居住権を与えるものとなった場合。
●配偶者居住権が認められないケース
被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の第三者と共有していた場合は配偶者居住権は成立しない。
●配偶者居住権の登記について
居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。また、配偶者居住権の設定登記には、対抗要件としての効力がある。配偶者居住権を登記していれば、建物の所有権が居住建物所有者から第三者に譲渡されても、当該第三者に対して配偶者居住権を主張できる。
要は金融機関が抵当権を設定して実行し第三者に譲渡された場合においても配偶者居住権を主張することができる。
●配偶者居住権が認められなかった場合は?
配偶者は配偶者居住権が認められなかった場合でも、相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいた場合には、相続開始後最低6か月間は、居住建物を無償で使用する権利を取得する。
●なぜ配偶者短期居住権が併設されたのか?
配偶者が前所有者と同居していた場合には、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用賃貸借が成立していたものと推認される。ただし建物を取得した第三者からの退去請求などを拒むことはできなかった。
このことを解消するために相続法改正により短期居住権が認められた。
●配偶者居住権とその他の権利について
△その他の権利の売却は可能
△配偶者居住権の権利期間については設定ができる
△必ず法務局に申請して不動産の登記が必要となる、登記は建物にしかできない、土地には登記できない。
△配偶者居住権は配偶者の死亡または設定期間の満了により権利が消滅する。消滅した後は基の所有権に戻る。
△配偶者居住権の売買はできない。
△夫と妻の共有名義の場合となっているようなケースでも配偶者居住権の設定ができる。夫と妻以外のものが共有となっている場合には設定できない。
●固定資産税及び修繕費の負担について
固定資産税は、所有者に課税されるため、配偶者居住権を取得した配偶者に対して直接課税されることはない。
ただし改正相続法では、配偶者居住権を取得したものは建物の通常の必要費を負担することとされている。
よって建物の固定資産税などの公租公課を所有者が支払った場合には配偶者居住権者に請求することができる。
小規模修繕については配偶者者居住権者負担すべきあり大規模修繕については、所有権の価値を高める又は保全する観点からその他の権利を取得したものが負担すべきとしている。
●配偶者居住権の相続と贈与について
居住権には財産価値があるため、配偶者居住権を設定した際には相続税の課税対象となる。ただし配偶者居住権をもつものが亡くなった場合、権利自体が消滅するという考え方のため相続税は発生しない。二次相続の際の税負担は発生しないこととなる。但し注意が必要なのは居住権を途中で放棄したりその他の権利をもつものとの間井の合意によって居住権を解除した場合には贈与があったとみなされ贈与税が課税されることとなる。
●配偶者居住権の評価について
その他の権利を計算して評価額から差し引いて算出する。
※評価の詳細については税理士さんのご相談ください。
「横山専務のコメント」
この制度が注目されているのは、配偶者居住権の相続が発生した場合(2次相続の場合)、所有権の相続と違って相続税がかからないことにあります。
これはとても良い法律改正と感じた方もいらっしゃると思いますが、一方でこの改正が大きな問題を2点はらんでいます。
1つは配偶者居住権をもつものが途中で老人ホームに入所する目的などを理由に権利を放棄した場合であってもその他の権利をもつものへ「贈与税」が発生してしまうこと。
一旦は節税効果があるという理由で居住権を設定したものの、贈与税がかかることとなれば返って増税となってしまいます。
制度趣旨は残された高齢の配偶者の居住権を守る目的ではありますが・・・釈然とはしませんね~。
2つ目は先に登記された抵当権などの担保権を侵害してしまうことです。
ある税理士さんの見解だと銀行は今後融資の際に配偶者居住権が設定されることを前提に担保価値を評価すべきであると見解を述べています。
配偶者居住権が設定されることを前提として担保価値を評価したすれば若い人達がフルローンで住宅ローンを組むということが難しくなることが予想されます。
また配偶者居住権のついた不動産の売買は実質できないのと一緒なので市場価値が極めて低い価格となることが予想されます。
まだ法改正が施工されるまでに時間がありますので情報を集めて成り行きを注視したいと思います。