【貴重な高層湿原とブナの森が広がる福島県会津大沼のケース】
『風力発電計画撤回、南会津町長も要求~事業者の日立造船に』
報道によれば、南会津町長は、「自然保護や防災、住民生活、観光分野に関わり、地域経済への悪影響も懸念される。計画は認められない」と述べ、事業者の日立造船に白紙撤回を求めていた。町は2019年にも計画を断念をするよう伝えていたという。計画検討エリアには、国指定天然記念物の駒止(こまど)湿原、博士山(はかせやま)鳥獣保護区、舟鼻山(ふなはなやま)周辺には貴重なブナ林が広がっている。
写真上:国指定天然記念物「駒止湿原」標高1100mの高層湿原(引用:南会津町観光物産協会H.Pより)
自然保護団体からは、「会津山地緑の回廊の分断を引き起こし、イヌワシとクマタカ、渡り鳥のノスリやハチクマなどがバードストライクの恐れがある。さらに、風車建設のために保安林を解除し、森林伐採、土地の改変を行うことは、自然環境保全と防災上で大きな問題がある。」と意見書を提出していた。また、猛禽類保護団体からは、「風車の位置や基数の変更等の小さな対策によって、イヌワシの衝突死を回避すればよいという考え方は適切ではなく、再生可能エネルギー促進のために犠牲にしてよい場所ではない。配慮書の段階で中止すること。」という厳しい意見が提出されていました。
本風力発電事業は、完成すれば発電出力最大18万3千キロワット(約40基)と日本最大級であったが、2022年8月、日立造船は「会津大沼風力発電事業」について、経産省へ事業の廃止を発表した。
【三重県津市青山高原のケース】
~異例の建設途中の事業中止!~
環境アセス手続きが必要でない規模のため、事前の説明がなかったことに近隣住民が計画に反発。事業者は工事中断を余儀なくされた。
2018年、事業者の住友林業は、津市白山町に所有する私有林と借地の計6ヘクタールを開発して、高さ121mの風車4基を2020年7月に着工した(2022年3月の営業運転開始目標)。2021年10月、住民団体が事業計画の取り止めを求め、抗議文を住友林業に送付。県知事と津市長に反対署名を提出した。事業者は2021年11月に2基目の建設段階で工事を中断し、2022年4月から住民説明会を開くとともに、要望を受けて環境アセスの追加調査をした。
標高500mほどの山に立つ風車は、景観を壊すことや、風車の発する騒音・低周波音により、健康被害が起こることに加え、風力発電建設が秘密裏に進められたことに周辺住民が強く抗議をした。事業者は2022年11月の自主環境アセスの調査結果を踏まえ、「騒音が想定を超える可能性が高く、環境への影響、事業性を総合的に勘案した」とのことで、事業を取り止めることになった。すでに建設中の2基の風車は撤去する方針という。「騒音による計画中止は珍しい。撤去の方針まで示したのは賢明な判断」と自然保護団体はコメントしている。(「反対する住民の会」の発表より)
【ブログ作成者から一言】 自然環境への影響と人の健康への影響を理由に事業を中止した事例ですが、当該地区の住民の皆さんの問題意識・危機意識の高まりが中止に追い込んだと言えます。風力発電がまだ少なかった20年前に比較すれば、“環境にやさしい風力発電“ も簡単には受け入れられなくなったようです。CO2を出さないクリーンな風力発電のイメージも、悪くなっているかもしれません。今後は人への影響などが少ない洋上風力発電が増えていくことでしょうが、四方海に囲まれた我が国であっても、どこにでも計画できるわけではありません。航路や漁業の邪魔にならないこと、優れた島の景観の邪魔にならないこと、海鳥や魚類、海棲生物に影響を与えないことなど、課題が多いです。誘致する自治体が管理する港湾区域に計画が集中するのも問題です。遠く離れた海上では、生物への影響把握が困難なため、それをいいことに、対策の検討をしない懸念もあります(北九州市沖がそのいい例です)。気が付いたら、魚が少なくなった、海鳥もいなくなったなんてことにならないように、適正な洋上ゾーニングを早めに設定しなければなりません。さらに、計画が妥当かどうかのアセス(問題がある場合は計画を撤回させることができる)の法整備を急がねばなりません。生物多様性・SDGSが “絵に描いた餅” にならないようにです。