六十年の恋
俺の初恋の人は こんなババァじゃねぇ!
人生の示唆に富んだその台詞は
男にとっても女にとっても
皮肉で残酷で悲哀に満ちている
一学期の雨の日
紺色の制服姿の貴女は
赤いタータンチェックの傘を差していた
夏休みの日
白いブラウスの制服の貴女の顔は
陽に焼けて小麦色だった
二学期の秋の音楽祭の夜
タータンチェックのギターケースを下げてた貴女は
僕の知らない誰かを待っていた
冬休み 積雪の残る京都の日
貴女がはおった白いオーバーの裏地は
赤いタータンチェックの模様だった
三学期の雪の舞う朝
タータンチェックのマフラーの貴女は
誰かと一緒に下校して行った
まだまだ寒い早春の朝
卒業式の日から 六十年以上経った朝
枯れた花を付けたそのままの枝が
昨夜の風に千切られて
また吹き寄せられる
老人が思う貴女は
六十年前のあの頃の少女でしかない