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山之上もぐらの詩集

山之上もぐらの詩集

畠を耕そう

2025年05月18日 | 日記

 畠を耕そう

世界は無法なのだ
正義など幻想なのだ

悪魔があってこそ 神が存在しうるように
敵があってこそ 味方が在るのだ
敵が崩壊すれば 次はその味方が敵となる

剣であろうがペンであろうが 力は常に暴力なのだ
強者にとっても弱者にとっても 暴力は常に正義の仮面を付けている

ある者は被害者として涙を流し 哀れみと憐れみを乞い
実は巧みに蓄えを金の指輪に変え より強い暴力の側に紛れ込む
ある者は仮面の正義に殉じ 戦場に野ざらしのまま
名誉な勲章を授与され立派な墓に祀られ 残された家族は恩給の恵みに感謝する
ある者は仮面の正義の正体に気付き 真実を訴え反抗を企て
裏切り者やスパイとして粛正される
ある者は仮面の正義に傅き 愛国と正義の名の下に
暴力の経営に加担し略奪の分け前にあづかり 私腹を肥やす
ある者は真実と現実から目を背けるために より強い酒とクスリにすがり
己の理性を呪い酩酊させ麻痺させる
ある者は我が身の滅びに気付き 一人でも多くの同行をもくろむ

それは 帝国の頂点に立つ独裁者であろうが 
浮遊するドローンの直下にいる戦場の一兵卒であろうが
没落した都会のガード下にたむろするホームレスの若者であろうが
従業員の給料支払いや資金繰りの窮した かって羽振りの好かった経営者であろうが
ローン返済に行き詰まった家の 暖かい四人家族の主人であろうが
違いはないのだ

彼らの正義は 正義というより強い暴力によって滅ぼされる
その正義も やがてまた別の正義に滅ぼされる
滅ぼされる者は 悪名と醜い仮面を着せられ
より美しく堅固に 正義という幻想を飾り立てる

正義という幻想に意味はない
せめて私たちは
戦争をやめて 畠を耕そう


慰め

2025年04月23日 | 日記

    慰め

どんなに惨めな思いをしたことか
どんなに寂しい思いをしたことか
どんなに辛い思いをしたことか
どんなに悲しい思いをしたことか
どんなに悔しい思いをしたことか
どんなに恥ずかしい思いをしたことか
どんなに苦しい思いをしたことか

あなたは知りもしないし思いもしない
それを昔の切ない思い出として
今の自分から切り離すのは
あまりにもかわいそうな自分への裏切り
それはあなたの仕打ちよりも
もっと残酷な自身への仕打ち

あなたは思い出しもしないし
そんな事があったことさえ記憶にとどめていない
それを昔の美しい思い出として
今の自分の中で昇華してしまうのは
あんなに一途な思いで悩んだ自分への冒涜
それはあなたの忘却よりも
もっと無慈悲な自身の忘却

それはさらに自分を惨めにさせる
それはさらに自分を寂しくさせる
それはさらに自分を辛くさせる
それはさらに自分を悲しくさせる
それはさらに自分を悔しがらせる
それはさらに自分を恥ずかしがらせる
それはさらに自分を苦しめる

どんなに惨めな思いをしたことか
それを忘れないことが
かわいそうな自分への慰め
いつまでも忘れないで
今の自分と分かち合うことが
惨めだった自分への慰め


二〇二五年の人類の進歩と調和

2025年03月27日 | 日記

二〇二五年の人類の進歩と調和


一九七〇年を頂点とした人類の進歩と調和は
二〇二五年の今 まさに人類の退化と混乱の渦中にある

人類の歴史が進化し続けている幻想と錯覚から
人類は目覚めはじめ そして戸惑っている

一九七〇年 我々は人類の争いと混乱は人類の進歩と調和によって
改善されて行くものと信じていた
反戦のフォークソングを歌い 一票を投じ
真面目に仕事を続ければ
少しずつでも ゆっくりとでも
やがて改善されてゆくものと信じていた

世界大戦が終わり 戦後の復興がようやくなっても
世界戦争は形を変え継続し 
紛争という小戦争が世界中至る所で起こされ 
止むことなく拡大し続けている

一九七〇年
国の威信をかけた巨大なパビリオンに
列を成して多くの来場者を集めていた多くの国が
二〇二五年の今 その名声を失いそして衰亡している
企業の未来とその製品を消費者にアピールしていた幾つもの企業が
二〇二五年の今 すでに倒産してそのブランドとともに姿を消している

一九七〇年の日本の大阪万博を体験し
そして今二〇二五年までの日本の歴史を 私は体験してきた

その体験は 私という個人の体験にすぎないのではなかった
その体験は 私という日本人の体験にすぎないのではなかった
その体験は 日本の時代の変化にすぎないのではなかった
その体験は 世界の時代の変化にすぎないのではなかった

それは一九七〇年を頂点とした人類の退化と混乱の歴史であったのだ
そしてそれは 人類の普遍的な営みの姿にすぎなかったのだ
人類の業の姿にすぎなかったのだ

二〇二五年の今 私は思う
太陽の塔における生命樹の一枝にすぎない人類の進歩と調和を
やがて枯れ落ちる一枝にすぎない人類の進歩と調和を

 


六十年の恋

2025年03月26日 | 日記

六十年の恋


俺の初恋の人は こんなババァじゃねぇ!

人生の示唆に富んだその台詞は
男にとっても女にとっても
皮肉で残酷で悲哀に満ちている

一学期の雨の日
紺色の制服姿の貴女は
赤いタータンチェックの傘を差していた

夏休みの日
白いブラウスの制服の貴女の顔は
陽に焼けて小麦色だった

二学期の秋の音楽祭の夜
タータンチェックのギターケースを下げてた貴女は
僕の知らない誰かを待っていた

冬休み 積雪の残る京都の日
貴女がはおった白いオーバーの裏地は
赤いタータンチェックの模様だった

三学期の雪の舞う朝
タータンチェックのマフラーの貴女は
誰かと一緒に下校して行った

まだまだ寒い早春の朝
卒業式の日から 六十年以上経った朝
枯れた花を付けたそのままの枝が
昨夜の風に千切られて
また吹き寄せられる

老人が思う貴女は
六十年前のあの頃の少女でしかない


シャーカ国の王子のように

2025年03月25日 | 日記

シャーカ国の王子のように

家は滅びる
国も滅びる

何十代続いた家も滅びる時が来る
何十代蓄えた富や権威も
何十代重ねた善行も施した恩も
何十代重ねた悪業も買った怨みも その家と血筋に蓄えられる
そしてその家と血筋がその業を負い そして償い尽くす
償い終えて家は滅びるのだ

シャーカ国は滅びた
シャーカ国の王子はその血筋と業を負って 
その最後を見届けた
そして往生菩提を遂げた

十代を越えて続いた父方の家も絶えた
十代を越えて続いた母方の家も絶えた
何十代続く家もやがては絶える
何百代続く名家もやがては絶える
何千年続く王朝もいずれは絶える

日本はとっくに滅びていた
日本は何度も滅びていた
我々は日本の幻想を見ていたに過ぎなかった

間もなく滅びようとする自分の肉体に
間もなく滅びようとする自分の魂に
家の血筋と業を負って往生菩提を遂げようとする自分に
何の未練の幻想が 何の来世の幻想があろうか
弥陀の姿も極楽の景色も 何の望みの幻想があろうか
閻魔の姿も地獄の景色も 何の恐れの幻想があろうか

自分はシャーカ国の王子のように
幻想の国の滅びるのを見ながら
肉体の苦痛にあえぎながら 苦しみな死ぬのだ